村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

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物事のとらえ方を精錬する方法を6つに分けて紹介しています。きょうはその6番目―――「喩え」です。


◆少女につかみ取った美しさを「蛭の脣」に喩える
本講義で何度も触れてきたように、「コンセプチュアル思考」でいう「コンセプト」とは、物事の本質をつかむこと、そしてそのつかんだ内容です。

私たちは物事を見つめ、そこから何か本質的なことをつかみかけたとき、それをさらに確かなものにするために、何かわかりやすいものになぞらえてつかもうとします。それが、今回のテーマ「喩え」です。

例えば、川端康成の『雪国』に出てくる一節───

「細く高い鼻が少し寂しいけれども、その下に小さくつぼんだ脣(くちびる)はまことに美しい蛭(ひる)の輪のやうに伸び縮みがなめらかで、黙つてゐる時も動いてゐるかのやうな感じだから、もし皺(しわ)があつたり色が悪かつたりすると、不潔に見えるはずだが、さうではなく濡れ光つてゐた」。


もしあなたが目の前にいる少女に何か美しさを感じ、見入ってしまったとしましょう。彼女の美しさの本質がどんなものであるか、それを表現したいときに、直接的な説明文ではどうも表わしきれない、あるいは直接的に言うことが野暮に思える場合があります。そんなときに私たちは「喩え」という技巧を用い、つかもうとする本質を精錬していきます。川端もまたこのとき、少女からつかみとったコンセプトを「蛭(ひる)のような脣(くちびる)」に喩えて研ぎ澄ませたのでした。

◆6-a)修辞技法(レトリック)を用いる
こうした喩えは、修辞技法(レトリック)と呼ばれるものの一部です。直喩・隠喩・換喩などがあります。

【直喩の例】
「法王ボニファチウス八世は、狐のようにその職につき、
獅子のように振舞い、犬のように死んだという」

───モンテーニュ『エセー』
【隠喩の例】
「とらわれぬ目で比べてみるがいい、彼女の顔を。
思い知らせてやろう、君の白鳥がただの烏(からす)だったと」。

───シェークスピア『ロミオとジュリエット』
【換喩の例】
「春雨やものがたりゆく蓑と傘」
───蕪村


ここに出てくる「狐・獅子・犬」「白鳥・烏」「蓑・傘」という喩え。この喩えを通して、私たちは内にある本質をよりよく表現でき、また、本質をよりよく味わっていくことができます。この「狐・獅子・犬」「白鳥・烏」「蓑・傘」といった比喩を思いつけるかどうかは、確かに文学的才能を必要とはするものの、むしろ根本的にはコンセプチュアル能力が強いか弱いかによります。

◆寓話=比喩による教訓物語
修辞技法は主に、文章や語句においてなされるものですが、物語全体を一つの喩えとし、人生の教訓となるメッセージを発していく方法もあります。それが寓話です。例えば、「アリとキリギリス」「ウサギとカメ」でおなじみの『イソップ寓話』、そして『グリム童話』『アンデルセン童話』などには、豊かな比喩が満載です。私たちは直接的・教条的に、遊惰の生活は悪で、勤勉の生活は善だと教えられるより、アリの生き方・キリギリスの生き方として語られるほうが心に響きやすくなります。

また、世界のさまざまな地域に伝承される神話、さらには宗教の経典も、比喩を通して本質を伝える一大物語です。というより、比喩を用いてしか、神や仏の本質は表現しえないと言っていいかもしれません。それほど「喩え」という方法は強力なものです。


◆6-b)視覚的に見立てる
「見立て」とは芸術の世界の言葉で、対象をほかのものになぞらえて表現することをいいます。例えば、禅宗寺院などで見られる枯山水。そこでは白砂や小石で描いた文様を水の流れに見立てます。さらには、その水の流れを無常として見立てる。そして庭全体を宇宙に見立てる。また、一つ一つの砂粒を地球に見立てたり、人間に見立てたり。そのように比喩的な想像で物事を表わそうとするのが見立てです。

また、広大な夜空に布置された星々。そこに古代の人びとは壮大な星座物語を編んでいきました。一見無意味に並んだ星々を、獅子や蠍(サソリ)、蟹(カニ)、天秤(てんびん)、飛び魚(トビウオ)などに見立て、この大宇宙の本質をつかもうとする人間の試みです。

もっと卑近な例で言うと、「あの岩がサルの顔に見える」とか、テキストメッセージの「(^0^)」を笑顔の代用にするとか、そういったことも見立てです。また、ビジネスの世界で言えば、「孫の手」という名称は、仙女「麻姑(まこ)」の手に似ているところから来ていますし、お菓子の『柿の種』(浪花屋製菓の登録商標)はまさに柿の種に見立てて名づけられたものです。さらには、最近の概念である「クラウド・コンピューティング」も雲(クラウド)の性質になぞらえ、こう呼ばれるようになりました。

◆2つの方向:〈inside→out〉と〈outside→in〉
以上みてきたように、物事のとらえ方を「喩え」を用いて精錬していくとき、そこには2つの方向の思考が同時に存在しています。私たちはこの2方向を無意識のうちに激しく運動しています。


1つは〈inside→out〉で、内側につかんだ本質を、何かになぞらえて外側に表現しようとする思考。

もう1つは〈outside→in〉。外側に表れた形態を凝視し、何かに見立てることで、内側にひそむ本質に迫ろうとする思考です。

物事を直接的に見たり説明したりして把握するのではなく、喩えを通して把握する。これは、ロジカル思考でもなく、デザイン思考でもなく、コンセプチュアル思考が担う分野のものです。なお、比喩や見立ては「コンセプチュアル思考」の基本スキルの3番目「類推」に関連しています。