「日本は寒いね。タイはとても暖かいところだから、僕たちにとってはつらいよ」

 埼玉スタジアムで行なわれた、ロシアW杯アジア最終予選の日本戦を取材に来ていた「タイ最大の代表サポーターサイト」(本人談)である『Cheer Thai Power Web』の通称「ミスター・ビッグ」氏は、そう言って大きな体を震わせた。しかし実際に試合が始まると、温暖な東南アジアからやってきた熱いファンたちは、寒空の下で半裸になってチームに声援を送り続けた。時間の経過とともにタイの勝機は薄くなっていったが、上半身の衣類を脱ぎ捨てる人の数はむしろ増え、彼らは最後まで「戦う象たち」(同代表の愛称)を後押しした。


今夏に札幌に加入する、タイ代表のチャナティップ(左) 微笑みの国は、近年のアジア・サッカー界で最も成長を遂げている国のひとつだ。今回、ワールドカップの最終予選に初めて残り、同国ではこのスポーツへの関心が高まり続けているという。

「20年前の日本と同じ夢を持っている。我々もいつかワールドカップに出場したい」と試合前日の会見でキャティサック・セーナムアン監督は笑顔で語った。

 この日の敗北により、今回は残念ながらその夢が途絶えてしまったが、「(日本との対戦から)選手たちは多くのことを学んだ」と指揮官は振り返った。実際に何を得たのか、タイでは「ジーコ」と呼ばれる43歳の指揮官とフランス生まれの右SBトリスタン・ドオに、会見後のミックスゾーンで話を聞いた。

「(日本代表の)技術や戦術はもちろん、選手たちの責任感の強さに感銘を受けた。欧州で日常的にプレーする、いわばスター選手たちが攻撃にも守備にも懸命に走る。それから、強靭なメンタリティーも我々が見習わなければならない部分だ」

 監督は帰りを急いでいたのか、歩きながらの対応ではあったが、こちらの目をじっと見て話し、語り終えた後にはニコリと微笑んで去っていった。

 タイ人の父とフランス人の母のもとにパリで生まれ、ストラスブール(現在はフランスリーグ2部)の下部組織で育成されたドオは、世界中の選手や監督がよく口にするフレーズから話し始めた。

「これもフットボールさ。今日の内容は自分たちの最終予選の中でもベストのひとつだったけど、結果は0-4の大敗。悔しいけど、あらためてフットボールの難しさを感じたよ。日本は偉大なチーム。最終局面のクオリティの差が結果に表れたね」

 この24歳が日本から学んだのは、「リーダーシップ、責任感、チームワーク」。そして最も印象に残った選手は「岡崎」だという。

「彼は、プレミアリーグという最高のレベルを肌で知る選手だ。フィジカルが強くてしっかりとボールをキープできるから、チームの攻撃の起点として機能していたよね。もちろん、(日本には)ほかにもいい選手ばかりだよ。クオリティの高い選手がハードワークするのだから、まいっちゃうよね。アジアでベストのチームのひとつであることは間違いない。対戦した僕が言うのだから、信じていいと思うよ」

 フランス訛りの英語を話す彼もまた、敗戦後にもかかわらずきちんと取材に応じ、微笑みを忘れなかった。「フットボールにおいて、タイはまだ若い国だ。今日のような試合で得た貴重な経験を生かして、もっともっと成長していきたい」と締めくくった。

 タイは元々、イングランド・プレミアリーグの中継を熱心に観る人の多いサッカー愛好国である。ここ10年ほどの経済的な発展により、成功を収めた企業や実業家がサッカーへ本格的に投資を始め、その成果がスズキカップ(東南アジアサッカー選手権)の連覇と今回の最終予選進出という形で表れている。

 スマイルを欠かさない人々を見ていると、闘争心には疑問符がつくような気もする。しかし歴史上、東南アジアで唯一、欧州列強からの独立を守り続けてきた国には「知恵」がある。経済と同じく、彼らのサッカー代表チームの成長もまだ続いていく可能性は十分にあるだろう。

 最後に、この夏に北海道コンサドーレ札幌へ加入する「タイのリオネル・メッシ」こと、チャナティップ・ソングラシンが試合前に語ってくれたメッセージを伝えておきたい。

「僕たちはまだ成長の過程にある。最終予選も初めてだし、アジアのトップレベルがどういうものかということを、身をもって経験しているところだよ。タイのサッカーは急成長している。タイの代表やクラブを侮る相手もいるけれど、我々はすごい勢いで成長しているので、気をつけたほうがいい。

(夏から)Jリーグでプレーすることを楽しみにしている。それは僕の最大の夢のひとつだったからね。僕はすでに札幌のサポーターだよ。1月に来日した時にチームメイトに会ったけど、すごくフレンドリーでナイスな人たちだった。本当に楽しみだね」

 いつの日か、彼らがアジアにおける日本代表の真のライバルになるだろうか。

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