胸がドキドキして呼吸する。手が震える。体がだるい。どれも気づいても、「疲れてるのかな」と片付けてしまいがちな症状ですが、実は甲状腺トラブルかもしれません。

「日本人の10人に1人が抱えている甲状腺疾患。うち9割は女性です。特に30代に入ると、女性の発症率は高まります」そう警告を鳴らすのは、内分泌代謝内科医の会田梓(あいだ・あずさ)先生。第1回では甲状腺疾患についての基本的な知識について聞きました。

そもそも甲状腺って、何?

--「罹患者の9割が女性」という事実に驚きましたが、私のまわりの女性でも正しい知識を持っている人はほとんどいないような気がします。そもそも甲状腺はどこにあって、どんな役割を担っているんですか?

会田梓先生(以下、会田):甲状腺は喉仏の下にある、蝶が羽を広げたような形をした臓器です。気管を取り囲むように位置しています。

「甲状腺ホルモン」を作る内分泌器官で、ヨード(ヨウ素)を原料に甲状腺ホルモンを合成し、血液中に送り出します。

あまり知られていませんが、甲状腺ホルモンは人間が生きていくうえでとても重要な役割を担っているんですよ。体温や汗の量を調整したり、胃腸や脳の働きを活性化させたり、新陳代謝を促進する作用があります。また、胎児の発育や子どもの成長に大きく関わっている器官でもあるんです。

「むくみ」や「便秘」も甲状腺トラブルの可能性が

--甲状腺に異常をきたすと、どのような症状が起こるのですか?

会田:尋常ではない汗が出たり、急に暑がりになったり、動悸を感じたり、下痢をしたり、手指が震えたり、いくら食べても体重が減る人もいます。逆に寒がりになったり、むくみがひどくなったり、便秘になったり、食欲が減退しているのに体重が増える人もいます。

代謝が悪くなることで、頭がぼーっとして仕事の効率が落ちてしまう人や、代謝がよくなり過ぎた結果、手が震えてパソコンが打てずに仕事にならないなど、日常生活に支障が出てくるケースも少なくありません。

また、上のような体自覚症状がなくても、首全体が腫れてきたり、しこりができることもあります。

甲状腺の異常は血液検査でわかる

--どの症状も他の病気にも当てはまりそうですね。

会田:そうなんです。それが甲状腺疾患の認知度が低い要因の一つだと思います。例えば、更年期障害と診断され婦人科を紹介されたり、うつ症状と診断され心療内科をすすめられたり、心臓病や肝臓病と診断されることもあって、なかなか甲状腺疾患にたどりつかないことが多いんです。

甲状腺の異常は血液検査でわかるのですが、一般的な健康診断に入っていないことも、認知度が低い要因と言えるでしょうね。

--専門機関にこられる患者さんは、どういった経緯で受診される方が多いのですか?

会田:医師の触診で「甲状腺が腫れているので専門機関で診てもらってくださいと言われた」という方が多いですね。また、汗の出方が尋常ではないとか、食べても食べても体重が減るなどの自覚症状で、これは変だと内科に行ったら甲状腺異常と言われたという方もいます。

特に女性がかかる確率が高く、罹患者の男女比は1:9の割合だと言われています。その理由はわかっていませんが、そもそも甲状腺に異常をきたす要因としてストレスや遺伝性があげられます。

また、昔から日本人の食生活には欠かせない昆布やわかめなどの海草類には、甲状腺異常を起こしやすいヨードの含有率が高いものが多いんです。このような食環境にも原因があるのかもしれませんね。

次回は「甲状腺の主な病気」についてです。

(塚本佳子)