北朝鮮の慈江道(チャガンド)に住む女性が、生活苦を理由に自ら命を絶った。その背景には、この地域が抱える特殊な事情があった。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、件の女性は20代で、軍需工場で働いていた。両親と激しく口論した後、家を飛び出した後、山に入り自ら命を絶ったようだが、口論の理由は食べ物だったという。

北朝鮮の食糧事情は、市場経済化の発展によりかなり改善している。しかし、それと同時に貧富の差の拡大も進行しており、権力や利権と無縁で、現金収入を得る手段の限られる人々は相変わらず、飢えの恐怖の中で暮らしている。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

それに加え、慈江道には地域的な特性がある。

北部山間地にあるこの地域は、軍需工場が密集しており、移動が非常に厳しく制限されている。通行証がなくても多くの地域へ訪問が可能な平壌市民でも、慈江道だけは自由に訪れることはできない。他地方の人との結婚すら制限されている。

国連世界食糧計画(WFP)は北朝鮮全域の児童や妊婦に対して食料供給を行っているが、慈江道だけは例外だ。WFPの職員が慈江道への立ち入りを認められないからだ。

このような閉鎖性のため、北朝鮮全域で広がっている市場化の波に乗ろうにも乗れず、人々は軍需工場からの配給に依存して生きている。

配給システムが崩壊した北朝鮮においても、この地域の軍需工場では配給が続けられてきたが、ここ最近はそれも途絶えがちだ。国連安保理で採択された対北朝鮮制裁決議に中国が同調しているため、部品の輸入がままならず、軍需工場の稼働率が下がっているためだ。

情報筋によると、煕川(ヒチョン)工作機械工場は、従業員に食料の配給ができなくなったため、生活必需品作業班で製造されたアルミ製品を渡して、物々交換で食料を手に入れろと言っている。

情報筋はアルミ製品が何かについては言及していないが、おそらく鍋ややかんだろう。しかし、食料が底を突きかけるこの時期に、そんなものと大切なコメを交換しようとする農民はあまりいないだろうと情報筋は嘆く。結局、買い叩かれて少量のコメしか手に入らないことになる。

このような事態になっても、当局は特に対策を取ろうとはしていない。保安員(警察官)は「苦難の行軍(90年代後半の大飢饉)でもないのになんで死ぬんだ?」「自ら命を絶つなんて、反逆行為だということを知らないのか」などといった心無い言葉を遺族に投げかけている。

遺族は「自分の子どもが死んでも同じことが言えるのか」などと激怒している。

隣人たちは「いつになったら貧困から解放されるのだろうか」「国は気にも留めないのに、死んだら損だ」などと遺族を慰めつつ、当局を非難している。