世の中にはどうにも解明できない不思議な出来事が多々ありますが、特に「山」ではその類の話が多く聞かれます。そんな山での恐怖体験をされた方から直接お話を聞き編まれた一冊の本が、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で紹介されています。

『山怪 弐 山人が語る不思議な話』

田中康弘・著 山と渓谷社

田中康弘『山怪 弐 山人が語る不思議な話』を読んだ。2015年のベストセラー「山怪」の第二弾。前作と同じ手法で日本各地を回り、話を聞いている。山間部に暮らす人、森林伐採等の山仕事に従事する人、登山者、猟師、修験者などから様々な体験談を引き出す。どこに不思議な話があるのか、分からないままに「彷徨える取材」を重ねた労作である。不思議な話がほとんどで、心底恐い話はないが、じわじわ来るイヤな気分は味わい深い、という読後感はほぼ同じだった。ひとまず用心して、眠る前の読書はやめた。明るいテラスで一気に読了し、めぼしい話を再読しようと、もう一度本を開く。

かなり恐ろしい話がある。朝早く山菜採りに出かけるのが面倒なので、夜中に山中に入り車中で仮眠していた。林業関係者以外は車で入れない林道である。ふと胸苦しさに目が覚めた。たまらなくいやーな感じ。シートから体を起こして驚いた。「人がね、いるの。たくさんの人がその辺りの森の中にいるのが見えるんだよね。車の中を覗き込む人もいてね。それが段々増えてきて周りを囲まれたんだよ。みんなね、女工さんなんだよ。昔の女工さんの格好をした人たちが車に手をついて中をじっと見てたんだよ。あれは怖かったよ」って、そこは野麦峠である。どうやって帰ってきたかは書かれていないが、これ怖い。

これもリアルにイヤだろうなという不思議な経験談。ある秋の日にキノコ採りに出かけた。すれ違い出来ない細い林道を進んでいくと、待避所に一台の軽トラが止まっていた。見覚えのない車でナンバーも他地区。仕方ないのでもう少し上まで行くかと登っていくと、また待避所に軽トラが。さっきの軽トラである。先回りは不可能なはずだ。さらに登っていくと、また待避所にあの軽トラが。キノコ採りどころではなくなった。軽トラのことは考えないようにして、ひたすら里へと逃げ帰った。後日、そのことを先輩猟師にすると、彼は「ああ、そんなことならあるかもしれないなあ」。妙に安心したそうだが、これ怖い。

長らく林業関係の研究職に携わってきた90歳の人が言う。

「山や森には分からんことがたくさんあるんですよ。それは解明できんし、また全部解明する必要もないと思うんです。不思議なことはないという全面否定じゃ駄目じゃないですかねえ」

山のベテランが道に迷ったり、いつの間にか思わぬ所にいたり、変な音を聞いたり、変な発光体を見たり、何物かにあとをつけられたり、「錯覚だ」で片づけられない事態に陥ったり、山や田舎は怪異がいっぱい。「人知を超えた存在は少なからずあり、それを恐れ敬う行為は人として必要だ」と著者は考えている。わたしも同感だが、そういう存在に会いたくない。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

 

 

『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』

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出典元:まぐまぐニュース!