舞台は「壊れゆくデータの世界」──奇妙なブラウザーゲーム『Forgotten』の不思議な魅力

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デジタルデータは永遠に残るものだと思っている人がいるかもしれないが、そんなことはない。記録媒体は劣化するし、データが壊れてしまうこともある。『Forgotten』という名のゲームは、時間が経つにつれて壊れてしまうゲームの世界を舞台とした画期的な作品だ。

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コンピューターのプログラムにも寿命がある。データは永遠に残るもののように思えるが、壊れていってしまうのだ。実際、データを保存している物理的な媒体は、時間が経つにつれて機能が損なわれていく。古い情報は不具合によって取り出せなくなり、そして完全に動かなくなる。ウェブブラウザーで動く無料のアドヴェンチャーゲーム『Forgotten』では、最後の時を迎えようとしているある古いヴィデオゲームが描かれている。悲しい運命のひずみによって、ゲームのなかに“住む”者たちも、何が起こっているのかに気付いているのだ。

「このアドレス空間の向こうは闇さ」。登場キャラクターのひとりである、哲学的な思考をもち始めた古いヴィデオゲームのボスはそう話す。彼らがいる世界は1980年代のロールプレイングゲームだが、ゲームは放置され、収集家の地下倉庫で埃をかぶって何年も経ち、世界は完全に消えつつある。ファンタジー世界の住民たちが保存を引き継いでいるが、それも時間に破壊されゆく世界に対していつまでもトリアージを続けているだけでしかない。「がらくたの山だ」と、別のキャラクターが言う。「生命や、まともな精神は欠陥に食い荒らされてしまったのだ」

PHOTOGRAPH COURTESY OF SOPHIA PARK & ARIELLE GRIMES

アートディレクターのアリエル・グライムスがつくり上げた『Forgotten』の世界は、簡潔だが感動的だ。ゲームは架空のコンピューターインタフェース上でプレイするように設計されており、にじんだ紫色と、霧深い長い夜のようなぼんやりとした雰囲気で満たされている。聞こえるのはデスクトップコンピューターのファンがうなる音だけ──。この細かい描写がプレイヤーをどこか静かで孤独な場所に導いていく。忘れ去られた場所にある暗い部屋、たとえば古いベッドルームのような。

ソフィア・パークが手掛けた文章は歯切れがよく詩的であり、崩れゆくファンタジー世界の雰囲気を表現するのにぴったりはまっている。短く実験的なゲームというのは叙情詩のようだ。読み手にさまざまな思いを抱かせ、雰囲気や場面をイメージさせ、よく考えさせたり、余韻を残したりする。『Forgotten』は数分にも満たないゲームのなかでこれをやっているが、うまくいっている。

ゲームをしたあとは古いゲーム機をつないで、過ぎ去りし日々を懐かしんでしまうかもしれない。自分がいない間にゲーム世界に変わったことがないか、確かめてみるといい。

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