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●セールスフォースとの提携が意味するもの
米IBMは、現地時間の2017年3月19日〜23日、米ネバダ州ラスベガスで、クラウドおよびコグニティブを対象にしたプライベートカンファレンス「IBM InterConnect 2017」を開催した。

同イベントには、開発者やユーザー、パートナー企業など、全世界から2万人以上が来場。日本からも約180人が参加した。

会期中には、米IBMのジニー・ロメッティ会長兼社長兼CEOの基調講演が行われたほか、新サービスなどを含めて、20本以上のリリースが発表されるなど、同社のクラウドビジネスの進化を強く印象づけるものになった。

注目を集めたのが、21日午前9時から開催された米IBMのロメッティ会長兼社長兼CEOの基調講演だ。中国におけるデータセンターの開設に関して、ワンダグループとの提携を結び、中国から帰国したばかりという状態で登壇したロメッティ会長兼社長兼CEO は、何人ものゲストを壇上に招いて講演を行ったが、なかでも、3月6日に発表されたセールスフォース・ドットコムとの提携発表にあわせて、セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOがゲストで登壇した際には、大きな拍手が沸いたのが印象的だった。

ベニオフ会長兼CEOは、「セールスフォース・ドットコムは、EinsteinというAIを持つが、そこにWatsonを加えることになる。新たなドアを開き、最大の価値を引き出すことができる」と、この提携への期待を述べた。

さらに、ロメッティ会長兼社長兼CEOは、「IBM傘下のThe Weather Companyが持つ気象データを、セールスフォースのユーザーが利用できるようになる」と発言。ベニオフ会長兼CEOも、「セールスフォースは、全米の上位5社の保険会社で活用されているが、ここに気象情報を組み合わせた新たなサービスを提供できる。気象情報と顧客情報とを組み合わせて、『ひょうが降るのでクルマをガレージのなかにしまった方がいい』といった情報を流すことができる。実際、先週、サンフランシスコで珍しくひょうが降った」などとした。 加えて、IBMが買収したBluewolfは、ベニオフCEOが仲介したものであるとのエピソードをロメッティ会長兼社長兼CEOが明言。BluewolfのCEOだったエリック・ベリッジ氏が会場に出席し、いまもIBMで活躍していることを示してみせた。実は、Bluewolfは、セールスフォース・ドットコムのシステムインテグレータとしては北米で最大規模。それを買収したIBMは、言い換えれば、北米で最大規模のセールスフォース・ドットコムのインテグレータになったともいえるのだ。

こうした点でもセールスフォース・ドットコムとの提携が、AI分野における提携ではなく、広範なものになっていることを示す内容だったといえよう。

ロメッティ会長兼社長兼CEOの基調講演においては、IBMのクラウド戦略の基本方針が改めて示された。

それは、「エンタープライズストロング」、「データファースト」、「コグニティブコア」という3つのポイントだ。

エンタープライズストロングでは、全世界20カ国に51カ所のデータセンターを持つことを示したほか、ヘルスケアや自動車、航空・宇宙、家電など、各業界に特化したエンタープライズクラウドを提供していること、オンプレミスよりも強固なセキュリティ環境を実現していることなどを強調。

データファーストでは、「私は、過去6年間、データが次の天然資源になると言い続けてきた」としながら、データの活用によって、意思決定の手法が変わり、これが企業の競争力強化につながることを示した。ここでは、ロメッティ会長兼社長兼CEOが、「洞察は、民主化するのではなく、商業化すべきだと考えている」と発言した点が興味深い。「価値のあるデータをもっている人は外には出さない。洞察は共有化するものではなく、企業自身のものになる」と述べ、個別企業に向けたソリューションに、IBMのクラウドビジネスのターゲットを置くことを示した。

そして、コグニティブコアでは、「コグニティブは、機能ではなく、IBM Cloudの基礎になるものである。Watsonは、専門家による教育を受けており、業界の専門用語も理解できるように進化している」などと語った。

これらの方針を補足する形で、日本IBMの三澤智光取締役専務執行役員は、「エンタープライズユーザーがいよいよクラウドを活用する時代に入ってきた。IBMは、それにきっちりと応えるクラウドにしていくことを宣言したともいえる。エンタープライズに最適化した強固なクラウドと、データを活用して、新たな回答を導き出すプラットフォームであること、クラウドのコアのなかに、コグニティブの技術を入れていくことが示された。これがIBM Cloudの方向性であることが明確になった」と語る。

ロメッティ会長兼社長兼CEOは、「この3つの要素を持つことが次世代クラウドの要素であり、それを実現している唯一のクラウドがIBMクラウドである」と強調してみせた。

もうひとつのポイントが、ブロックチェーンである。

●もうひとつのポイント「ブロックチェーン」
今回のIBM InterConnect 2017では、Linux FoundationのHyperledger Fabric Version1.0をベースにした、エンタープライズ対応ブロックチェーンサービスの提供を開始すると発表した。IBMは、仮想通貨でのブロックチェーンの活用は視野には入れておらず、あくまでもビジネス用途での活用に絞り込む。会期中には、ダイヤモンドの鑑定や、エネルギー分野での活用など、様々な業界でブロックチェーンの活用事例を紹介。日本の企業では、三菱東京UFJ銀行が、外部委託業者などのビジネスパートナーとの契約の管理などにIBM Cloudを活用。ここにブロックチェーン技術を応用していることが示された。

三菱東京UFJ銀行の村林聡専務取締役は、「現在は実証実験中だが、時間やコストの削減、サプライヤーとのやり取りにおいて合理化が図れている。ブこのほかにも、ロックチェーン技術を活用した実証実験を並行して進めており、幅広い領域にブロックチェーンを活用したい」と述べた。

IBMでは、「IBM Blockchain on Bluemix High Security Business Network(HSBN)」を提供。セキュアなエリアにチェーンそのものを格納することで、「もっともハッキングされにくい環境を実現している。セキュアにチェーンを利用できる技術を提供しているのはIBMだけ」と三澤取締役専務執行役員は自信をみせる。

IBMでは、すでに全世界で400件以上のプロックチェーンに関するプロジェクトを開始しており、ブロックチェーンを活用したクラウド事業の拡大にも弾みをつける考えだ。

ロメッティ会長兼社長兼CEOは、「IBMのビジネスの17%がクラウドになっている」とし、今後のクラウド事業拡大に意欲を見せる。

IBM全体では、19四半期連続での減収が続くが、最新四半期では増益を達成。今後のクラウドシフトは、IBMの経営体質の転換に大きく影響することになるのは明らかだ。

経営体質の転換を急ぐIBMが、新たな体制を明確にしたのも、今回の「IBM InterConnect 2017」の大きなポイントだ。

IBMは、2016年10月に、IaaSであるSoftLayerと、プライベートクラウドであるBlueBoxを、PaaSであるBluemixに統合。クラウドビジネスを、IBM Bluemixブランドに統一した。

 さらに、12月には、これまでWatson事業を担当していたデビッド・ケニーシニアバイスプレジデントが、Watson事業とともに、Bluemix事業も統括する体制へと移行。IBMの従来型ビジネスを継続しながら、新たなクラウド環境への取り組みを加速する役割を担うハイブリットグラウド担当のアーヴィン・クリシュナシニアバイスプレジデントとの2人体制で、IBM全体の事業を推進する形を整えた。とくに、ケニーシニアバイスプレジデントは、IBMが買収したThe Weather CompanyのCEOを務めていた人物で、同氏を経営幹部に登用するとともに、IBMの将来の成長を描く新たな事業の同氏の管轄下においた体制は、まさに新たなIBMの姿を感じさせるものといえる。

前任のサミュエル・J・パルミサーノCEOが60歳で退いたように、IBMの歴代CEOの退任は60歳というのが不文律。まもなく60歳を迎えるロメッティ会長兼社長兼CEOが、次期体制を視野に入れた動きを見せ始めるのは当然のことだといえよう。基調講演のなかでは、セールスフォース・ドットコムのベニオフ会長兼CEOと、お互いの社会貢献活動について、その成果を評価しあったり、IT分野における男女間のギャップを解消することを目指し、若い女性に対して、コンピュータプログラムを教える機会を創出する活動を行っているGirls Who Codeのラシュマ・サウジャーニCEOをゲストに呼び、ロメッティ会長兼社長兼CEOが、社会貢献活動に強い関心を寄せていることを改めて示してみせたのも、同氏の退任後の布石と見えなくもない。

(大河原克行)