「酒井高徳にみる疑問点・・・日本代表は本当にこれで良かったのか?」

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3月28日に埼玉で行われたタイ戦。その結果はご存知のことだろうが、皆さんはどのような印象をお持ちだろうか?

試合後に「内容は良くなかったが、勝ったので良し」と語る選手が多かったように、「結果良ければ…」という表現が相応しいゲームであった。

その結果として、今回の日本代表のパフォーマンスについては各方面で様々な感想が上がっている。もはやお決まりの風潮ではあるが、「やっぱり本田はいらないんじゃないか?」「川島を見直した!」「久保のチームになってきた」とポジティブ、ネガティブ問わず多種多様な意見が飛び交う。この雰囲気は見ていて楽しいものである。

さて、少し前書きが長くなってしまったが、今回のコラムでは筆者が代表戦を見ていて感じた一つの疑問点について深く切り込もうと思う。

それは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が決断した酒井高徳のボランチ起用についてである。

「いや、良くないでしょう。良かったことはチームが勝ったことぐらいですかね」

今野泰幸の戦線離脱により、急遽ボランチで起用されることになった酒井高徳。スタメン発表時までは「HSVでこのポジションを任されているので大きな不安はない。長谷部誠の穴埋め役は彼が適任」と楽観的に捉える見向きもあったようだ。しかし蓋を開けてみれば、問題点が多く見られる結果となった。彼は試合後上記のように反省の弁を口にしたが、その自己分析は正しいものと言える。

何故このような結果に終わってしまったのだろうか。

「山口蛍との急造ボランチにはそもそも無理があったから?」
「クラブで同じポジションを務めているとはいえ、その役割に大きな差があったから?」
「試合中に修正するほどの余裕がなかったから?」

理由を突き止めるのは一筋縄ではいかないだろうが、彼が露呈した問題点はあまりにもわかりやすかった。

まず攻撃面では、チームに停滞感を生む一つの要因になったことを取上げざるを得ない。

簡単なミスが気になったためか、時間が経過するにつれて縦パスのチャレンジやパス&ゴーからの飛び出しなどが減少。代わりに、DFラインへのバックパスやボランチ同士の非効率な交換ばかりが増え、前線の選手からすると「何故パスを出さないんだ」とイライラするシーンが目立った。また、DFラインからパスを受けてもタイのプレッシャーでターンが上手く出来ず、最前線へのくさびや裏のスペースを狙えるようなシチュエーションもほとんどなかった。

サイドチェンジを織り交ぜてプレッシングをかいくぐろうとする姿勢が見られ、欧州での経験で培った判断力も感じさせてくれたが、いかんせんパスワークで攻撃のリズムを作りだすことは得意としていない。長所にないところで期待しすぎることは問題だが、「何か変えないといけない」と懸命に働く姿はどこか辛そうにすら見えた。

むしろ思い切って山口蛍を前に上げ、彼はアンカーに近い形の動きに専念したほうが良かったのかもしれない。しかし、ピッチ上で大きな決断をするには時間と勇気が少しばかり足りなかったのだろう。

いずれにせよ、攻撃面についてはとにかく物足りなかった。

急造ボランチということで、自己主張がしにくい環境であったのは確かだ。だがキャプテンである長谷部誠が不在の中、酒井自身があのポジションで何かしらのアクションを起こすべきだった。監督から何か約束事を伝えられていたのか、方針転換するための余裕がなかったかはわからない。しかしクラブでキャプテンマークを巻く男だ。今後代表でも枢軸を担っていく人材であるならば、チームを動かす役割も期待したいところである。

もちろん、HSVにおけるボランチと今回の日本代表のそれとでは、役割が大きく異なっていたことは忘れてはならない。

クラブレベルでは、主に守備面にウェイトを置いている。組織的な守備の仕上げ役、最後にボールを奪うところやセカンドボールへの対応、カバーリングなどがメインの業務だ。しかし、ボールを保持しやすい展開の多い日本代表では勝手が違ったのだろう。だが、その相違はごく一般的なことであり、言い訳にすることはできない。今後の日本代表において、彼がどのような立場を築いていくのかはわからない。だが、それは彼自身の考え方や振舞い方次第で変わってくるはずだ。

続いて守備の面だが、彼の言葉を借りるならば「必要最低限のことはできた」という評価が妥当だろう。

相手が嫌がる守備、味方を助ける働きはきっちりとこなした一方で、ボール奪取時に“行ききる”ことが出来なかった。ボールホルダーへの距離感とチェックが甘く、簡単に振り切られるシーンもあった。

また、山口蛍を含めた周囲との組織的守備において"お見合い"が発生してしまい、ボールを取りにいくか否かの判断が曖昧になるケースも何度かあった。ただ、これは一日二日でスムーズに出来ることではないので致し方ない部分がある。監督の急なオーダーの中、サイドバックが空けたスペースの穴埋めや球際の強さなど、自身の特徴を出せていたことを褒めるべきだ。

しかし、「必要最低限」と前述したように、そこに物足りなさが残ったことも事実である。

攻撃面のところでも触れたが、自らの意見をぶつけて周りを動かすなり、思い切った判断を見せてほしかったというのが、正直な感想だ。

「それは望んでいません(笑)」

と試合後に報道陣に口にしたらしく、彼はボランチでのプレーを続けることに消極的であるそうだ。しかし、今後サイドバックで起用されたとしてもチームを引っ張るような姿勢を見せられる選手として成長して欲しい。

と、ここまで色々と綴ってきたが、彼のパフォーマンスについて切り込んでいけばいくほど、どうしても一つの大きな疑問が残る。

「はたして、今回の酒井高徳のボランチ起用は正しかったのだろうか?」という点だ。

確かに結果としてチームは勝利し、最悪の形は免れた。「勝てば良いじゃないか」という考えもあるだろう。

だが、どうも「何故、ハリルホジッチはこのような起用法を取ったのか」というモヤモヤが消えない。

使える選手が限られるクラブレベルでならまだしも、自由に選手を選べる代表レベルにおいては、その起用を心から望まぬ選手を無理に使う選択肢を取る必要はない。少なくとも、遠藤航という“自らが呼んだ”人材を使うこともできた。 また、現状の陣容を見ても、とりわけ連携力が問われる2ボランチを見切り発車で送り出すより、役割がわかりやすいシステムを取ることも可能だっただろう。アンカーに酒井高徳を、インサイドハーフに山口蛍を置くほうが、彼らのやり辛さは軽減されたはずだ。今回のタイ戦でも発生した「繋ぎ」の部分に不安があったのならば、香川真司ではなく清武弘嗣をスタートから使うのも手だ。

もちろん時間は限られていた。そして最終予選という待ったなしの状況でリスクを冒すことは容易ではない。だが、今回、ハリルホジッチが下した消極的な姿勢よりも、今後に向けた積極的なリスクの取り方はあった。

とにもかくにも、今回の起用法、というより、ハリルホジッチ監督のやり方には疑問しか残らない。

アジア予選も残り三試合。日本代表は得失点差で首位に立ったが、この先に不安を感じているのは筆者だけではないだろう。