第212回(3/16号)で『移民政策のトリレンマ』という法則を解説した。外国移民受け入れ、安全な国家、そして国民の自由、この三つを同時に成立させることは不可能なのである。トリレンマとは、三者択一を迫られて窮地に追い込まれることを言う。
 ○外国移民を受け入れ、治安を維持しようとすると、自由を失う(※シンガポール)
 ○外国移民を受け入れ、自由を保とうとすると、治安が悪化する(※欧州)
 ○自由を保ちつつ、治安を維持したいならば、外国移民を受け入れることはできない(※これまでの日本)

 ところで、安全な国家とは「治安の維持」つまり防犯とは限らない。防犯以外の各種の安全保障もまた、外国移民を受け入れると危機にさらされることになる(国民の自由を奪うことで、移民受け入れと安全保障強化は両立することが可能かも知れないが)。
 例えば、現在の日本が農業分野で外国移民を受け入れることは、将来的な食料安全保障の崩壊につながる可能性が極めて高い。
 安倍政権は、2016年通常国会で成立を目指す国家戦略特区法改正案において、農業分野で外国人労働者の雇用を容易にする改革案を盛り込む方針を示している。すでに、秋田県大潟村が外国人雇用の農業特区として名乗りを上げているありさまだ。

 さらに、安倍政権は農業分野における外国人雇用を、特区以外にも広めるつもりが満々のようである。山本幸三行政改革担当大臣は、3月7日、国家戦略特区のみで認める農業の専門技術を持つ外国人の雇用について、将来的に特区以外でも認める規制改革を検討すると表明。山本大臣は、
 「自民党でも特区だけでなく外国人が欲しいという声が続発している。広げる方策も考えていかないといけない」
 と語ったのだ。

 日本の農業従事者は、2016年2月時点で317万人。10年前と比較すると、何と208万人も減っている。しかも、農業従事者に65歳以上が占める割合は47%。急速に高齢化が進んでいる。同時に、人手不足も深刻化している。
 確かに日本の農業は「若年労働者」が減り、高齢化が著しい。だからこそ、筆者は日本の農業分野における外国人雇用に猛反対しているのだ。
 日本の農業が高齢化しているからこそ、外国人雇用に依存してはならない。これは、極めて重要な論点だ。

 例えば、日本の農業に若い日本国民が次々に参入している状況ならば、「国籍条項」(中国を除く、など)付きで外国人を日本の農家が雇用することについて、それほど反対する気もない。とはいえ、現実の日本の農業は「若い人が参入しない」状況が続いている。
 「だから、外国人労働者を入れるしかない」
 と、考えた人は、あまりにもナイーブ(幼稚)である。少し考えてみれば誰でも分かるはずだ。
 何しろ、日本の農業の高齢化が進み、若者が参入しないことを理由に外国人を受け入れ、人手不足を解消したとしても、高齢者は間もなく引退するのだ。日本の農家の47%を占める65歳以上の多くは、40年以内には死亡する可能性が高い。少なくとも、農地で働くことは不可能になる。
 となると、高齢者がこの世を去るか、もしくは農業から引退した以降、わが国の農業は主に「外国人」により担われる状況にならざるを得ない。論理的に、必ずそうなる。
 しかも、日本に流入する外国移民の過半数は中国人だ。将来的に、わが国は農業生産のほとんどを外国人(しかもメーンは中国人)に依存せざるを得なくなるわけである。まさに亡国の政策としか呼びようがない。

 「ならば、農業の人手不足はどうすればいいのか!」
 と、反論したくなったかも知れないが、だからこその生産性向上なのである。ロボットやAIを活用することで、農地で人がこなしている作業を代替可能にするためであれば、政府は年に兆円単位のおカネを使っても構わない。