【コラム】香川真司、逆襲のとき…自分らしく輝くために示した存在価値と責任感

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「今の(日本代表の)競争はすごく激しいし、誰も自分のポジションを確立している選手はいない。結果を残さないと評価されないですし、どんどん入れ替わる世界。誰しも結果を求められると思っています」

 28日の2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選第7戦・タイ戦(埼玉)を前に、エースナンバー10を背負う男・香川真司(ドルトムント)は強い危機感を募らせていた。9月の最終予選スタート以来、得点はゼロ。そればかりでなく、昨年10月のイラク戦は出番なし、11月のサウジアラビア戦(ともに埼玉)も先発落ちという想定外の苦境に陥っていた。23日のUAE戦(アル・アイン)はドルトムントでの復調も追い風となって先発復帰を果たし、動きのキレも悪くなかったが、守備に忙殺される自身のパフォーマンスに不完全燃焼感を色濃く覚えていた。

「今日の出来は最低限。ここではハードワークをしないと試合には出られないし、割り切ってやる必要がある。ゴール前に出ていく回数は明らかに足りないですし、シュートや、シュートにつながるパスをもっともっと出せるようにしないといけない」と香川自身、得点に直結する仕事ができていないことに焦燥感をにじませていた。

 こうした複雑な思いを払拭する瞬間が今回のタイ戦でようやく訪れる。開始8分の出来事だった。森重真人(FC東京)が鋭いロングフィードを久保裕也(ヘント)に送った。UAE戦で1ゴール1アシストと結果を出した絶好調の新星は右サイドをドリブルで突進。角度のないところからマイナスクロスを入れた。これを岡崎慎司(レスター)が当ててコースを変えたところにファーから飛び込んできたのが背番号10。彼は複数のDFを巧みにかわして右足を振り抜き、昨年6月のブルガリア戦(豊田)以来の代表ゴールを奪ったのだ。

 ドルトムントでは今シーズン公式戦4得点にとどまっている彼にとって、この一撃は待望の2017年初ゴール。「裕也が右サイドで抜けた時に、入るタイミングを少しズラして入ったら、オカちゃんがうまくニアで潰れてくれた。タイミングを含めていいゴールだったのかなと。この2連戦では必ず結果を残さないといけないという気持ちはつねづねあった。ホッとしてるところは正直あります」と本人も本音を吐露した。ここ最近の香川はそれだけ大きな重圧を感じていたのだろう。

 実際、2011年アジアカップ(カタール)でエースナンバー10をつけるようになって以来、代表でここまで微妙な立場に追い込まれたのは初めてと言っても過言ではなかった。苦境に追い打ちをかけるようにクラブでも、右足首のケガやウスマン・デンベレ、ラファエル・ゲレイロなど新戦力加入で出番が激減。今シーズン終了後の放出さえ噂されるようになっていた。香川自身も厳しい現実を認識したうえで、とにかく希望を見出そうと必死に前を向き続けた。

「苦しいことやうまく行かないことも多いけど、(ロシア)ワールドカップまであと1年半あるし、それを見据えたらここで苦しんでるくらいがちょうどいい。ここ(ドルトムント)では個人能力のある選手が多いし、どうやって彼らを生かして自分も生きるかを考えていかないと。そのためには主張も必要だし、『彼らを生かして自分が生きるんだ』っていう強いメンタリティも求められる。そこで負けてるようじゃ試合にも出れないし、活躍できない」と彼は昨年末、自らに言い聞かせるように語っていた。

 それは日本代表でも同じ。今までは長谷部誠(フランクフルト)や本田圭佑(ミラン)、岡崎ら年長者のリズムに合わせてプレーしていればある程度は回ったが、原口元気(ヘルタ・ベルリン)や久保ら若手が急激に台頭してきた今、状況は大きく変化した。28歳という円熟期を迎えた香川が香川らしく輝くためには、自らアクションを起こして周りを動かさなければならない。そんな自覚が強く表れたのか、タイ戦の74分間はボランチやサイドアタッカーに対して自ら積極的に指示を出す場面が数多く見られた。