長谷部誠の代役として出場した今野泰幸。この活躍がUAE戦最大の勝因とすれば、想像したくなるのは、長谷部が出場していた場合だ。ハリルホジッチは怪我を負った長谷部を「長谷部なしのチームは考えられない」と、敢えて招集。試合会場のアルアインにまで呼び寄せたほどだ。

 所属のフランクフルトでは、ほぼ常時出場を果たしている長谷部。最終ラインの真ん中でリベロ然と構える新境地に座り、高評価を得ている様だが、忘れてはいけないのは、来年1月に34歳になるその年齢だ。

 選手の寿命はじわり伸びている様子だが、34歳は実際、結構なベテランだ。2018年6月まで、持つ場合もあるが、持たない場合もある。そこまで代表チームの大黒柱でいられるか否かはまさに微妙な話。監督は、持たなかった場合に備えておく必要がある。

 だがハリルホジッチは、そうした不安を抱える長谷部に頼ってきた。入れ替わるのは、守備的MFでコンビを組む若い方の1人。手は打ってこなかった。リスク管理を怠ってきたと言われても仕方がない。

 その長谷部という、代わりのいない選手に今回、故障が発生したわけだ。代役として出場し、活躍した今野はハリルホジッチの過ちを補った恩人に値する。

 だが長谷部は、ハリルホジッチに「長谷部なしのチームは考えられない」と言われた選手だ。その言葉が生きているなら、長谷部が回復すれば、ファーストチョイスは恩人・今野ではなく、長谷部になる。ハリルホジッチが次回選択するのは今野(34)か長谷部(33)か。両者の年齢を勘案すれば、2人の同時招集はあり得ない。この点について、先に書いた原稿には「興味深い話」と記したが、その後、今野にも故障が発生したことが判明。次回に暗雲が立ちこめている。

 今野に代わって山口蛍とコンビを組む可能性があるのは、倉田秋と追加招集された遠藤航ぐらいだ(所属の浦和では永らくセンターバックを務めているが)。先日のUAE戦のように、守備的MF1人の4−3−3を使用すれば、話は多少変わるが、問題を抱える箇所であることは間違いない。

 リスク管理の甘さが、一試合ズレて表面化したことになる。だが、今度の対戦相手はこのグループ(アジア最終予選B組)の最下位に停滞するタイ。今野がいなくても、長谷部がいなくても、敗戦は考えにくい。苦戦する可能性は高くても、だ。とりあえず、結果オーライ。この守備的MF問題が再度注目されるのは、イラク戦以降になる。

 しかし、だ。行き当たりばったり。その場しのぎ。僕にはハリルホジッチの采配がその様に見える。彼は長谷部が最後まで持つと確信していたのだろうか。「長谷部なしのチームは考えられない」は、かねてから抱いていた想いなのか。予防線を張る言葉にも聞こえる。

 長谷部の故障と戦線離脱。これは予想し得なかった突発的な事故ながら、その対処策は本来、あらかじめ練られておくべきもの。リスク管理ができていれば、「長谷部なしのチームは考えられない」は、出てこないフレーズだ。

 しかし、ハリルホジッチは、長谷部の偉大さを訴え、彼をリスクの対象ではなかったことにした。僕にはそう見えた。そうした話ならば、リスク管理の甘さは追及されにくくなる。試合に敗れた場合も事故のせいにできる。

 長谷部の偉大さは、予想通りメディアを介して世の中に向けてアナウンスされた。「長谷部さんのためにも」等々、それにまつわる選手のコメントがネットを賑わせた。

 長谷部は、何の疑いもない偉大な選手に仕立て上げられていた。盛りすぎとはこのことだ。ロシアW杯本大会に、無条件でスタメンを飾れる選手か否かという視点で言えば半々。長谷部はいつ急速に衰えるかわからないベテランならではの宿命と、これから1年数か月、向き合うことになる。むしろ若手にその座を奪われた方が、日本の本大会での飛躍は望める。そうした味方もできる。

 それは今野泰幸についても言える。中盤のボール操作術やボールさばきという点に関しては、長谷部よりキャプテンらしいプレイが望めるが、あくまでも現状では、だ。

 2010年南アW杯のアジア最終予選を勝ち抜いたとき、時の代表監督、岡田サンはハッキリ口にした。「中心は、中村俊と遠藤だ」と。だが、その時31歳だった中村俊は、最後の最後に、本田圭佑にその座を奪われている。

 出口と入口が、常に開いた状態にあるのが代表チームだ。いまの日本代表を見る限り、絶対的な力を持った選手は1人もいない。また、そう思わなければ、今後に大きな期待は寄せられない。したがって僕は、「長谷部なしのチームは考えられない」は、監督自らのリスク管理の甘さを露呈するフレーズではないかと怪しむ行為に、正当性を見いだしたくなるのである。