自動車テクノロジーの最先端を疾走する、ベルリンの起業家が描く未来

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自動車大手3社が買収のデジタル地図「HERE」もベルリンから生まれた──。21世紀初頭からモビリティの未来を見つめ続けてきた男が歩いた道を辿る。

ドイツのモビリティ分野のイノベーションはこの人を抜きにして語れない。”ベルリンのスタートアップ界のリチャード・ブランソン”と呼ばれるのが1970年生まれのホルガー・ウェイスだ。 

2000年代初頭に経営に参画したナビゲーションソフト企業gate5は後にBMW・アウディ・ダイムラーの自動車連合が28億ユーロ(約3,200億円)で買収する地図ソフト「HERE」を生み出した。 

06年にgate5をノキアに売却後、エンジェル投資家として設立を助けたのが自動車向け音楽ストリーミングサービスのAUPEO!だ。その後CEOに就任し、勃興期にあった車内向けエンターテインメント分野をリード。そのAUPEO!は13年に北米パナソニックに売却した。 

現在はテクノロジー系ベンチャー投資会社のターゲットパートナーズに在籍しつつ、ベルリンを代表する連続起業家として、各地のカンファレンスに登壇している。若手起業家らのメンター的役割も担っている。

「スタートアップの世界に飛び込んだのは30代の手前。最初から起業家志向だったわけじゃなく、ハンブルグ大学で経済を学んだ後、欧州最大のメディア企業の一つ、アクセル・シュプリンガーに就職した。大企業特有の社内政治で、物事の決定が遅いと思ったこともあった。その頃は第一次ドットコムバブルで、世界が大きく変わりつつあることも感じていた。大学の仲間にテック系の企業に進んだメンバーも居て、会社から飛び出したいと思ったのが28歳の頃だった」

まだグーグルマップが登場する前の当時、ナビゲーション分野ではオランダのTeleAtlasや米NAVTEQといった企業がデジタル地図の基礎を築き、ウェイスが加わったgate5もその中の一社だった。

デジタル地図の勃興期に起業

「仕事は最初スムーズには行かなかった。911テロで1年ほど何も出来ない状況もあった。その後は2年ほど香港に住み、アジアのソフトウェア企業と調整を重ねた。当時はカーナビの普及期で、デジタル化した地図をCD-ROMに入れて販売するようなビジネスモデルだった。その後、ノキアとのつきあいが始まった」 

06年にgate5をノキアに売却。その後、ノキアのオペレーションに関わりつつ、温めていたのが後に「コネクテッド・カー」と呼ばれるようになるビジョンだ。そして08年、エンジェル投資家として車載ストリーミングサービスAUPEO!の設立を助けた。

「音楽を入り口にして、交通情報や天気といった領域にコンテンツを拡大していく。BMWやメルセデスもそのアイデアに魅力を感じてくれていた」 

08年と言えば音楽配信サイト「スポティファイ」が立ち上がったのと同じ年。AUPEO!もスポティファイと同様に楽曲のリコメンド機能は備えてはいたが、大きく違ったのはビジネスモデルだった。

「AUPEO!は当初からB2Bのビジネスモデルをとった。楽曲のライセンス料は自動車メーカーから徴収し、レコード会社に戻す。最初から国をまたいだ配信を前提としていたため、ダウンロードや特定の曲の再生は出来ない”ラジオ型”の契約にした。日本のユニバーサルミュージックにも交渉に行った。神宮外苑の銀杏並木の美しさを今でも覚えている」 

アメリカのスタートアップにありがちな「とにかくマーケットシェアを奪い、マネタイズは後から考える」というスタイルはとらなかった。

「グーグルやフェイスブックのようなスタイルは、巨大なテクノロジー市場と潤沢な資金を持つベンチャー投資会社があるシリコンバレーだからこそ可能な話。ドイツ人の起業家として、自分は自動車メーカーのエコシステムの周辺で事業を行うのが自然な流れだった」

数年間でサービス地域を40カ国以上に拡大したAUPEO!は現在、北米パナソニックの傘下に引き継がれ、同社の車載システム事業の一翼を担っている。

「かつて、スマートフォンの登場でフィーチャーフォン関連のビジネスが一気に崩壊したような事態が、自動車業界にも訪れるかもしれない。アマゾンやアリババが車を作るかもしれないし、BMWよりもアップルやサムスンがブランド力をもつかもしれない。大手自動車メーカーは川下に押しやられる恐怖を感じている」 

ウェイスが新たに設立した企業、German Autolabsは16年11月、200万ユーロの資金を調達。モビリティ分野の新たなイノベーションを加速する。

「本格的な自動運転の時代がもうそこまで来ている。それまでの間に必要なのは、人間のドライバーがデジタル機器を安全に活用しつつ、より便利に運転を行なえる環境を整備すること。洗練されたAI(人工知能)や音声認識、ジェスチャー操作でそれを可能にする支援プロダクトを発表していきたい」 

社員数は現在20名。古巣のHEREでプロダクト責任者を務めたパトリック・ウェイサートも共同創業者に加わった。新旧のテクノロジーの狭間を少数精鋭で走り抜ける。ウェイスのチャレンジはまだまだ続いていく。