【原ゆみこのマドリッド】本当の力はまだわからない…

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▽「なかなか勇気があるわね」そんな風に私が感心していたのは日曜。代表戦中は週末の練習が休みなのを利用して、レアル・マドリーのジダン監督が末っ子のエリアス君を応援しに奥さんのベロニクさんはもとより、RMカスティージャ(マドリーのBチーム、リーガ2部B)所属で今節は出場停止だったエンツォ、負傷中の次男ルカ、カデテBで今週末は試合がなかった三男のテオ君を引き連れて、マハダオンダ(マドリッド近郊)のアトレティコ練習場で行われたアレビンBのマドリーダービーに姿を現したとニュースで知った時のことでした。

▽いやあ、先日のインタビューでアトレティコのシメオネ監督は「選手たちは息子のようなもの」と言いながら、インターナショナルウィークになるたび、数日は練習を“モノ"・ブルゴス第2監督に任せ、リーベル・プレートのユース組織にいる次男のジャンルカ君と三男のジュリアーノ君に会いに行くのが習慣んなっていますけどね。最近は時間ができると、長男のジョバンニがプレーするセリエAのジェノバの試合を見に行ったりもしていますが、やはり自分の息子にサッカーの才能が受け継がれているのを目の当たりにするのは父親にとって、何より嬉しいことなのでしょう。

▽ちなみにそのアトレティコvsマドリーのアレビンダービーは2-1でホームチームの勝利でしたが、そのせいもあってか、ジダン監督がスタンドにいても特に騒ぎにはならなかったよう。まあまだ、来週のparon(パロン/リーガの休止期間)明けはマドリーと新弟分・レガネスとのミニダービーに続いて、その翌週末にならないと、サンティアゴ・ベルナベウでの大人のダービーは到来しませんからね。実際、首位のお隣さんと4位のアトレティコの勝ち点差は現在、10もあるため、今更どうこうという感じではないせいもあるんでしょうけど…。もし両チームが優勝を争っているような状態だったら、ユースチームが試合する練習場のグラウンドにはパルコ(貴賓席)もないため、ちょっと行きにくかったかもしれませんね。

▽え、そんなことより、金曜にスペイン代表のW杯予選、イスラエル戦はどうだったのかって? まあ、想定通りの結果ではありましたが、それでも彼らがいい試合を見せてくれたのは否定できず。いえ、エル・モリロン(スポルティングのホーム)では序盤から、ザハリ(広州富力)が1人で2度程抜け出して、ドッキリさせられたなんてこともあったんですけどね。12分に先制したのはスペインで、ジョルディ・アルバ(バルサ)の敵DFへの股抜きスルーパスを、シルバ(マンチェスター・シティ)が同様にGKマルシアーノ(ヒバーニアンズ)の股間を通すシュートでゴールを決めてくれます。いやあ、決してゴール量産タイプのアタッカーではないとはいえ、彼も今ではセルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)、イニエスタ(バルサ)と合わせて3人しかいないスペイン黄金期の始まり、2008年ユーロ優勝からいるメンバーの生き残り。これで代表通算得点数も29となり、歴代4位のイエロに並んだとなれば、何とも立派じゃありませんか。

▽その後もボールを独占して攻め続けたスペインでしたが、追加点が入ったのはハーフタイム直前のこと。ええ、デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)が敵の危ないヘッドをparadon(パラドン/スーパーセーブ)してくれた直後、チアゴ・アルカンタラ(バイエルン)からパスをもらったビトロ(セビージャ)のシュートがマルシアーノの手に当たりながら、最後はシルバに見守られてラインを割ってくれます。ちなみにビトロはロペテギ監督時代になってからの新戦力で、当人も「Cuando vengo aquí veo portería con facilidad/クアンドー・ベンゴ・アキー・ベオ・ポルテリア・コン・ファシリダッド(代表に来るとゴールが簡単に入る)」と言っていましたが、この2018年W杯予選ではすでに5試合で4点目。まだ27歳ですし、この先もスペインのゴール供給源になってくれることが期待されます。

▽そして後半にはいよいよ、待望のCFによる追加点が入ったんですが、意外なことにそれはセットプレーから。ええ、50分、スペインにCKのチャンスが巡ってくると、キッカーに立ったのはチアゴ。「ウチにはラモス、ピケ、ジエゴ・コスタと3人の偉大なcabeceadores(カベセアドーレス/ヘッドの得意な選手)がいる。大抵はラモスを探すんだけど、ジエゴには試合中、ずっとパスを頼まれていて借りがあった」と当人は後で言っていましたが、まあバルサ出身、おまけに4月のCL準々決勝でマドリーと当たる彼が、つい同じブラジル人であるチェルシーのFWにボールを送ってしまったというのもわからなくはない?

▽おかげで見事にヘッドを決め、こちらもこの予選4点目を挙げたジエゴ・コスタでしたが、彼自身は「Me estoy acostumbrando a la manera de jugar aquí/メ・エストイ・アコストゥンブラードー・ア・ラ・マネラ・デ・フガール・アキー(ここでのプレーの仕方に慣れてきている)」と言っていましたけどね。今季もプレミアリーグですでに17得点挙げて好調なんですがこの日、頭以外でゴールを狙っている姿を見た記憶が私にはなし。やっぱりその辺、代表では勝手が違うのかと思いますが、さて。そうそう、ゴールの数分後にもコスタは頭でカルバハル(マドリー)のクロスをエリア内で落とし、シルバのシュートはゴールポストに当たってしまったものの、いいアシスト役を務めてもいましたっけ。

▽これで3点をリードしたため、ロペテギ監督も交代策を発動し、「Thiago tenía una pequeña molestias/ティアゴ・テニア・ウナ・ペケーニャ・モレスティア(チアゴには軽微な痛みがあった)」と代わりにコケ(アトレティコ)、「イニエスタは最近、頻繁にプレーしていなかった」とイスコ(マドリー)を投入。いえ、コケでなく、チアゴが先発だったのは攻撃力を重視したせいで、反対に言えば、コケは相手に対する抑止力になる選手ってことだったんですけどね。75分にはイスラエルがFKからゲルション(ヘント)のヘッドはポストに弾かれてしまったものの、レファエロフ(クラブ・ブルージュ)が撃ち込んでイスラエルが1点を返すことに。それでも最後にいい感じで試合をまとめてくれたのは、場内から大きな拍手を受けて交代したイニエスタにも「Tiene un talento brutal/ティエネ・ウン・タレントー・ブルタル(物凄い才能を持っている)」と褒められていたイスコでした。

▽ええ、87分にGKの逆を突く、それ程スピードのないシュートが敵の複数DFの間を縫ってゴールになった時は私も呆気に取られたものです。今回の代表戦週間が始まってからもまだマドリーとの延長契約に漕ぎつけていない彼には宿敵バルサを始め、様々なチームからのオファーの噂が途切れず。それに関して当人は、「今はparon(パロン/リーガの停止期間)であまりサッカーがなくて、マスコミはニュースを作らないといけない。Yo hablo en el campo/ジョ・アブロ・エン・エル・カンポ(ボクはピッチで話すよ)」と言っていましたが、どちらにせよ彼の契約が終わるのは2018年ですしね。実際、リーガのない週には、アトレティコの控えGKモヤが来季終了までの延長にサインしたなんていう、確定した話は別として、ページの埋め草のような記事ばかり出て来るのは私もどうかと思いますよ。

▽結局、イスラエルに4-1で快勝したスペインだったんですが、残念だったのは予選Gグループで同じ勝ち点で並ぶイタリアも2-0と勝利。スペインが単独首位に立つことができなかったことですが、まあ、これは「Sabemos que esto es una carrera de fondo/サベモス・ケ・エスト・エス・ウナ・カレラ・デ・フォンド(これが長距離走なのは知っている)」(カルバハルも)というのは事実ですからね。ただ、「ウチはイタリアが勝ち点を取りこぼしてくれることを期待するしかない」と言われても、2度目の直接対決が9月にありますし、いくらあとイエローカード1枚で累積警告だったラモス、ピケ、ブスケツ、チアゴ、ビトロ、コスタらが今回の試合を無傷で終え、そのため逆に3月のマケドニア戦でカードをもらったら、大一番に出られない危険があるとはいえ、ちょっと消極的では?

▽選手たちがそんな姿勢だから、最近は代表戦が満員にならず、エル・モリロンも3万人収容のところ、1万6000人しかファンが来てくれなかったんだというのは単なる私の屁理屈ですが、何せここ2回の国際主要大会(2014年W杯グループリーグ敗退、2016年ユーロ・ベスト16敗退)で彼らは不成績が続いていますからねえ。また優勝トロフィーを持ち帰るぐらい強いチームに戻ってくれれば、代表人気も高まってくれるんじゃないかと思いますが、こればっかりは。リヒテンシュタインなどに比べれば、予選グループの中で強い方ではあるとはいえ、イスラエル相手にいいプレーを披露したとしても、本大会で倒さないといけない敵はドイツやイタリア、フランス、ポルトガルetc.。それまではやっぱり、スペインが以前の実力を取り戻したのかどうか、本当のところはわかりませんよね。

▽そして選手の希望通り、試合後にはヒホン(スペイン北部のビーチリゾート)から帰京。土曜はラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設でリハビリトレをしたチームは日曜午後1時まで自由時間をもらえることに。近所に自宅があるマドリーやアトレティコの選手だけでなく、プレミア勢やブンデス勢でなければ、バルサも含めて家族の元に戻ったようですが、まあ次は前回のユーロ準優勝チームのフランス相手とはいえ、親善試合ですからね。ロペテギ監督も火曜午後9時(日本時間翌午前4時)からのスタッド・ド・フランスでは金曜に使えなかったモラタ(マドリー)やデウロフェウ(ミラン)、プレー時間が数分だったイアゴ・アスパス(セルタ)ら、違う攻撃オプションを試してみる気になるかも。

▽ただ、フランスも土曜にはアトレティコでここ3回連続失敗して以来、キッカーを辞退していたグリーズマンがとうとうPKを決めたこともあって、ルクセンブルクに3-1で勝利。決して侮ることはできないんです。ただ、先日、注目を浴びていたのはバルブエナへの脅迫関与事件が発覚してから、ここ1年半、デ・シャン監督からお呼びがかかっていないマドリーのベンゼマで、バルデベバス(バラハス空港の近く)での練習だけでは時間が余ってしまうせいもあるんでしょうけどね。フランスのラジオ局のインタビューを受け、「代表に招集されないのは不公平だと思う。バルブエナの件のせいだったら、ボクはもうとっくにツケを払った」と不満を爆発させることに。

▽いえ、当人曰く、「自分の実力は、8年前からマドリーでやっていることが物語っている」そうで、今回は負傷で代表に行かなかった同僚のヴァランなども「Si lleva tantos años como delantero del Madrid es por algo/シー・ジェバ・タントス・アーニョス・コモ・デランテーロ・デル・マドリッド・エス・ポル・アルゴ(これだけの年数、マドリーのFWでいるのは何か理由があるおかげ)」と応援してあげていたんですけどね。ベンゼマと同じラジオ番組に出演したペレス会長が、もちろん自身で彼の自宅まで行って入団を勧誘したという経緯はあるとはいえ、「私にとって、彼は世界最高の9番。私なら永遠にマドリーにいてもらうね」というのは少々、マズくない?

▽うーん、ルクセンブルク戦ではグリーズマンの他にもジルー(アーセナル)が2得点を挙げていますし、近頃人気沸騰中、マンチェスター・ユナイテッドやそれこそマドリーも獲得を狙っているという噂もあるムバッペ(モナコ)もA代表デビューしましたからね。となると、「デ・シャン監督が戦術的判断でボクを呼ばないというなら、要は自分よりいい選手がいるって言いたいんだろう」(ベンゼマ)という読みの方が案外、当たっていたりして。

▽ちなみにマドリー勢では今回のヨーロッパ予選、ベイルのウェールズはアイルランドとスコアレスドローで引き分け、クリスチアーノ・ロナウドとペペが出場したポルトガルは前者が2ゴールを挙げて、3-0でハンガリーに快勝。クロースのいるドイツもアゼルバイジャンを1-4で一蹴して、アトレティコのブルサリコが左ヒザのケガで参加できず、自宅で応援していたクロアチアもモドリッチとコバチッチがプレーして、1-0でウクライナに勝っていますが、何せW杯はこの試合でようやく半分が終わったばかり。各グループ首位のみ参加が確定、2位チームはプレーオフということで、来年の夏、ロシアの本大会でどれだけ馴染みの選手を見ることができるか、まだまだわからないのはじれったいですよね。【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している