試合終盤、バックラインの選手たちは監督からの指示を守ることだけに汲々(きゅうきゅう)としていた。

「高いラインで戦え」

 それは戦術軸のひとつだったが、プレスがかからない中でラインを高くしていたら、裏をとられるのは必然だろう。”型”だけは守りたいということか。広大なスペースを守るGKはDFとの呼吸が合わず、目を覆う場面もあった。

 そんな名門、ジェフユナイテッド千葉はJ1の舞台に戻れるのか?


湘南戦で選手たちに指示を与えるフアン・エスナイデル監督(千葉) 3月25日、J2リーグ第5節。8位の千葉はBMWスタジアム平塚に乗り込み、首位に立つ湘南ベルマーレに挑んでいる。

 今シーズンの千葉はJ1昇格に向け、アルゼンチン人監督、フアン・エスナイデルを招聘した。選手としての経歴は群を抜いている。アルゼンチン代表FWとして、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリード、ユベントスなどビッグクラブに在籍。ただ、監督としてはサラゴサBを2部B(実質3部)に残留させたものの、その後は2部のコルドバで途中解任、1部のヘタフェを降格させて2部で解任の憂き目に遭うなど、目立った功績はない。

 その点、采配経験に懐疑的な声もあるが、独自色は打ち出した。

「ハイプレス、ハイライン」

 前線から果敢にプレスし、高いラインで主導権を握る。3-1-4-2という陣形も独特だ。理屈的には、「90分間、攻め続ける」という画期的な戦い方だろう。

 開幕3試合は2勝1分けで上位に躍り出て注目されたが、前節は松本山雅に完敗。湘南戦は「序盤戦のヤマ」だった。

 この日も千葉は試合序盤からバックラインの位置を高くし、ポゼッションで優位に立ち、イニシアチブをとっている。前半20分、波状攻撃から左クロスに清武功暉がヘディングで飛び込んだシーンは迫力を感じさせた。たとえボールを失っても、自陣から遠いためにピンチになりにくく、敵陣でプレスをかけることで、オフサイドの罠にもはめた。

「自分たちはこの戦いをすると、開幕前から決意を持って取り組んできています」

 元パラグアイ代表MFエドゥアルド・アランダは明かしている。アランダは司令塔役。中盤でダイレクトパスを入れ、前衛と後衛をつなげ、幅を使い、チームを動かす。

「ボールを持って、主導権を握って、攻撃的に戦う。開幕から3試合は、それで結果が出ましたね。湘南を相手にしてもその戦いはできたと思います。しかし、湘南はよく持ちこたえて守り、効果的にカウンターを使ってきました。松本戦もそうですが、(最初の3試合と違って)かなり研究されてきているな、という実感はあります」(アランダ)

 昨季までJ1だった湘南は、戦術的完成度の差を見せつけた。千葉の攻めのリズムをつかみ、(3ラインを作って)城門を分厚く固め、パスミスを誘発させ、次第に巻き返していった。

「90分間で見ると、(これまでの試合は)波があって受け止められないことがあったが、今日はやるべきことを整理してゲームプラン通りだった」(湘南の者貴裁監督)

 そして31分、湘南は右サイドの奥深くでボールをキープし、戻したボールをダイレクトで中に入れ、ニアでFWジネイが触って先制した。

「1人の選手に対し、3人でいっているのに、取り切れていない」

 エスナイデルは顔をしかめて言った。ボールをキープした相手選手を2人で挟み込み、もう1人も食いついたが、簡単にパスを出された。それは数的な破綻だった。

「我々はもっとアグレッシブに挑むべきだろう。ポゼッションはできたかもしれないが、それだけだった。(コーチングエリアで声を荒らげていたのは)攻撃のやり方やコースが正しくなく、ボールを落ち着かせられたらダメージを与えられるのにできなかったからだ」

 AMBICION(野心)。

 エスナイデルはその言葉を強調したが、野心はピッチで空転していた。結局、その後は攻めきれないままエネルギーを消耗。後半76分には甘くなった守備から裏を走られて2失点目を喫し、万事休す。最後は冒頭のような有様だった。

「絶対にゴールする、という覚悟を決めてプレーしてほしい」

 エスナイデルはアルゼンチン人らしく、覇気の足りなさに敗因を探していた。「自分がピッチにいたら、3、4点は叩き込んでやるのに」と無念さを覚えただろう。ゴール前のプレーに関し、理想とするイメージとのギャップは大きいはずだ。

 しかし現実的に、高いラインでプレーするにはもっと精密なプレスの回路(練度の高さ)が必要だろう。ボールを握り、運ぶ力も明らかに足りない。なにより、1対1の守備の部分で簡単にはがされる場面が目立ち、そこで前を向かれると、最終ラインは背中にナイフを突き立てられたような状況になってしまう。とりわけ左サイドの裏は脆弱で、今後も狙われるはずだ。

「2試合続けて(松本戦に続いて)、上に行くチャンスを逃した」

 エスナイデルは苛立ちを隠さずに語った。千葉は暫定で9位に後退。スローガンだけが空回りしている。選手が監督の戦術にアジャストするのか、監督が選手を戦術にアジャストさせるのか。いずれにせよ修正は求められる。さもなければJ1の舞台はまたも彼方に消えることになるだろう。

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