代表で初めてのボランチ起用に、酒井高は四苦八苦していたようだった。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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[W杯アジア最終予選] 日本 4-0 タイ/3月28日/埼玉

 タイ戦は4-0での完勝だったが、相手が14本放ったシュ-トやPKが決まっていたら、もっと慌てた試合になっていただろう。日本の選手もそれを自覚しており、4点取れたが内容的には反省が多い試合と皆が口を揃えてそう語った。
 
 酒井高徳も厳しい表情でこう言った。
 
「やれた感ないっすね」
 
 そう言うのも無理はない。
 
 本職はサイドバックだが、試合前日に急遽ボランチに指名された。長谷部誠がUAE戦前に怪我で離脱し、キャプテンの代役としてUAE戦で獅子奮迅の活躍した今野泰幸は試合後に足の小指を骨折して離脱。郄萩洋次郎も負傷離脱した。ボランチが欠員となり、タイ戦前に遠藤航が緊急招集されたが、ボランチで起用されたのは酒井高だったのだ。
 
 いつもはサイドラインを背にして180度の 世界しか見ていないが、ボランチは360度が 戦場になる。視野がサイドバックとはまるで異なる現場に「恐怖感みたいのがあった」という。クラブではボランチの経験(27試合中11試合)があるものの、日本代表では初。もちろん山口蛍とのコンビも初めてだった。
 
「蛍とは、特に前もって話をすることはなかったです。ボランチとしてやっていることは、つなぎの部分はクラブと代表では違うけど、守備の部分はだいたい一緒だったので、試合中に声を掛け合って修正していこうという感じでした」
 
 ハリルホジッチ監督からは「攻撃に絡んでほしい。シュ-トを打て」という要求があったという。しかし、ミスが許されないので最終ラインからのパスをうまく受けられず、ボ-ルを奪った後の展開や縦パスを入れる回数も少なかった。
 
「ボ-ルを触っていたし、動かしていたよう見えるけど、相手は恐くなかったと思う。このくらいの相手ならワンタッチとか縦に入れるパスとかをもっとやったほうがよかった。横と後ろへのパスが多かったのが反省点です。あと、真司(香川)くんと話をしていて、もうちょっと落ち着かせるような時間を作らないといけなかった」

 攻撃を上手くオ-ガナイズできなかったが、守備でも球際に強い酒井高らしさがやや欠けていた。中途半端にいく分、タイのトップ下を止められないなど個人戦では劣勢に回り、2点目を取った以降は自分たちの背後にできた広大なスペ-スを埋め切れず、四苦八苦していた。
「蛍が前にいけば自分が残るというのはできていたんですが、攻められてからカバ-できないほどのスペ-スがあった。ボランチがそこを埋めるには、ただ走ればいいんだけど、自分のポジションを留守にするのは難しいので、そこはボランチとしてというよりもチ-ムとしてどう対応するのか。ボ-ルの取りどころをしっかりと意思統一していかないと。個人的には取り切りたいボ-ルを取れなかった」
 
 酒井高の口からは次々と反省の言葉がもれてくる。彼の肩を持つわけではないが、そもそもワールドカップ最終予選の大事な試合でボランチという難しいポジションを、クラブでプレ-しているとはいえ、代表で初めての選手を起用する側に問題がある。遠藤をタイ戦前に急遽招集したのは、いったい何のためだったのか。未招集のボランチで言えば、永木亮太もいただろう。
 
 酒井高には非常にプレッシャ-のかかる重い試合だった。試合に勝ったから良いものの、ボランチでミスして、それが敗因になり、その評価で代表落選になる可能性だってある。
 
 仮にそうなった場合、本職ではない、とやりきれない気持ちになっていただろう。
 
「(今後もボランチは)やれと言われたらやりますし、良くしていきたいと思う。縦への意識はサイドバックでも非常に重要になってくるんで、視野の確保の仕方や、前を見る判断のスピ-ドを高めれることができれば、どっちのポジションにも有効になると思うんでビデオを見て修正し、しっかりやっていきたいです」
 
 いつもは時々、笑みを浮かべながらプレス対応するが、終始表情が硬かった。
 
「ボランチはハセさん」というように、酒井高のボランチというオプションは、今回のような緊急事態でもない限り、採用されることはほぼないだろう。

 酒井高の存在が他のボランチの選手に刺激を与えることになったかどうかも微妙なところだ。だが試合に勝ち、最低限の仕事をこなした。久保裕也らの活躍が刺激になり、ボランチでプレ-したことで改めて長友佑都から左サイドバックのポジションを奪う気持ちに火がついた。それはドイツに持ち帰るには悪くない手土産になったはずだ。

取材・文:佐藤俊(スポーツライター)

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