沖縄をめぐる報道問題について語る三上智恵監督

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 現在、安倍政権が進めている石垣島、宮古島、奄美大島、与那国島への大規模な自衛隊とミサイル基地の配備。政府は南西諸島の防衛強化を謳うが、実際は、米中の"新たな戦争"の「防波堤」にするのが目的だ──。この衝撃的な事実と、石垣島や宮古島、そして辺野古、高江で子どもの未来を守ろうと必死に抵抗する市民たちの姿を描いた三上智恵監督の最新作『標的の島 風かたか』。
 今回お届けする三上智恵監督のインタビュー後編では、『ニュース女子』デマ報道や「土人」発言など、沖縄をめぐる問題について話を伺った。

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──映画タイトルにもある「風(かじ)かたか」ですが、これは「風よけ」「防波堤」という意味だそうですね。

三上 はい。映画でも最初に出てきますが、昨年6月19日に那覇市で行われた、米軍属によって暴行され殺されてしまった被害者女性を追悼する県民大会で、この言葉が出てきました。
 いままでいろんな県民大会がありましたが、いちばん悲しい県民大会でした。アメリカ軍に対する怒りや日本政府に対する怒りではなくて、自分に対する怒りを、みなさんもって集まっていたと思う。1995年に米軍人による少女暴行事件があって、あのとき沖縄県民は「もう二度と同じような事件はごめんだ」と立ち上がった。けれども、また同じことが起こった。なぜ守れなかったんだろう、私は何を報道してきたんだろう、と。
 県民大会では、古謝美佐子さんが「童神(わらびがみ)」という歌を歌われたんですが、そのなかに「風かたかなとてぃ 産子 花咲かさ」(私が風よけになって この子の花を咲かせてやりたい)という歌詞があります。これは子どもを思う母の歌で、それをこの日に聴くというのは耐えがたくて辛かった。でも、そのあとに名護市長の稲嶺進さんが古謝さんの歌詞を引き、こうスピーチしたんですね。「我々行政にある者、政治の場にいる者、多くの県民、今回もまた、ひとつの命を救う風かたかになれなかった」。
 この言葉に、私だけではなく周りの女性たち全員が号泣しました。日米両政府が決めて、押し付けてくるさまざまな負担、オスプレイが落ち、ヘリが学校に落ち、歩いていたら後ろから殴られて暴行されて殺されてしまう。そんな島で、どうやって大人たちは風かたかになれるのか。なれるわけがないでしょう?と。

──しかし、あんな痛ましい事件が起こったにもかかわらず、安倍政権のみならず「本土」の世論も「沖縄は日本の風かたかであれ」と声を強めているように感じます。そればかりか、『ニュース女子』(TOKYO MX)のようなデマ報道まで起こりました。基地反対運動にかかわる市民の人びとと向かい合ってきた三上監督にとっては、許せないものだったのではないかと思うのですが。

三上 いや、そんなに驚きはしなかったですよ。なぜかと言うと、このバッシングは、ずっとずっとずーっと私たちに向けられてきたものですから。もちろん、これまではネットのなかだけだったのが、地上波のテレビにまで浸食してきたという違いはありますが、以前から読売テレビさんとかはそういう番組をつくっていますよね(苦笑)。MXはそのあとの問題で、「ついに東京まで行ったか」と思いましたけど、『ニュース女子』をつくっているプロダクションは大阪なんですよね。

──それこそ沖縄デマを繰り返し流してきた『そこまで言って委員会NP』と同じ制作プロダクションです。

三上 ただ思うのは、沖縄の反対運動に対するデマというのは、ネットのなかの、すごくどす黒い人たちがつくった言説だけど、みんなが「その話、大好き」「おいしい」と思わなければ、こんなに広がらないですよね。「その話大好き。もっとちょうだい」と言って、ネット右翼がつくり出すその話を面白がってきた。でもね、ほんとうはそこに逃げ込んでいるし、そこにすがりついているんだと思います。

──すがりつく?

三上 たとえば、高江の問題ひとつとって見ても、ヘリパッド建設の反対運動を当初から取り上げていたのは私のいた放送局(琉球朝日放送)だけだったんですよね。ほかの放送局はやらないし、当時は琉球新報も沖縄タイムスも、ほとんどまともな報道はなかった。そんななかで、記者仲間からは「なんで三上さん高江ばっかり行ってるの? 反対運動とデキてるんじゃないの?」と言われたりしていたんですよ(笑)。「あそこはヒッピーたちが住んでいる、反対運動をするために行っている人たちがいるところで、よそ者ばっかりなんだって」とか。いま起こっている1つの現実に対して、そうやって同業者だって全部報道できないジレンマもあるし、それを「選ばない、報道しない」理由を100も探しているんです。
 高江という地域に暮らす人びとは北部訓練所に囲まれながら生き、そして60年代には米軍がベトナム戦争のゲリラ戦の訓練のために「ベトナム村」というものをつくり、高江の住民はゲリラ訓練に現地民の代わりとして動員させられていた。こんなにも屈辱的なことがあって、いままた違うかたちで訓練の標的にされようとしていることに対して、「本土から移り住んでいる人が多いでしょ」と言うことは、まったく道理が合わない。だってその人は県民だし住民なんですよ。
 記者のみならず、一般の人もそう。「沖縄の人がやってるなら同情できるけど、そうじゃないんだってよ」という言説は、ものすごく安易に受け入れやすいと思います。自分がその問題にかかわらない言い訳、知識のなさや意識の低ささえも、そうした言説が洗い流してくれるから。

──とくに「土人」発言後に松井一郎・大阪府知事が「ご苦労様」とTwitterで労いの言葉をかけたことは、事実上、差別を肯定したも同然でした。そうやって為政者が差別を認めてしまうことで、今後、基地の問題だけではなく差別的な言辞が激化していくのではないかという不安があります。

三上 あの松井府知事の擁護があって、大阪では高江の問題を面白可笑しく取り上げる関西の芸人たちが出ている番組が出てきたんですよね。でも、その元祖というか、音を立ててバッシング社会になったいちばんのきっかけは、イラクの人質事件だったと思うんです。あのとき小泉純一郎首相はじめ政治家がみんな「自己責任」と合唱して、自分が何もやらない理由を正当化してしまった。そうしたら今度は日本中の人がバッシングをはじめた。志をもって外国に行きがんばっている若者を「自己責任だ」と言っていじめるなんて、恥も外聞もないですよ。そうやってまともに考えて行動する人たちをみんなで揶揄して足を引っ張っていると、正しいことを言えなくなる、空気を読んで何も言わないという人たちばっかりになっていくでしょう。それは言論が認められないという社会なのだから、恐ろしいことですよね。
 でもね、「土人」発言でひとつ考えなくてはいけないことは、20代の若い人がそう言わざるを得ないくらい、つらい仕事をさせられていたということです。機動隊として対ゲリラのフォーメーションをさまざま学んでいくなかで、彼らは実践として高江や辺野古に来ている。つまり、「治安を乱す人たちがいる」という想定で彼らはやってきているから、沖縄で反対運動をやっている人たちをそういうふうに扱おうとする。でも、実際に自分の目の前にいる反対派の「治安を乱す人たち」であるおじさんやおばさん、若い子たちは、決してそういうふうには見えない。

──映画でも、高江の反対現場で無抵抗で立っている若い女性と、若い機動隊員が相対する場面がありました。悲しげな、不安げな目で感情を語りかけようとしているように見える女性に対し、機動隊員は目を下に逸らす。......あのシーンは見ていて苦しかったです。

三上 苦しいですよね。どこから見ても普通の人たちを「悪者」として扱い、向かい合わなくちゃならないんですから、あんな現場にいたら心が折れてもおかしくない。しかも上司に「この仕事は機動隊がやるべきじゃないです。僕は帰ります」って、そんなこと100人に1人も言えないでしょうし。でも、心が壊れるのも嫌でしょ。そうしたら、「あいつらシナ人なんだぜ。何やってもいいんだぜ」と言われたら、それに乗っかりますよ。差別主義者になって乗り切ろうと思うでしょう。そういう人たちをいま、量産しちゃっている。でもね、それが軍隊なんです。自分の意志は関係ない、自分の正義だとか感性だとかに照らし合わせて考えることを求められていない、それはもう軍隊ですよね。


■「沖縄だけじゃなく、日本列島が"標的の島"なんです」

──しかし、三上監督のように沖縄から現実を伝えようとしても、それを「偏向報道だ」と決め付ける声もあります。

三上 「偏向だ」と言う人には、沖縄に74%も基地を集中させていることは偏っていませんか?と聞きたいですね。そして、この偏った環境のなかで「これでは生きていけないんだ」と言っている人が現実に8割いるんです。そんななかで「そう言っている人もいるけれど、そう言っていない人もいます」というふうに報道することが、果たして公平でしょうか?
 よく「公平」とか「政治的である/ない」とか、そんな話をするときに、「沖縄のなかで反対運動をしている人を出すんだったら、賛成している人も出しなさい」っていうアホみたいな話をする人がいますよね。でも、沖縄の放送局はキー局からこれをずっと言われ続けているんですよ。「辺野古沖にコンクリートブロックが投下されて、反対派の人たちが抗議しています」といったような50秒のニュースをつくっても、「賛成している人たちが出てこないから中央のニュースには乗せられない」なんて言ってくる。じゃあ、どこに賛成している人がいるのか教えてくださいよ、と。
 私は22年、沖縄で生きていますけど、沖縄に置かれている米軍基地に賛成している人なんてひとりもいないと思います。基地を「容認」していると言われている人たちはいますけど、その人たちだって、基地が出来たときに「やったー!」と喜んだような人は誰ひとりいないんですよ。無理やり土地を奪われて、無理やり基地をつくられて、そんななかで「反対」と言ってたら何の生活もできない。アメリカがつくったシステムのなかで、折り合いをつけるしかない。折り合いをつけて、学校をつくってもらったり、道をつくってもらったりしてきた。そうやって折り合いをつけた自分のお父さんやおじいちゃんたちの選択を「あのとき間違っていたんだ」なんて言えないですよ。
 つまり、「基地に反対していない人たちは基地に賛成している人なのか?」ということなんです。「折り合いを付けている人たち」は、いる。「いまさら反対する気なんてまったく起きない人たち」も、いる。でも、それよりもいちばん多いのは「思考停止したほうがいいと思って思考停止した人」と「沈黙するのがいちばんだと思って沈黙した人」です。「容認している人」は一部ですよ。なのに中央のメディアは「賛成派を出せ」というわけですよね。
 だいたい、本当に沖縄に基地をつくりたいと思っている人は沖縄にはいない。どこにいるかと言えば、本土にいるわけでしょう。

──そして「本土」は、基地を認めない沖縄を「中国の脅威が迫っているのに平和ボケしている」と責め立てる......。

三上 平和ボケしているのは中国脅威論を振りかざしている人たちのほうなんですよね。もしも中国が攻めてきたとして、日本が戦って勝てますか? 絶対勝てないですよ。だから戦争をしないように外交で努力することが政府の仕事です。こう話すと、「アメリカが守ってくれるから」「アメリカと組めば勝てる!」と言う人がいますが、そんなことを考えているのが平和ボケです。
 尖閣が安保条約のなかに入っているといっても、米軍が兵を出すかどうかはアメリカの議会でものすごく面倒臭い手続きをしなければ出せない。しかも、尖閣にアメリカが兵を投入しても、何もいいことなんてないですよ。だからこそアメリカは、中国を抑え込むために第一列島線を使おうと考えているわけで、中国からの初期攻撃に対応するのは日本軍と韓国軍とフィリピン軍。いま、そこから「いち抜けた」と言っているのがドゥテルテ大統領ですよ。
 一方、日本と韓国には地位協定も軍事同盟もある。現状はアメリカの言うことを聞くしかないというかたちですから、戦場になるのは日本か韓国であり、先に死ぬのは日本兵か韓国兵です。そんな状態になっているのに、「アメリカが守ってくれる」と信じているなんて......。
 しかも忘れてはいけないのは、第一列島線というのは、南西諸島だけではなく日本列島を含んでいるということです。戦闘が起こるのは南西諸島でしょうが、日本全土がアメリカの「風かたか」になっている。

──つまり、「標的の島」にされつつあるのは、「本土にとっての南西諸島」であり、さらには「アメリカにとっての日本列島」だと。

三上 そうです。「標的の島」というタイトルも「風かたか」という言葉も、何重もの入れ子構造になっているんです。

──てっきり『標的の村』がヒットしたので、二番煎じで『標的の島』になったかと思っていましたが、かなり深いタイトルですね(笑)。

三上 やっぱり、そう思いますよね。私は『風かたか』だけにしたかったんですが、配給側の説得もありまして(笑)。

──ただ、この映画を観れば、軍事要塞にされ、さらには捨石にされようとしている島々には、とても豊かな自然や伝統文化が息づき、当たり前ですがおじいさんおばあさんから赤ちゃんまで、多くの人が日々の暮らしを営んでいるんだということがよくわかると思います。

三上 そう。ここには人が住んでいるんだ!ということをわかってもらえるだけでもいいんです。細かい事情がわからなくても、この島には人が住んでいて、親子の情があって、収穫の喜びがあって、死んでいく人の悲しみや先祖になる喜びや、そういうものがあるんだとわかってくれるだけでいいんです。

──南西諸島のミサイル基地問題は報道がほとんどされていませんから、ぜひテレビでも流してほしい内容ですが......。

三上 テレビでは無理です(苦笑)。でもテレビではないけれど、それを知らせるのが私の仕事ですから、この映画が広がっていけばいいなと思っています。
(取材・構成/編集部)

■『標的の島 風かたか』
3月11日(土)より那覇・桜坂劇場、3月25日(土)より東京・ポレポレ東中野にて公開。ほか、全国順次公開(公式サイトhttp://hyotekinoshima.com/)。

辺野古の新基地建設と、高江でのオスプレイのヘリパッド建設。現場では多くの負傷者・逮捕者を出しながら激しい抵抗が続く。そんななか、さらに宮古島、石垣島でミサイル基地建設と自衛隊配備が進行していた。なぜ、先島諸島を軍事要塞化するのか? それは日本列島と南西諸島を防波堤として中国を軍事的に封じ込めるアメリカの戦略「エアシーバトル構想」の一環であり、日本を守るためではない。基地があれば標的になる、軍隊は市民の命を守らない──沖縄戦で歴史が証明したことだ。だからこそ、この抵抗は止まない。この国は、いま、何を失おうとしているのか。映画は、伝えきれない現実を観るものに突きつける。