慰安婦像設置を訴える韓国野党議員 YONHAP NEWS/AFLO

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 日韓合意にもかかわらず、韓国側は釜山の日本総領事館前に慰安婦像を設置。日本は抗議のため在韓国大使らを一時帰国させた。これほどまでに日韓関係を左右する「慰安婦像」について、外国人識者はどう見ているのか。日韓両国の歴史に詳しいドイツ人歴史学者のラインハルト・ツェルナー氏に聞いた。

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〈元慰安婦たちの勇気で、軍隊による組織的な性暴力が人道に反する罪だと宣告する道が開かれました〉

 今年2月、サンフランシスコで設置が承認された慰安婦像に刻まれた文言だ。「宣告」する相手は日本。世界各地に設置が進む「慰安婦像」をめぐり、日韓の対立がさらに深まっている。

 そもそも「慰安婦像」の問題は、像の設置を進める団体が「平和を願う」としながら、他方で日本に対する「道徳的断罪」も意図しているところにある。

 韓国人が自らを道徳的に正しいと位置付け、日本を批判する態度は、すでに15世紀から見られるものだ。当時の朝鮮通信使は「日本では売春が多く倫理的に問題がある」と報告している。

 むろん売春には多くの問題があり、朝鮮時代から現在に至るまで、韓国でも売春は存在するのだが、韓国人は「売春は悪」とする儒教的道徳観を民族的アイデンティティの根幹とするが故に、自国の現実から目を背けて日本を批判してきた。一方の日本には韓国と同じ「道徳観」はないため、韓国社会の反応が理解できない。そうした両国の価値観の違いと、それに伴う感情的な対立が慰安婦問題和解の壁になっている。

 このような対立が続く中で、慰安婦像を海外に建てるということは日本と韓国の問題を世界に輸出することであり、私はそれに断固反対する。

 豪州のストラスフィールド市が慰安婦像設置を見送ったのは、韓国人社会の民族主義を見抜いたからだ。市の調査報告書には「複数の日本人への種族的な中傷がこの慰安婦像にはある」との懸念が明記されている。

 日本ではあまり知られていないかもしれないが、2016年9月にドイツ・フライブルク市の市長が姉妹都市である韓国・水原市市長からの依頼で慰安婦像設置を一度引き受けておきながら、すぐに撤回したのも、同じような懸念を感じたからである。

 世界は今、新たなナショナリズムの時代へと流れている。そうした国際情勢は日本の将来を不透明にする。安倍首相は、2015年末の日韓合意を外交成果として強調しているが、それは間違っている。政府間のみで合意しても、韓国社会が納得したことを意味するわけではない。堂々巡りの葛藤を続ける慰安婦問題には、社会レベルでの和解が必要だ。

 ドイツとフランスの和解を見ても、互いの考え方を理解しあうところから始め、長い歳月が費やされた。日韓両国の和解にも、根気強さが求められる。日本と韓国はドイツの戦後処理の方法を模倣することより、独自の和解の道を模索すべきだ。

 戦時下における性暴力への補償については、ドイツでさえもまだ取り組んでいない。強制収容所でのナチス親衛隊ご用達の娼館や、東方戦線におけるドイツ軍によるレイプ、パリ侵攻での性的搾取といった問題について、ドイツの政府もメディアも社会もことごとく目をつぶってきた。その間日本ではドイツが参考にすべき様々な研究成果や政治的解決の戦略が蓄積された。

 慰安婦問題で社会レベルでの和解を果たすには、ドイツも加わった議論が必要だと考えている。

●Reinhard Erich Zollner/1961年南アフリカ生まれ。1983〜1985年、上智大学比較文化学部留学。1993年、キール大学人文社会学部博士課程修了。デュッセルドルフ大学現代日本学研究室講師などを経て、2008年よりボン大学日本・韓国研究専攻主任教授。著書に『東アジアの歴史』(明石書店刊)など。

■取材・構成/藤原修平(在韓ジャーナリスト)

※SAPIO2017年4月号