法律の専門家である弁護士が、私たちの暮らしに身近な事象についてわかりやすく解説します。今回のテーマは「土地の名義を、亡くなった夫から変更したい」、取材に応じてくれたのはアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士です。

「10年前に夫が亡くなったのですが、家の土地の名義がそのままになっています。毎年、今年こそはと思ってはいたのですが、どこに相談すればよいのかもわからず、気づいたら10年もたってしまいました。名義変更に、期限などはあるのでしょうか。また、家と土地の名義を変更するにはどうしたらよいのでしょうか」

10年経過しても登記に期限はない

Q.名義変更に期限はありますか。

岩沙さん「ご主人が亡くなって10年が経過しているということで、相続の登記をする期限を心配されているようですが、相続の登記に期限はありません」

Q.相続人が複数いる場合はどのようにすればよいのですか。

岩沙さん「ご主人の遺産をどう分けるべきか話し合うことになります。これを『遺産分割協議』といいます。この話し合いがまとまれば、その結果に応じて、土地や建物の登記名義を変更することになります」

Q.早く変更しないことによるデメリットはありますか。

岩沙さん「遺産分割協議をしないままで放置すると、この家や土地を売ることができず、また相続人の高齢化が進むと、判断能力の低下などによって遺産分割協議がしにくくなります。たとえば、相続人の一人が認知症になった場合、裁判所から成年後見人を選任してもらわなければ、遺産分割協議ができなくなる可能性がありますが、成年後見の申し立てには時間と費用がかかってしまいます」

岩沙さん「また相続登記を行うには、亡くなった方の戸籍謄本や、共同相続人の印鑑証明などが必要になりますが、時間がたてばたつほど、それらの必要書類が手に入らなくなる恐れが出てきます。相続すべき財産がかなり高額になる場合には、相続税の問題も出てきます。相続税の申告と納付は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内という期限があり、この期限を過ぎると延滞税などがかかってしまいます」

Q.今回のケースに関してまとめをお願いします。

岩沙さん「相続は放置しておくと利害関係人が増えたり、必要書類が増えたりして、どんどん登記が困難になる危険性があります。ムダな出費や時間を避けるためにも、なるべく早く遺産分割と登記を行うのがよいでしょう。困ったときは弁護士への相談をおすすめしますが、その場合は法務局で登記を取得し相続人関係図を持参するとスムーズです」

(オトナンサー編集部)