【パリで気になった端末】



 

ノキアN96 販売価格(当時):550ユーロ(約6万7000円)

当時の高嶺の花の端末は、ヨーロッパ版ワンセグ対応のノキアN96。欲しくても買えなかった。カメラ性能や画面サイズも大きいハイエンドモデル。

 

ケータイ西遊記 -第12回- フランス/パリ編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

 

初めてのパリ訪問時は

SIMを買うのもひと苦労



 

海外の渡航先では現地のプリペイドSIMを買いに行くことで、その国の商習慣や人々の外国人に対する反応の肌感覚を感じるようにしている。だが、今から10年ほど前に訪れたパリでは、散々な目にあった。ホテルのそばにあったキャリアの店に入ると「プリペイドSIMは50ユーロのモノしかないよ」とぶっきらぼうにフランス語で言われ、こちらからの質問を聞こうともしない店員にあしらわれてしまった。

また、他のキャリアでは「うちは売ってないから他に行ってくれ」と門前払い。当時はフランスのプリペイドSIMは価格が高く、そのため彼らの対応は間違ったものではないのかもしれない。だが、英語で話しかけるアジア人に対しての態度は冷たかったのだ。


▲ パリの街中にはキャリアの店も多い。景観をくずさぬよう看板もさりげなく掲げられている。

キャリアの店はあきらめ、繁華街にある両替所に寄ったところ、そこでプリペイドSIMを買うことはできた。だが、値段は定価より割高で、利用できるデータ量も少なかった。それでも街中を歩く時に地図を見たり翻訳を使うためにはなくてはならない存在だ。

そうやって少ないデータをだましだまし使いながらパリ市内の家電量販店や携帯電話ショップ巡りを楽しんでいたのだが、南西部にある住宅街に入り込んだ時に悲劇は起きた。地図で検索すると、そこには携帯電話の中古店があるはずだったのだが、行ってみるとそこはレストランで全く別の店。仕方なく再度スマホで検索してみようとしたところ、運悪くデータ利用分が無くなってしまった。画面を見ながら歩いて行ったので、自分がどのあたりにいるのかもわからない。しかも昼間の住宅街は人通りが一切ない。場所を聞こうにも英語なら相手にされないんじゃないだろうかと思うと一人で何とかするしかない。仕方なく当てもなく歩き回っていると、その住宅街の中にとあるキャリアの店を発見した。

アジア人にも優しい店員

人間は同じ血が流れている!



パリ市内では何軒ものキャリアの店でまともな対応をされなかったものの、今はSIMをどうしても入手しなくてはならない。意を決してお店に入り、英語でSIMが買いたいと店員に話しかけた。すると、その店員はにっこりとした笑顔と英語で「旅行者かい? どんなSIMが欲しいんだい?」と答えてくれた。よく見るとその店員はアフリカ系の青年だった。フランスにはアフリカ系の移民が多く、その子孫なのだろうか。あるいは英語が流ちょうなので、もしかしたら他の国からやってきたのかもしれない。

「実はパリでは英語が通じなくて」と涙目で訴えると、「まあここでは仕方ないよね。でも大丈夫、僕が全部教えてあげるよ」と青年は手書きのSIMの説明書を出してきた。こんなものまで用意しているんだと驚くと、店の入り口が開いて、別のアジア人の客が入ってきた。片言のフランス語を話す彼は、ここに住んでいるらしい。どうやらここはアジア系の住民が多いようだ。

彼の手書きの説明書を読むと、50ユーロで新規にSIMを買っても、大したデータ量は利用できないようだ。一方、自分のスマートフォンに既に他キャリアのSIMが入っていることを伝えると、彼はわざわざ自分のお金でそのSIMへの料金を建て替えてチャージしてくれた。「パリでこんなに親切にしてもらった」と感謝の気持ちを伝えると、彼の口からは涙の出てくるような言葉がでてきた。

「だって僕たちの身体の中には、同じ色の血が流れているだろう。だから僕らは友達なんだよ」。実は似たような言い回しは、その後他のアフリカ人からも言われたことがある。これは異国の地で働き苦労してきた、彼らだからこその言葉なのだろう。一体どんな苦労をしてきたのだろうか?


▲ 街歩きに疲れたらカフェで一服するのもいい。パリ市内はこの手の店が多く地元民の気分も味わえる。

今のパリはどのキャリアの店も店員はフレンドリーだし、プリペイドSIMの値段も安くなった。あの青年の手書きの説明書が無くとも、ほとんどの店で英語が通じる。しかし今もきっと彼は、自分の店を訪れる移民たちに対して、前と変わらぬ優しい態度で接客を続けているのだろう。

文/山根康宏

※『デジモノステーション』2017年5月号より抜粋

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1400台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

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