アドビが見せた「お買いものエクスペリエンス」の未来

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アドビといえばPDFのイメージが強く、もう少し詳しく知っていても、IllustratorやPhotoshopといったクリエイターのためのソフト提供ブランドだと思っている人が多いのではないだろうか? しかし、それは今やアドビという企業の一部の側面に過ぎない。

実は、アドビはデジタル・マーケティング全般─データ分析、キャンペーンの管理、実行、広告のプランニングからクリエイティブの制作まで─に必要なありとあらゆるツールを提供する一大デジタル・マーケティング会社に変貌している。

身近なところで言えば、「このウェブサイトの訪問者数は・・・」と語られる訪問者数を数えるソフトも、アドビのAdobe Analyticsという製品だ。さらに、同じウェブサイトを訪問したはずなのに、隣の人とは違う画面が出てくるという現象も、アドビのTargetという製品のなせる技。ユーザーがサイトに訪問した瞬間にミリ秒単位で判断し、見ている人に最適なコンテンツを出し分ける技術が使われているのだ。

開発中の最新技術がお目見え

そのアドビは年に一度、Adobe Summitと呼ばれるカンファレンスを開催している。参加者は年々増え、今年は1万2千人以上のマーケターが世界からラスベガスに集結した。

世界最大規模のマーケティングの祭典とあり、合間には映画「ラ・ラ・ランド」主演のライアン・ゴズリング(写真下)やNFL史上最高のクォーターバックと評されるペイトン・マニングによるトークセッション、ONEREPUBLICのコンサートといったお楽しみもありつつ、3日間(3月21〜23日)にわたり、250以上のセッションで最新技術や事例についての積極的な意見交換が行われた。

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その中でも2日目の夕方に開催されたSNEAKSというセッションは、アドビが現在開発中の技術を垣間見られる楽しい内容だった。「ゴーストバスター2」にも出ていたアメリカのコメディエンヌ、ケイト・マッキノンをゲストに開発中の新しい技術がお披露され、会場は笑いに包まれながらも、その技術に熱い視線が注がれた。

中でも「なるほど」と思ったのは、VRの中に広告を出すという「Marketing VR」という技術だ。

舞台上でマッキノンがVR装置オキュラスを装着し、ラスベガスの街を歩いているような光景を見ている──。その状況でパソコンをちょこっと操作すると、マッキノンの視界に見えている街のビルボードに別の画像がはめこまれ、あたかも別のビルボードがあるかのように変化する。さらには、道を走るトラックの側面には動画の広告がはめこまれている──。

VRは仮想現実だから、こういったことができるのは当たり前だが、マトリックスの世界がパソコン一つで出現してしまうようになったとは・・・。

もうひとつすごかったのは、アマゾンの音声認識装置アレクサにいろいろな情報を設定し、話しかけるだけで何にでも答えてくれるようにする「Beyond Click」だ。

例えば自分のメンバーシップポイントの情報を取れるようにしておけば、休日アレクサに「今日何をしよう」と話しかけるだけで「ポイントがたまったので一日フェラーリが借りられますよ、ドライブはいかがですか?」「もしくはフリードリンクを楽しむのもいいですね」と何ができるか選択肢を見つけて教えてくれる。さらに「どんなドリンクがフリーなの?」と聞くと「モバイルにリストを送ります」といった具合だ。

遊びだけではなく、仕事でももちろん活用でき、ホテルの支配人であれば「今日のホテルの稼働率はどうかな?」と聞くだけで、「稼働率は○○%。先週に比べるといいですね」と答えてもくれる。こういった人工知能(AI)が人間の執事を務める世界がもうすぐ現実になるかもしれないと思わせてくれた。

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そのほかにも、企業が複数のプロモーションを同時に行っていても、デバイスやページを問わず特定の人に最適なプロモーション・オファーが出るようにする「Right Offers」、マーケティング戦略の構築に欠かせないカスタマー・ジャーニーを自動的に作ってしまう「Journey AI」、大量のコンテンツをカスタマー・セグメントに合わせて自動的に作る「AI Experience」など、マーケターにとっては実現が待ち遠しいSneaksがたくさん紹介された。

マーケターでない人にも、空をワンクリックで差し替えて、ちょっとがっかりだった写真を素敵な写真に変えてしまう「Sky Replace」は魅力的だと思う。

「ついでに商品も売る」という考え方

今回のAdobe Summitのテーマは「Make Experience Your Business」、つまり「エクスペリエンス(経験や体験)で売り上げを上げましょう」だった。エクスペリエンスを重視している企業は、そうでない企業より20%以上収益が高いのだという。

アドビのエクゼクティブ・バイス・プレジデントのブラッド・レンチャー(Brad Rencher)氏いわく、「昔は食べ物を買うには食材を買いに行きましたが、今は下準備され、レシピも付いたものが家に届いてほしいと思ってしまいます。洋服も、自分向けにコーディネイトされたものが元から提案され、ついでに返品もできるべきだ、と。顧客はとても貪欲になっていて、商品ではなくてエクスぺリエンスを求めているのです」

顧客が望みそうなものを企業が想像して提供する時代は終わり、技術が進歩した現代は、顧客一人ひとりの声を具体的に聞いて、望みのエクスペリエンスを形作ることができる時代ともいえる。顧客の望むエクスペリエンスを提供する際に、ついでに商品も売る。そんな時代がもう来ているのだ。

このカンファレンスには日本からも約200人が参加していたが、ヨーロッパやオーストラリアの企業が事例として取り上げられる中、日本の会社は残念ながら一つも取り上げられていなかった。マーケティング後進国と言われて久しい日本ではあるが、それだけはやっぱり残念だった。

先進事例が増えるということは、私たちの”買い物エクスペリエンス”がより良くなるということ。来年は日本初の素敵な事例が見られることに期待したい。