経済成長とCO2排出量は「比例しなくなっている」:IEA報告書

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経済が成長すればCO2排出量も増加するというのが、いままでの定説だった。しかし3年ほど前から、世界経済が成長を続けながらも、CO2排出量にほとんど変化がない状態が続いている。その鍵はエネルギー源としての石炭の置き換えにあるようだ。

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世界経済が全体的に成長を続けているにもかかわらず、二酸化炭素の排出量は2016年まで3年連続でほぼ一定にとどまっている。二酸化炭素排出量32.1ギガトン(1ギガトンは十億トン)という数字が将来の気候にとってよくないニュースであるのは確かだが、なかには楽観的になってもいいデータもある。いくつかの主要国においては、二酸化炭素排出量が減少しているのだ。しかも、経済成長を犠牲にしたわけではない。全世界の経済は3パーセント超の成長を続けたのである。

このデータは国際エネルギー機関(IEA)発表したものだ。IEAは世界全体の傾向を調査したうえで、主要数カ国について個別の数字も出している。

全体の傾向でみると、再生可能エネルギー利用は2016年のトレンドとなっており、全世界におけるエネルギー需要増の半分を補っている。そして、そのうちの半分は水力発電によるエネルギーだ。一方、原子力発電による発電量も、1993年以来最大の成長を示している。中国、米国、韓国、インド、ロシア、パキスタンの6カ国で新しい原子炉が操業を開始した。

中国では、新たに5基の原子炉が運転を開始し、原子力によって発電できる電気量を25パーセント増やした。同国では、原子力を再生可能エネルギーと組み合わせることで、増加するエネルギー需要の3分の2をまかなっている。さらに、化石燃料の一部を石炭から天然ガスに変更した。最終的に、エネルギー需要が5パーセント以上増加し、経済は7パーセント近く成長したにもかかわらず、二酸化炭素排出量は約1パーセント減となった。中国のエネルギー経済のなかで、天然ガスが占める割合はまだほんの一部であり、さらに石炭を置き換える可能性がある。

青は世界全体の経済成長率、黄色は二酸化炭素排出量の増加率を示す。両者は同じような変化を続けてきたが、2010年以降は違う動きをみせている。
IMAGE COURTESY OF IEA

米国では、石炭から天然ガスへのシフトがもっと進んでいる。IEAの推定では、米国の石炭使用量は2016年に11パーセント減少した。天然ガスが石炭を置き換え、単一エネルギー源としてはいちばん大きな割合を占める。これに加えて再生可能エネルギーの急増もあり、米国は2016年に二酸化炭素排出量を3パーセント削減できた。これは1992年以来見られなかった低い水準だが、経済は当時の1.8倍に拡大している。

EUの経済はおおむね安定しているが、石炭使用量は10パーセント減少した。特に英国では、2016年の石炭使用量は半減した。これは、1970年代に起きた2回の炭鉱労働者のストライキ時を除いて、1800年代以来見られなかった水準である。

英国でこうした変化がもたらされた要因としては、天然ガスの価格が安いことや、排出1トン当たり18ポンド(約21ユーロ、2,500円)という高い炭素税などが挙げられる(EUの炭素税は5ユーロだ)。

再生可能エネルギーの役割も大きい。英国では2015年第2四半期、再生可能エネルギーの割合(25.3パーセント)が石炭火力(20.5パーセント)や原子力発電(21.5パーセント)を初めて上回った[日本語版記事]。また2016年には、風力発電が石炭火力を上回った。結果として英国の排出量は6パーセント近く減少している。

※ なお、米国エネルギー省は2016年9月、日本は福島原発事故以後、2年近くにわたってすべての原発を稼働停止させたが、節電などの効果により二酸化炭素排出量は増加しなかった、という調査結果を発表[日本語版記事]した。

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