ゴールを決めた水戸ホーリーホックFW林陵平がディバラのゴールパフォーマンス

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 今年から自分にとっての“ホーム”となったケーズデンキスタジアム水戸の雰囲気が気に入っているという。「こじんまりはしているけど、サポーターも熱い人が多いですし、『あ〜』みたいにため息が出るようなスタジアムの雰囲気がないんですよ。それは凄く良いです。あれってやっている選手は結構気になるんですけど、それがないからホーム感が凄く強いですね」。林陵平。30歳。かつてない覚悟を持って今シーズンに挑んでいる男が、水戸ホーリーホックを最前線で牽引し続けている。

 2連敗で迎えたJ2リーグ第5節。ホームで3試合ぶりの白星を手にしたい愛媛FC戦のスタメンには、5試合続けて林が名前を連ねる。前節の名古屋グランパス戦同様にキャプテンを務める船谷圭祐がベンチスタートとなったため、その左腕には黄色い腕章が巻かれていた。「山形の時も副キャプテンだったんですけど、プロになって最初からキャプテンマークを巻いてピッチに立つのはこの前の名古屋戦が初めてだったんです」と明かした林。その前節。忘れないようにしていたコイントスはきっちりこなしたものの、「試合が始まる前の円陣で声を出す時に『チーム一丸となっていこうぜ』と言おうとしたらメッチャ噛んで、みんなに『何しとんねん』と笑われた」そうだ。この日の円陣ではきっちり“リベンジ”。上々のメンタルでキックオフを迎えることに成功する。

 すると、その瞬間はわずか開始5分で訪れた。左サイドを湯澤洋介が抜け出し、中央へマイナスに折り返す。「『ニアに来るな』というのは感じた」という林はマーカーを振り切りながら、左足のインサイドでボールをゴールネットへ流し込む。これで早くも今シーズン3ゴール目と、ハイペースで得点を量産しているが、第2節のツエーゲン金沢戦では「中途半端にかすったくらいだったから」、前節の名古屋戦も「すぐ逆転を目指して頑張っていかないといけなかったので」、お得意のゴールパフォーマンスを繰り出すには至らなかった。

 ようやく条件が整ったと判断したストライカーが走り出す。「何個かケータイのメモリーに入っている」という“ストック”から、さらに「2つくらい競っていたヤツ」を押し退けて、今回選んだゴールパフォーマンスはユベントスのパウロ・ディバラ。「点を取って、すぐカメラを探したんですよ。そうしたらゴール裏のあたりにあったので、そっちに向かって最後にやっておきました」と悪戯っぽく笑ってみせる。以前から「自分が点を決めてパフォーマンスをやることで、周りの人に楽しんでもらえればいいと思っている」と公言しているゴールパフォーマンスを、ようやく新しい“ホーム”で披露できた林は、以降も体を張ったプレーで攻守に貢献すると、チームも後半に訪れた苦しい時間帯を凌いで、見事に完封で勝ち点3を獲得。サポーターと選手たちは共にラインダンスで勝利の味を分かち合った。

 林が水戸への加入を決めた1つの要因は西ヶ谷隆之監督の存在だ。「他のチームからオファーもありましたし、その中で『何が一番大事かな』と考えた時に、自分がプレーをして成長できて、さらに活躍できることだと。そうなると西ヶ谷さんの存在が凄く大きかったですし、西ヶ谷さんの下でプレーすることができれば、また自分自身が成長できるし、活躍できるとイメージできたので水戸を選びました」。確かに東京ヴェルディユース時代と明治大学時代にも西ヶ谷監督の指導を受けていたが、それよりも重要視したことがある。「“直感”って選手にとって大事だと思うんですけど、今回の移籍にはそれが凄くありましたね。以前指導してもらっていたからといっても、絶対にその人の所でという訳ではないですから。ただ僕自身、西ヶ谷さんとのフィーリングが合う気がします。今日も点は取りましたけど、『後のシュートを決めろよ、オマエ』みたいなことも言われますし(笑) でも、それが自分の成長に繋がっているのかなって。今、30歳になって、また成長できるというか、やっていて凄く楽しいです」。

 自他共に認める海外サッカーフリークの林にとって、やはり海外サッカーに造詣の深い西ヶ谷監督の指導がアドバンテージになることもあるそうだ。「今回の試合はシステムが4-4-2だったので、その4-4-2でベーシックに守る球際の部分だったりは、アトレチコ・マドリーの映像をイメージとして見ましたけど、僕も凄く好きだから『わかるわかる』みたいな(笑) 僕自身はわかりやすいし、他の人よりもわかっているというか、凄く共感できます」と語りながら、「サッカー観は近いと思います。それを言ったらガヤさんに怒られるかな?怒られはしないか(笑)」と楽しそうに話す姿から、指揮官との信頼関係が窺える。

 ここ数年はケガなどもあって、なかなかシーズンを通した活躍ができていない現状があった中で、今シーズンは手応えのあるスタートが切れている実感もある。「今は充実感が違います。やっぱり選手は試合に出てナンボだと思いますし、1週間の練習も試合に向けて準備できるというのは大きいです。でも、試合に出るだけじゃなくて、もっと成長しないといけないと思っているので、今はここまで良い形で来ていますけど、もっともっと努力しないといけないですし、また明日の朝から筋トレしないといけないのでね」と報道陣を笑わせるあたりにも、良い意味での余裕を持って水戸での日々を過ごしている雰囲気が垣間見えた。

 既に年齢も30歳に差し掛かっている。下部組織でもプレーした東京ヴェルディでJリーグへデビュー。柏レイソルではJ1優勝を経験し、FIFAクラブワールドカップのピッチにも立った。モンテディオ山形でもJ1昇格プレーオフを戦い、リーグ史に残るような昇格の味も知ることができた。プロ9年目。シビアな世界で戦い抜いてきた経験という名の“ストック”は、自身の中にもはや少なくない数が蓄積されてきている。「もちろんフォワードなので、絶対に得点を取りたい気持ちはありますし、今のこの現状には凄く感謝していますけど、満足してはいけないと思うし、もっと上を目指して成長したいなという想いはあります。それにやっぱり『水戸を強くしたい』という想いがあって、チームの中では年齢も上の方なので、『自分がチームを引っ張っていかないといけない』と思っていますし、今はキャプテンマークも巻かせてもらっているので、自分のことだけじゃなくて、チームに対する働きかけも凄く多くなっているかなと思います」。

 “ストック”は増えれば増えるほど、それをどのタイミングで、どう使うかが大事になってくることは言うまでもない。「もう次にやりたいゴールパフォーマンスは決まっているので(笑)、またゴールを決められるように準備したいです」と笑顔を見せた林が、自らの中に増えてきている様々な“ストック”をどういう形で表現していくのかは、今後も大いに注目していく必要がありそうだ。

■執筆者紹介:

土屋雅史

「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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