女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちのエピソードです。

今回お話を伺ったのは、現在、広告代理店の契約社員として働く太田美桜さん(35歳)。現在の手取りの月収は18万円、埼玉県にある家賃4万円の古いアパートに住み、都内にある広告代理店に通勤しています。

美桜さんは、取材時、裾が毛玉だらけになっているグレーのタートルネックのニットと、ベージュのパンツを合わせていました。靴はトルコブルーのパンプスで、かなり目を引きます。バッグはノーブランドで、クロワッサンのような形をしたショルダータイプ。バッグの中にはマイボトルとティッシュ、マスクとボトルガムが見えます。

身長は160cm程度でやや太り気味。顔は目がパッチリしていてかわいいですが、髪がセミロングのパサパサの黒色で、ところどころ白髪が見えます。しかし、ネイルがすごい。黒地に赤、緑、ブルーのビジューが埋め込まれていて、ブランドバッグのようです。爪の先から5mmくらいの長さで、黒・紫・赤・緑といった色彩が踊っています。本人が地味な感じだけに、ネイルだけが突出して浮いている。

「あ、ネイルですか。これ、会社でもやめろと言われているんですけど、やめられないんですよ。漫画の『東京タラレバ娘』にもありましたけれど、結婚できない、恋愛に病んでいる女はネイルを派手にするんですよ。これはきちんとしている証明だし、女であることを実感するものなんです」

ところで、そのネイルはいくらくらいなのでしょうか?

「3週間に1回行っていて、ここまでデコると3万円くらいになりますね。2時間くらいかけて、たっぷりやってもらっています。クーポンサイトの割引券を使ってもこの値段です。前は黄色にターコイズのネイルをしてもらっていたのですが、女性の上司に突っ込まれてネイルオフしたんです。そうしたら不安になって家から出られなくなってしまって……。上司に“ネイルはアイデンティティーなんです”と言ったらOKしてくれました。それで、ここまで派手に盛ってみました(笑)」

今の会社に勤めてどのくらいですか?今までのキャリアについて教えてください。

「契約社員として採用されてから1年です。21歳のときに5年間のアメリカ留学から帰ってきて、そのまま地元に戻らず、東京に住んで世界的な女性ファッション誌の契約スタッフになったんですが、イジメに遭って半年でやめました。そこから今は8社目くらいでしょうか。基本的に広告代理店とかPR会社、IT関連会社が多いですね」

長期留学の理由は、母親の再婚相手との確執だった。

美桜さんが勤務していたファッション誌は、誰もが知っているもので、その後転職している会社も、おしゃれな印象がある有名な会社ばかり。契約とはいえ、採用の難関を突破するのはなぜかを伺いました。

「16歳から21歳まで留学していたからですよ。英語ができて独立心旺盛だと思われるからでしょう。どんな会社も書類でパスしますよ。面接もハキハキ受け答えしていれば、採用通知がその日のうちに来ます。でも、私は特に仕事ができるわけでもないし、デザイン系のカレッジが最終学歴なのですが、そこでの人脈もない。会社側としては、海外のクリエイターを引っ張ってきて、英語で交渉をし、海外進出を突破する人になると思っているんでしょうけれど、私は地頭が悪いし、仕事も好きじゃない。英語も使わなかったから忘れているし、交渉なんて夢のまた夢」

ところで、なぜ、それほど長期間、留学していたのでしょうか。

「私が中3のときに、母が離婚し、新しい彼と再婚したからです。義父は私のお風呂をチラ見したり、言うことを聞かないと殴ったり、空気のように無視したり、ちょっと変な人だったんです。私に対して虐待する気配を感じて、母の実家がお金を出し、アメリカ留学をさせてくれました」

ストレスがたまると大量のお菓子を食べる、という貧困状態の女性は多い。

勤務先で行なわれるイジメの内容は、肉体的なダメージはないものの解決の手掛かりがないものだった。〜その2〜に続きます