愛人を殺害した容疑で懲役22年の実刑判決を受け、刑務所で服役していた大物GKが刑期の3分の1ほどを終えた時点で仮釈放された。その彼がプロクラブに入団すると、スポンサー企業が彼の獲得に反対してクラブとの契約を打ち切り、市民団体も抗議活動を行なう。これに対してクラブの会長は「彼の社会復帰を手助けしたい」と反論し、サポーターの多くは「大きな戦力になるはず」と入団を歓迎する。そして当のGKは、「早くコンディションを回復して試合に出場し、いずれは代表入りも」と意欲満々――世界の他の国ではまず起こりえないであろう奇怪な騒動が、現在、ブラジルで繰り広げられている。


2010年、警察に逮捕されたときのブルーノ(写真中央/当時フラメンゴ) ブルーノ・フェルナンデス・デ・ソウザ、通称ブルーノ。1984年3月生まれで、33歳になったばかり。191cmの長身でキャッチング技術は確か。反射神経がずば抜けており、足元の技術もすばらしい。

 2002年、18歳のときにアトレチコ・ミネイロでデビューし、2006年からは名門フラメンゴに在籍。PK阻止のスペシャリストで、2007年から2010年前半までにストップしたPKが実に15本。キッカーとしてもFKとPKの名手で、2年間にFKを3本、PKを1本決めて4得点をあげている。

 2009年には当時25歳ながら主将としてチームを牽引し、全国リーグ優勝の立役者となった。2010年初めにはACミランからオファーを受け、移籍目前だった。そのままキャリアを積んでいたら、いずれ代表入りしていたはずだ。2014年ワールドカップに出場していた可能性も大いにあった。

 ブルーノは複雑な家庭環境で育った。幼い頃に両親が育児を放棄し、祖母に育てられた。情緒不安定で、気に入らないことがあるとすぐ腕力に訴える。それは大人になってからも変わらずで、サポーターやチームメイトに暴力を振るったことが何度もある。19歳で結婚したが、女性関係は派手で、複数の愛人がいた。そして2010年2月、愛人の1人が男子を出産すると、彼に認知と養育費の支払いを求めたことに怒り狂った。

 2010年6月、この愛人が行方不明になる。警察は、愛人を誘拐して殺害した容疑でブルーノを逮捕。超名門クラブの有名選手が犯したとされる事件に、国中が大騒ぎになった。

 本人は殺人を否認し、「友人が勝手にやった」と主張したが、2013年3月、懲役22年3カ月の実刑判決を受けた。本人は控訴したものの、刑務所で服役していたが、今年2月、最高裁判所が「第二審の判決が出るまで仮釈放する」という判断を下し、自由の身となった。

 ブルーノは再びサッカー選手としてプレーすることを望んだ。国内外の8クラブからオファーを受けると、3月10日、2部のボア・エスポルチと2年契約を結ぶ。入団会見で、「自分を信じて獲得してくれたクラブに感謝している。練習を積んで、1日でも早くピッチに立ちたい。いつかブラジル代表でプレーするのが夢」と語った。

 ところが、彼を獲得したクラブに対して賛否両論が巻き起こった。スポンサー企業は「会社のイメージが悪くなる」として会長に契約撤回を迫り、会長が「合法的に獲得しており、神の掟にも反していない。彼の社会復帰を手助けしたい」として拒否すると、3つの会社がスポンサー契約を解除した。また、市民団体は「女性を殺した悪魔を入団させるな」といったプラカードを掲げて抗議活動を行なった。

 一方、サポーターの多くは戦力として期待しており、入団を歓迎している。法律に則って仮釈放された以上、彼には仕事をする権利があるのは確かで、最も得意とする分野で社会復帰を果たす道を開くこと自体は間違っていないとも言える。

 7年ものブランクがあるが、身体に異常はない。クラブと本人は、2カ月以内のデビューを目指している。ブルーノが非常に高い能力を備えた選手だったのは間違いない。本人の意欲と体調次第だが、再び国内トップクラスのGKとしてプレーすることは十分にあり得る。今後、彼が再デビューを果たし、レギュラーとして活躍するようなら、国内外でさらに大きな反響を呼ぶはずだ。

 ブラジルでは1995年、当時現役ブラジル代表だったエジムンドが、深夜、ナイトクラブからの帰りに対向車と衝突し、3人を死亡させる事故を起こした。しかし、刑務所に入ることは免れ、対戦相手のサポーターから「人殺し!」と散々に野次られながら、平静を装って健気にプレーしていたのを思い出す(彼が東京ヴェルディと浦和レッズでプレーしたのは、この事件の後のことだ)。ブルーノも間違いなく同様の罵声を浴びるはずだ。そのとき、かつては血の気が多かった彼はどんな振る舞いをみせるのだろうか。

 世界のサッカー界でも前代未聞にして、おそらく空前絶後のケース。しっかり練習を積んで体調を整え、容赦ない野次にもめげることなくすばらしいプレーを見せてチームを勝利に導き、いずれは子供の頃からの夢だったというブラジル代表に初召集される……そんな”劇的”な展開はあるのだろうか。

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