黎明通りを視察する金正恩氏

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北朝鮮の金正恩党委員長は、タワーマンションが相当好きなようだ。高層ビルの建設や運営に関する国際NPOである高層ビル・都市居住協議会(CTBUH)のデータによると、平壌市内で高さ100メートルを超えるタワーマンションは、建設中のものを含めて26棟。高さはわからないが30階を超えるマンションを含めると35棟になる。

看護師も失神する地獄

1989年に完成した光復通りの4棟を除けば、すべて金正恩時代に建てられたものだ。46階建ての金策(キムチェク)工業大学教育者住宅、未来科学者通りの53階建てのマンションにつづき、完工間近と伝えられている黎明(リョミョン)通りのタワーマンションは高さ270メートル、82階建てだ。日本で最も高い住居専用の建物は、大阪のザ・北浜タワー(高さ209.35メートル、54階建て)であることを考えると、黎明通りのタワーマンションがいかに高いかわかる。

こうしたタワーマンションの建設によって経済が潤えばいいのだが、今の北朝鮮の経済事情からすれば分不相応と言わざるをえない。なによりも、重要な記念日や大きな政治的行事の場で成果として発表するために、ハコモノ作りの工期を無理やり短縮する突貫工事「速度戦」のため、建設の過程で事故が多発している。

朝鮮労働党の機関紙である労働新聞は先月1日、崔龍海(チェ・リョンヘ)氏が、黎明通りの建設現場を視察したと伝えた。北朝鮮メディアが正恩氏と内閣総理以外の個別幹部の視察を報じるのは、極めて異例だ。そして、内部情報筋の話によれば、この視察は、現場で起きた労働者30数人の死亡事故の収拾を図るためだったという。以前から、北朝鮮ではこのような大規模事故は多発している。

空から汚物が

過去には高速道路の工事現場で、橋が崩落し500人が死亡する事故が起きた。後に韓国へ逃れた目撃者たちの証言によれば、この崩落事故で川原には原形をとどめない死体が散乱し、現場は救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

そして、マンションが完成しても高層階には入居している人がほとんどいないという不思議な現象が起きている。

北朝鮮の電力事情は劣悪だ。そのため、マンションのエレベーターもまともに稼働しない。高層階では水道すら使えないことも珍しくない。水を使うには、地上にある水道まで水を汲みに行かなければならない。咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)市のマンションでは、水が出なくてトイレが使えないため、住民は廊下や階段で用を足し、中には窓から「散布」する人もいるぐらいだ。

最近、平壌を訪れたあるビジネスマンによると、タワーマンションの高層階は空き部屋が多いという。そして、行くあてのないコチェビと言われるストリートチルドレンが、入り込んでねぐらにしているとのことだ。工事が中断し、長年放置されていた105階建ての柳京(リュギョン)ホテルにも、コチェビが忍び込んでいるという。

北朝鮮当局も保安員(警察官)を動員してコチェビを追い出していたが、捕まえてもどう処遇すればいいかわからず、結局は取り締まるフリをしていたという。完工間近の黎明通りも、他のタワーマンションと同じようにコチェビたちのねぐらになるだろうと、このビジネスマンは見ている。

ちなみに、韓国で最も高いタワーマンションは釜山にある80階建てのウィーブ・ゼニス・タワーA(300メートル)だ。まさか、金正恩氏は韓国のタワーマンションを超えようとしているわけではないと思うが、それにしてもマンション建設に対する執着ぶりは異常だ。

北朝鮮の経済は相対的に良くなっているが、力を入れるべきは無用の長物のタワーマンション建設ではなく、国民の生活を下支えをするインフラ整備だ。しかし、金正恩氏のハコモノ事業は当分止まりそうにない。