1912年に革命家の孫文らによって中国を代表する国家として成立、のちに毛沢東との政争に敗れて大陸を追われた蒋介石によって台湾島を実効支配する共和制国家となった「中華民国」。その「国」を大陸から排除して以降、中国共産党は一貫して「中華民国時代は暗黒の時代だった」と国民に教育してきました。しかし、無料メルマガ『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』の著者で、中国出身の評論家・石平さんによると、今世紀に入ってから一部で「民国時代を見直す運動」が始まり、自由を謳歌していた民国時代に憧れる人々が徐々に増え、その流れに中国共産党が焦りを感じていると記しています。

「民国時代=暗黒」見直し機運 共産党政権の正統性をひっくり返す危険性

中国の近代史上、「民国時代」と呼ばれる時代があった。

1912年に辛亥革命の結果として中華民国が誕生してから49年に中国共産党が全国政権を樹立するまでの37年間が民国時代である。

中華民国政府を大陸から追い出して今の中華人民共和国を創建してから、中国共産党政権は一貫して民国時代を「暗黒時代」だと定義づけ、極力おとしめている。民国時代が「暗黒時代」だったからこそ、それに取って代わる共産党政権の時代は「良き時代」と宣伝できるからである。

しかし今世紀に入ってから、特に胡錦濤政権時代においては、民国時代を見直そうとする運動が民間から自発的に起こり、中華民国が大陸を統治したこの時代はむしろ経済と文化が繁栄して、知識人は言論と学術の自由を謳歌した良き時代であるとの認識が広がった。民国時代をことさら美化するような「民国神話」まで生まれているが、その背景には当然、今の共産党政権を暗に批判する人々の思惑があった。

その結果、「民国時代は憧れの古き良き時代である」との認識が定着してしまい、今の習近平政権の厳しい思想統制下でも、「民国神話」はいっこうに衰える気配はない。

例えば先月下旬、民国時代に刊行された小学生用の国文や修身の教科書が上海の出版社から復刻されたが、それが全国の書店で陳列された途端に一気に売り切れとなって、各界から絶賛の声が上がった。今から約90年前に編纂(へんさん)された民国時代の教科書が再び歓迎されたことは、現在における民国神話の根強さを示すと同時に、共産党政権下で編纂された今の教科書がいかに不人気であるか、ということを証明している。

同じ今年2月、山西省太原市の地元紙、発展導報の記事によると、太原市の育英中学校という有名な進学校が1億元(約17億円)以上を投じて新校舎を建設し、それが完全に懐古的な「民国風建築」として設計されているという。今の中国で「民国風」と言えば、それはすなわち典雅や上品のイメージである。

今月にはこんな出来事もあった。雲南民族大学の4年生が校内で民国時代の学生服や知識人の服装を身につけ卒業記念写真を撮った。彼らはわざと、現代のカラー写真ではなく、いかにも民国風情のモノクロ写真を撮ってそれをネットで流したが、直ちに全国で大反響を呼んだ。

民国風に憧れているのは若者だけではない。今月3日に広州の新快報が流したニュースによると、広東省東莞市で、数十人の高齢者が民国風の優雅な正服に身を包み、民国風の化粧も施して、「人生最後の記念写真」を撮らせたという。おそらくこれらのお年寄りにとって、民国の「古き良き時代」こそ、自分たちの人生の最後に帰依するところではないのか。

このようにして、民国時代は今、多くの中国人にとっての憧れの古き良き時代となっている。共産党の習近平政権からすればまったく面白くない。民国時代が古き良き時代であるなら、民国政府を転覆させてこの良い時代に終止符を打った共産党の革命とは何だったのか、との疑問は当然出てくるからだ。それは、中国共産党政権の正統性を根底からひっくり返すような危険性を持つものである。

習政権が今になって「民族の偉大なる復興」のスローガンを持ち出したのもある意味では、このような民間の思潮への対抗が目的の一つだ。「自由と繁栄の民国時代」を凌駕(りょうが)するために共産党は「強大なる中国」を演じてみせる以外にない。

そのために、対外的帝国主義政策を推し進めることによって、民国時代以前の中華帝国の回復を図っていくことは、まさに習政権の宿命的な至上課題となっている。

われわれ周辺国家にとって迷惑千万な話である。

image by: Flickr

 

 

『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』

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誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考。来日20年。満を持して日本に帰化した石平(せきへい)が、日本人が、知っているようで本当は知らない中国の真相に迫る。

出典元:まぐまぐニュース!