侍ジャパン・青木宣親【写真:Getty Images】

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唯一参加のメジャー選手の重みある言葉「その国のオリジナリティがあっていい」

「王座奪還」という使命を持って第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を戦った野球日本代表「侍ジャパン」。準決勝で惜しくもアメリカ合衆国に1-2で敗れ、優勝の目標を果たすことはできなかった。第1回、第2回と連覇を果たした日本だが、前回の2013年第3回大会では準決勝でプエルトリコに黒星。今回は2大会連続の準決勝敗退となったが、日本が弱くなったというよりも、回を重ねるにつれて各チームのWBCに懸ける本気度が増し、日本を含めた各チームがレベルアップを遂げている結果ではないだろうか。

 では、4年後に訪れる第5回大会に向けて、あるいは3年後の2020年にある東京五輪に向けて、日本が頂点に立つためにはどうしたらいいのか。第4回優勝アメリカや中南米チームに勝つには、何をしたらいいのか。準決勝が終わった後、今回の侍ジャパンでは唯一のメジャー選手だった青木宣親(アストロズ)の言葉にヒントが隠されているように思う。

 アメリカと日本の勝敗を分けた理由を聞かれた青木は、「今回も改めて思いましたけど、野球とベースボールの違いがありますよね」と話した。ただし誤解してはいけないのは、青木は「野球」が「ベースボール」に劣るとは考えていない。1点差で敗れたことについて「メジャーは素晴らしい選手が多いけど、日本の選手も負けていないというのが、この点差だったと思う」としている。違いのある「野球」と「ベースボール」が一発勝負でぶつかった結果、第4回WBC準決勝では「ベースボール」の良さが出た、という考え方だ。

「野球ってやり方がいろいろあるから、それを差だとは思いたくない。やり方次第で野球って勝てたりするもんですから、それを差だとは思いたくない。逆に向こう(アメリカ)にないものはあるわけですから」

「いいところはアメリカの真似をしたい。でも、根本の自分はぶれないように」

 最近は、日本の昔ながらの野球の指導方法や育成方法に、疑問を投げかけられることが多い。もちろん、根性論を小中学生に押しつけて未来ある才能を潰すことは間違っているし、勝利至上主義に走って子供たちから野球をプレーする楽しみを奪ってしまってもいけない。その一方で、今回優勝したアメリカや前回優勝したドミニカ共和国のやり方が全て正しいわけでもない。「野球」は「野球」として、日本人に合った形で発展していけばいいのでは、というのが青木の提言だ。

「日本流でいいと思います。僕らは日本人ですから、そこはベースボールになりきれない部分はある。元々はアメリカから野球=ベースボールっていうのは来たわけですけど、その国のオリジナリティがあっていいと思う。何もかも同じじゃなくていい。

 実際に自分がこっち(アメリカ)でプレーしていても、そういうことを思いながらプレーしています。いいところはアメリカの真似をしたい。でも、根本の自分はぶれないように、日本人だっていうことは、プレーをしても意識していることです」

 2012年にブルワーズ入りして以来、メジャーで6年目で5球団を渡り歩き、ワールドシリーズでのプレー経験も持つ青木。メジャーで生き残るために懸命にプレーしながら、ベースボールが持つ長所短所、日本の野球が持つ長所短所を肌で感じてきたからこそ、その言葉には重みがあると思う。

条件が同じならば「違い」は縮まるのか?

 野球が野球であることを変えずに、アメリカや中南米チームの「ベースボール」に対抗するためには、まず彼らと同じ条件でプレーすることが大事なのではないだろうか。つまり、WBC公式球やメジャー公式球をNPBでも公式球として採用することだ。普段から同じボールを使って同じ土俵の上に立っていれば、日本のオリジナリティある野球がベースボールに勝つ可能性は大きく増すだろう。

 準決勝で侍打線を圧倒したアメリカ先発ロアークについて、青木は「あれだけ低めに投げられるアメリカのピッチャーっていないと思う。本当によかった」と絶賛した。だが、同時に「ああいうシンカー系投手は国際大会でしか経験できないのか?」と聞かれると、こんな話もした。

「結局シンカーを投げると言っても、ボールの違いが出てくる。アメリカのボールは変化しやすい。だからこそ、ああいうボール(シンカー)を投げて(打球を)前に飛ばさせて、1球でアウトを取るって考えをしてますから。日本のボールでロアークが投げても同じ変化はしないと思う」

 同じ技術を持った選手でも、使う道具が変われば結果は変わる。もしかしたら、日本にもロアークのようなシンカーを投げられる投手がいるかもしれないが、ボールが違うために打者たちは、その技術に出会ったことがないように感じているだけなのかもしれない。

 今回の準決勝敗退を単なる負けで終わらせないためにも、そして日本が再び世界一の座に返り咲くためにも、今回の大会で得た経験をフィードバックし、3年後の東京五輪、4年後の第5回WBCに生かすことが大切になるだろう。

佐藤直子●文 text by Naoko Sato