英国の国会議事堂で起こったテロ事件は、警官を含む4人が犠牲になった。刃物で襲われたこの警官は、銃を携帯していなかった。というのも、一般市民の銃所持が合法の米国とは対照的に、英国では警官でさえも基本的に銃を携帯していないためだ。

英国警官は丸腰

テロを受けてロンドンのサディク・カーン市長は、「ロンドン市民はテロの脅しに決して屈しない」との声明を発表。「ロンドンは世界でも有数の安全な都市であり続ける」と語った。

ロンドンを含め英国の警官は、一部の特殊部隊を除き基本的には拳銃を所持していない(北アイルランドを除く)。世界的に安全な都市と言われる東京でさえ、警官は常に銃で武装していることを考えると、ロンドンがいかに普段は危険ではないか、想像に難しくないだろう。

ワシントン・ポストによると、警官が拳銃で武装していない国は世界的にも珍しく、英国のほかにはアイルランド、アイスランド、ノルウェー、ニュージーランドなどごくわずかだ。

「武器は市民との間に壁を作る」

英国のマンチェスターで2012年、勤務中の警察官2人が銃と手投げ弾で襲われ殺害された事件があった。これを受けて、警察官は銃を携帯すべきだという世論が持ち上がったが、当時のグレーター・マンチェスター警察署長は記者会見で、「英国の警察業務は武装しないということに、我々は情熱を持っている」と、方針に変わりないことを強調。さらに、「米国や他国での事例を見ても、武装すれば警官が射殺されない、ということにはならない」と指摘した。

警官が武装していない理由はさまざまだが、歴史的背景も大きい。ウォルバーハンプトン大学のワディントン教授がBBCに語った話によると、ロンドン警視庁が設立された19世紀当時、軍は市民から恐れられており、武器を持った赤い制服を身につけた軍隊と差別化するために、警官は武器を持たず青い制服を身につけたという。

また、ロンドン警視庁のホーガン=ハウ警視総監はNBCニュースに対し、英国の警察は市民の一部であり、武器は市民と警察の間に壁を作ってしまうため、銃を携帯していないと説明した。現在、ロンドン警視庁の警官の90%以上が銃を携帯していないという。警官が携帯している武器は、警棒、催涙スプレーなど。これで、860万人超のロンドン市民や世界中から集まる観光客を守っている。

松丸さとみ