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日本を訪れる外国人観光客の中には、居酒屋などで、メニューに表示されていない「お通し代」を徴収されて困惑する人もいるようだ。外国人観光客が多く訪れる沖縄県の沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)では、トラブルを未然に防ぐために、2016年、居酒屋などへメニューの多言語化を呼びかけた。

OCVBが運営する「多言語コンタクトセンター」には、外国人観光客から「レシートに身に覚えのない代金が入っているが、これは何か」という質問が寄せられていたそうだ。呼びかけ後はメニューを多言語化し、お通し代について表記する店舗が増えているという。担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に対して「昨年、一昨年に比べて、最近は、お通し代をめぐる相談は減っている。ほぼ目にしなくなった」と話した。

お通し代をめぐっては、外国人観光客だけではなく、日本人でも違和感がある人が少なくない。ネット上では「お通しはいらない」「日本人でさえ困惑する」という声が上がっていた。そもそも法的には、お通しという、自分が注文していないものに対して代金を支払う必要があるのだろうか。石崎冬貴弁護士に聞いた。

●店と客の間には「お通し」をめぐる契約が成立している

飲食店で食事をする際に、法律を意識することはないと思いますが、当然、その際にも契約が成立しています。お客さんは、注文したものを食べる権利があり、その代金を支払う義務を負います。逆に、お店は、注文を受けたものを調理して、給仕する義務がありますし、その代わりに、食事代をもらう権利があります。普段は意識していませんが、飲食店で食事をする際、私たちはそのような契約を結んでいるのです。

当然、何を注文するかは、お客さんの自由ですが、注文していなくても「お通し」が出てくることは、日本の飲食店において、暗黙の了解になっているところがあります。「お通しをください」と言わなくても、お通しを頼んだものとしてお互い理解しているため、成り立っている制度です。

つまり、居酒屋に入ってお酒を頼んだ時点で、お客さんはお通しを頼んでいる(または、お通しが出されても断らない)し、お店も、これに応じてお通しを出す、という契約が成立しているということになります。

もちろん、お客さんはお通しを断ることもできますが、お店によっては、お通し代が席料を兼ねているなど、絶対に頼んでもらう必要がある場合もありますので、お店側が、「お通しを断るお客さんには退店してもらう」ということも可能です。

ただし、このような共通理解は、文化的背景があって成立するものです。それを知らない外国人に対しても同じことは言えないと思います。トラブルの予防という意味でも、外国人向けのメニューには、「お通し代を請求します」と書いておくべきでしょう。

●「お通し代」の問題は、欧米の「チップ」と同じ

「お通し代」の問題は、欧米の「チップ」と同じように考えてよいと思います。お通しもチップも、文化を前提とした暗黙の了解に基づくものですので、異なる文化圏の方は理解できませんし、そもそもその存在を知りません。

東京オリンピックを前に、温泉マークなどの案内用図記号(ピクトグラム)が整理されたり、飲食店の禁煙などの整備が進んでいますが、「お通し」も同様に考えるべきだと思います。ちなみにチップも、外国人の旅行客が多い場所では、「チップ不要」などの説明が書いてある場合があります。

弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士
石崎 冬貴(いしざき・ふゆき)弁護士
神奈川県弁護士会所属。フードコーディネーターなど食品・フード関係の資格も持ち、飲食店支援サイトを運営するなど、食品業界や飲食店の支援を専門的に行っている。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://food-lawyer.net/