あえん料理

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 大地や海とつながっているなあと感じられる、そんな料理を出してくれるお店が好きだ。決して高級店でなくても、そういう考え方で、しっかりと料理をつくっている店がある。

 東京・新宿の伊勢丹会館4Fにある和食店「あえん(伊勢丹会館店)」も、そんなお店のひとつだ。ランチの時間帯は、女性客を中心に家族連れやグループでの利用も多く、かなりの待ち時間ができる人気店である。なので、お昼の時間を少し外して利用することをおすすめする。店先の壁に「あえんの想い」というタイトルでこんなことが書かれている。

「『ご馳走を出したい』私たちはこう考えています。ここで言う『ご馳走』とは、ただの贅沢な食事を指すわけではありません。元々『ご馳走』とは大切なお客様をもてなすため馬を使って自らが走り回り、よい食材をかき集めたことに由来するそうです。私たちは1999年の創業以来、日本中の良い食材を探すこと、そしてその素材を生かす料理を作ることに努めて参りました(以下、略)」

 野菜のおいしさには、味・香り以外に、力感のようなものが含まれていて、それがとても大事だと思うのだが、この店で提供される野菜には、間違いなく“力”がある。「あえん」は、実はモスバーガーのグループ会社、モスダイニングが経営するお店で、野菜の仕入れにはモスグループの協力農家とのネットワークを生かしているという。正直、ハンバーガーショップでは実感できなかった野菜の力を感じることができる。

 さて、そんな「あえん」で3月いっぱい(3月1日〜31日までの1カ月間)、熊本県産の食材を使用したコラボメニューを期間限定で提供する「ブラボー!くまもと」グルメフェアが開催されている。熊本に数多くあるおいしい食材に注目し、食を通じて多くの方に熊本をお届けする機会の創出と、熊本県の復興支援を目的としたキャンペーンだ。

 ということで、1日20食限定の「くまもとグルメ御膳」(税込1880円)をいただくことにした。サラダは、デコポンとフルーツトマト「まいひめ物語」の組み合わせで、その酸味と甘さはデザートでもいいくらいだ。味噌汁の中には野菜がごろごろ入っているが、なかでも水田ごぼうが、力強く、旨い。メインを飾るのが「みやび鯛」の煮つけである。海草たっぷりのあんがかかっている。注文してから随分時間がかかったのは、この料理のためだろう。この鯛があんまり旨いので、手もとのスマートフォンで調べてみた。熊本県にある株式会社坂田水産が養殖している養殖鯛なのである。坂田水産は、この「みやび鯛」を中心に事業展開をしており、「みやび鮪(マグロ)」もある。ますます気になる。

●坂田水産の挑戦

 家に帰って、この会社へ問い合わせを送ったところ、すぐにレスポンスがあった。丁寧に対応いただき、資料も送っていただいた。東京ではまだ、常時取り扱っている店はないそうだが、地元、熊本から九州、さらに大阪では「みやび鯛」を扱うお店が増えてきているそうだ。おいしい野菜づくりには豊かな土壌が欠かせないが、おいしい魚を育てるには何が必要なのかを坂田水産のご担当者、鶴山さんに聞いてみた。 

「飼育環境とエサが大事です。みやび鯛は、イケスに入れる鯛の数量を抑えることで、伸び伸びストレスのないように育てています。健康でおいしい鯛をつくるために必要なのは食事と運動、人間と同じですよ。

 エサについても、飼料メーカーと10年以上の歳月をかけて開発しました。開発に時間がかかったのは、試行錯誤の連続だったからです。エサは夏用、冬用、仕上げ用と3種類ありますが、年間を通してエサを与えて、その個体を検査機関(日本食品分析センター)に出し、アミノ酸の数値をずっと追跡調査して完成度を上げていったという経緯があります。現在のエサはまだ完成ではなく、今も改良を行い、定期的に検査に出し続けています。現段階でみやび鯛のアミノ酸の数値(グルタミン酸等の旨み・甘み成分)は、天然鯛の3倍近くあります。

 また、魚が食べきれなかったエサは、海中に飛散、残留してしまいます。ですので、海底に残ったエサが溶け出した時の海水汚染が最小限になるよう、不純物等は使用していません」

 いずれ東京を含め、全国区のブランド鯛になる予感がする。大袈裟ではなく、みやび鯛を生産する坂田水産には、高い志をもって挑戦を続ける新しいタイプの漁業者として、一つの成功モデルとなっていただきたいと願う。

●水産資源の危機を救う養殖

 というのも今、世界では「水産資源の危機」が非常に深刻だ。地球温暖化による気候変動が海水の変化を引き起こし、人間による過剰漁業や海洋汚染持続がそれに拍車をかける。かつては魚を食べる習慣のなかった国や地域で、魚介類の消費量が増えている。漁獲量が頭打ちの従来型漁業に代わって、今、養殖業は劇的に発展している。いずれ従来型漁業による供給量を上回るといわれている。それだけに、その中身、質がこれから問われることになる。

 みやび鯛のパンフレットの表紙には「水から産みだす」とあり、裏表紙には「自ら生みだす」とある。後継者不足に悩む漁業のなかで、新しい価値を生み出す夢のある事業であることをアピールする意図があるそうだ。大のマグロ好きである私はみやび鮪にも大いに興味がある。今度、九州出張の際には、鯛も鮪も食べてみたい。「あえん」のように、良い食材とそれを生かした“ご馳走”に出会えるだろう。
(文=山田まさる/インテグレートCOO、コムデックス代表取締役社長)