極私的! 月報・青学陸上部 第32回

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 3月上旬、箱根駅伝のコース途中にある湘南 蔦屋書店に中野ジェームズ修一と高木聖也、神野大地、安藤悠哉、小関一輝ら歴代のキャプンテンとマネージャーが集結した。

「青トレ」のトークがメインだが、イベント会場は満員。「青トレ」への関心の高さと青学陸上部の人気に驚かされるばかりだ。


左から高木聖也元マネージャー、神野大地、中野ジェームズ修一、安藤悠哉、小関一輝前マネージャー つい2ヵ月半前、箱根でアンカーを走った安藤とマネージャーの小関は引退し、退寮した。いろいろなことがあった4年間だろうが、その”青学時代”について、彼らと元キャプテンの神野に話をしてもらった。

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 陸上部は1月28日、卒寮式(お別れ会)を終えた。

 例年は卒業式前の3月末に行なわれていたが、今年は合宿の日程と重なるので前倒しされることになった。

 会場は寮の食堂で、卒業する4年生には在校生から寄せ書きされたTシャツが手渡される。昨年の夏合宿の時に使用したTシャツに原晋監督、美穂夫人、在校生やスタッフなど全員が1枚1枚丁寧に想いを書いていく。その特別なギフトは4年生と仲が良く、関わりが深い在校生が手渡すことが通例になっている。
 
 今回、一色恭志は中村祐紀から、小関はマネージャー(主務)を引き継いだ伊藤雅和から受け取った。4年生の最後の言葉に感極まる選手もいるし、逆に4年生が笑いでみんなを沸かすシーンもあった。原監督からは「まとまりのあるいい学年だった。ありがとう」とねぎらいと感謝の言葉が述べられたという。


 クライマックスは秋山雄飛ら4年生の”恋ダンス”だった。

 4年生の有志で「何か踊ろう」と考えていたそうで、昨年末、爆発的な人気を博したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のエンディング”恋ダンス”を練習していたという。「Perfumeじゃないのか」という鋭い突っ込みもあったらしいが、完璧なパフォーマンスで”湘南の神”は4年間を締めた。

 あれから久しぶりに顔を合わせた前キャプテンと前マネージャー。

 神野たち「最強世代」からバトンを渡された安藤と小関の代は終わってみれば、3冠3連覇という、どの世代も成し得なかった快挙を達成した。

 まずは偉業を達成した今だから言えることを聞いた。

安藤悠哉(以下安藤) うーん、僕は今回の箱根、マジで負けると思っていました。大会直前にケガ人や病人が結構出て、冷静にうちの状態と早稲田を比べた時、「これは勝てないなぁ」って思ったんです。しかも、かなり競った状態で僕のところ(10区)に来て、競り合ったら負けるな。自分が連覇を途切れさせてしまうキャプテンになるみたいなイメージをしていました。

小関一輝(以下小関) メンタル弱いなぁ(苦笑)。

安藤 (笑)。実際に勝てると思ったのは往路が終わった時です。

小関 安藤は大会前、自分で勝手に追い込んでメンタル的に不安になってしまう。出雲の時はいい走りをしたけど、全日本の時は緊張してうまくいかなかった。その悪いイメージを箱根でも引きずってしまったのかなって思います。

安藤 そうかも。

小関 箱根前、メンタル面について中野さんに相談したんです。

安藤 えぇ?? そうなの。初めて聞いた。


小関 中野さんとスポーツモチベーションのトレーナーの方々に選手のメンタル面の相談をしていました。個人的にいちばん気を使ったのは秋山です。彼は箱根の10日前のポイント練習がダメで、「もう無理だろう」って本人も思いかけていたんです。でも、声かけひとつで変わってくる選手なので、直前まで自信を持たせるようにサポートをしていこうという話をしていました。秋山は自信がついて「いける」ってなれば、確実に走ってくれる選手なので。

安藤 秋山は厳しい状態で声をかけてしまうと立ち上がることができなくなるんで、自分は見守っていました。でも、今回はさすがに無理だなぁ、使わないだろうなって思っていたんです。でも、監督は使った。正直、すごいなぁって思いましたね。

箱根という大舞台で改めて原監督の眼力の凄さを目のあたりにしたわけだが、監督が選手に与えた影響は非常に大きい。

――4年間の思い出は? その質問に神野は「原監督との出会い」と即答したほどだ。

神野大地(以下神野) 大学時代のいちばんの思い出は原監督、奥さんとのふだんの生活です。原監督とは陸上以外の話をたくさんしましたし、陸上の話も監督から相談してくれたりと、いい意味で仲が良かったです。原監督がすごいのは、選手を見る力。選手の調子や能力をビビっと感じる能力がすごい。また、選手から言葉を引き出したり、選手がのれるように話し掛けたりするのが本当にうまいです。最近は講演やテレビにばっかり出ているとか言われるけど、練習は必ず見ていますし、それだけ要望があるってことは原監督のことを世間が認めているんだと思います。原監督は僕からしたら”神”的存在です。


小関 僕は今、ひとり暮らしをしているんですけど、ひとりだとなんか寂しいんですよ。だから、今はバイトと就活に力入れているんですけど、寮を離れてみて、みんなと毎日明るく、ワイワイやりながら食事をするのがすごく楽しかったなぁって思いますし、それがいちばんの思い出ですね。

――逆にいちばん大変だったことは、どんなことだろう。

小関 大変だったことは、僕が4年になって新チームになった時、チームをうまく機能させることができなくて……。僕が主務になったんですが、マネージャー同士の連係がチグハグだったり、監督の求めるものと選手が求めるものをうまく合致させるのが難しくて、その時はかなり苦しみました。

安藤 僕は3連覇できたこととか、思い出はいろいろあるんですが、いちばん楽しかったことは先輩の部屋に行って一緒に遊んだり、悪さをしたり、そういう日常がいちばんの思い出ですね。大変だったのは”朝”です。僕、朝起きれないんですよ。先輩といた時も自分が遅く起きていたし、4年でキャプテンになってからも朝がつらくて、毎日やめようって思っていた。でも、耐えました(笑)。あと、夏合宿ですね。キツくて本当にダメ。もう一生やりたくないです(苦笑)。

 陸上部での思い出は箱根駅伝優勝とか、タイトル獲得の話になるのかなと思いきや、日常生活における原監督や仲間との絡みやワイワイと明るい雰囲気での食事などが心に強く残っていることに学生らしさを感じた。プロや実業団にはないフラットな人間関係を築き、仲間と苦楽をともに過ごすことができるのは大学時代しかない。特に青学の場合は寮生活で常に顔を突き合わせているのでケンカをしたり、支え合ったり、人との絆をより深めることができる。そういう経験はある意味、タイトルに勝るものなのかもしれない。

 神野は卒業後、コニカミノルタに属して東京五輪を目指しているが、安藤は競技生活を引退、小関は大学にもう1年残るが陸上部から離れた。

 チームは6日に新1年生が入寮し、箱根4連覇に向けて始動した。今後、「青学王国」を継続していくため、青学がさらに強くあり続けるために必要なものはいったい何だろうか……。


安藤 いろいろあるけど、まずは食事の改善じゃないですか。

小関 そことメンタルサポートは、うちが唯一手をつけていないところですね。そこをちょっと気にするだけで、だいぶ変わってくると思います。

 神野も食事が重要だと言う。

神野 さらに上を目指すのであれば、食事の改善ですね。自分は大学の時、ケガが多かったのですが、社会人になってからは一度もケガをしていないんです。練習やトレーニングを変えたわけではないので、じゃ、何が違うのかというと食事なんです。

 いい練習ができてもいい食事ができないと体が作られてこないので、練習が負担になってケガにつながってしまう。あまり食事のことを言うと、監督に「最初はこの食事すらもなかったんだぞ。今のおまえらは幸せだ」って怒られるんですが、僕はそういう中で工夫していました。夕飯は自分で納豆を買ってきてプラスしていましたし、昼飯はかなり命懸けていましたね(笑)。コシード(※寮の近くにある地中海料理店)とかに行って、しっかり食べていました。やっぱり昼にレトルトカレーとか缶詰を食べている選手はだいたいケガをしたり、大会で結果が出ないんです。逆に昼間にちゃんと食べている選手はしっかりと走れていた。それだけ差が出るので、食事は大事ですね。

 また、神野はここまで勝ち続けてきたからこそ陥りやすい「慢心」に注意すべきだと警鐘を鳴らす。

神野 青学がこれまで確立してきた青トレなどのトレーニングや走りのメニュー、そして規律正しい生活。この3つが重要なんですが、3連覇したから「俺たちは強いんだ」って勘違いして、「まぁ、いいか」で、適当に終わらせるような選手がひとり、ふたり出てくるようだと危険ですね。そういう分子が増えて、逆に真剣にやっている選手が少なくなるとチームは負けます。

 その3つをしっかりキープして、押さえるところを押さえてやっていけば、青学は少なくとも毎回優勝争いができるチームであり続けられる。これからもいい選手が入ってくるでしょうし、入ってきた選手の多くが成長しているからです。

 今回、箱根を走った梶谷(瑠哉)や森田(歩希)は僕が4年の時の1年だったんですが、当時は「大丈夫か」って心配していたぐらいだった。でも、成長してきましたからね。個々がしっかりと自覚をして、今やっていることのレベルを下げないことが重要だと思います。


 OBの声は経験し、見てきたからこその重みがある。「マンネリ」は成長の最大の敵だと言われるが、新たな刺激としてまだ手つかずの部分を改良し、内なる敵に抗えば選手もチームもさらに強度が増す。その強度を重ねていけば、箱根4連覇が見えてくるはずだ。

――青学は箱根4連覇できるのでしょうか。

 客席から質問が飛んだ。

「下田(裕太)ら新4年生は意見も文句もハッキリいうので心配してないです。あとは楽しく走ってもらえたら4連覇いけると思います」

 安藤はそう言って笑った。冷静な前キャプテンは、今シーズンの青学の活躍を確信している。

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