■稀勢の里優勝の軌跡!

 26日、大相撲3月場所の千秋楽、新横綱稀勢の里が大関照ノ富士を優勝決定戦で下し賜杯を手にした。稀勢の里は14日目を終えて1敗の差で照ノ富士を追い、さらには左肩付近に怪我を負うという絶体絶命の状況だった。13日目の日馬富士戦で左肩付近を怪我した稀勢の里は、14日目の鶴竜戦では相撲にならない取り組みをしていた。

 14日目は出場しただけで場内大歓声だった。それくらい出場を危ぶまれた中で臨んだ稀勢の里だったが、鶴竜にあっけなく敗れた。そのため千秋楽は出ても照ノ富士に勝てるわけがないというのが大方の予想だった。万が一千秋楽で勝利することができても優勝決定戦で勝たなければいけなかった。

■千秋楽、稀勢の里―照ノ富士

 稀勢の里コールが起こった千秋楽だったが、なかなか立ち合いが合わず重苦しい雰囲気だった。前日の照ノ富士の取り組み同様この日も立ち合い不成立。照ノ富士が突っ込み稀勢の里が右に動くも仕切り直しとなってしまった。

 取直しの一番で稀勢の里は、今度は左に動く。中途半端な変化となり照ノ富士に捕まり、稀勢の里の不利な状態となった。押してくる照ノ富士に対し稀勢の里は引きながらいなした。最後は稀勢の里の経験が上回り突き落としで照ノ富士に土を付けた。横綱の重み、負けられない意地が感じられた一番で稀勢の里、照ノ富士ともに13勝2敗となり優勝決定戦へ。

■優勝決定戦

 優勝決定戦でも立ち合いはなかなか合わず、照ノ富士が仕掛けるも「待った」がかかった。仕切り直しとなった立ち合いはやや照ノ富士に有利な形となった。しかし稀勢の里は右腕で照ノ富士を抱えるとそのまま全力の小手投げで照ノ富士を沈めた。その後稀勢の里の身体が土俵外に投げ出される形となったが今度はうまく受け身を取り、笑顔をにじませた。

 場内は割れんばかりの歓声で新横綱稀勢の里の勝利が祝福された。弟弟子の高安は泣いていたし、千秋楽と優勝決定戦で涙を流した相撲ファンは少なくないはずだ。それくらいこの二番は胸を打つものがあった。

■優勝インタビュー

 国歌斉唱から涙が止まらなかった稀勢の里の姿は今場所のむずかしさを物語っていた。新横綱となっての場所や怪我のこともあっただろう。1月場所が終わってから優勝に至るまで休まることの無かった稀勢の里には走馬灯のように思い出が浮かび上がったかもしれない。

 その後の優勝インタビューで稀勢の里が再三「見えない力」という言葉を使用した。それは亡き先代の師匠である鳴門親方だったかもしれないし、ファンかもしれない。しかし怪我にも負けず14日目に出場し、だめでも千秋楽に試行錯誤して勝ちを諦めなかったため得られた力である。稀勢の里が与えてくれた感動は相撲史に残る語り草となることは間違いないだろう。