3月18日から公開中の神山健治監督、最新作「ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜」
神山監督インタビューの後編では、ネタバレ要素も含みながら、さらに制作時のエピソードなどを聞いていく。
(前編はこちら


SNSに書き込むことが魔法の起きるきっかけ


──戦辺の狙っているタブレットが、夢の世界では、物や機械に命を与えられる魔法のタブレットになっているのも面白い設定です。現実のタブレット自体、まるで魔法の道具のような存在なので、ファンタジーとテクノロジーの2つが組み合わさっているような……。
神山 僕らの世代だと、あんな板みたいなもので、いろいろとできちゃうこと自体が魔法だなと思いますよ(笑)。SNSなどが発達してきて、そこに何かを書き込むことで、現実の世界でもいろんなエフェクト(結果)が起こるじゃないですか。炎上したり、逆に見知らぬ誰かを助けようみたいな人が集まったり。だから、SNSに言葉を書き込むことって、1つの魔法が起きるきっかけのようだなと感じたんです。僕は、ファンタジーの世界や魔法を設定する時も、どこかで現実と結びついてないとしっくりこないというか……。先ほどもお話ししましたが、いくらでも広がっていっちゃうんですね。


──だから、「物や機械に命を与えられる魔法」と、魔法の力の範囲を限定したのですね。
神山 ココネが見ている夢の内容は、昔、モモタローが話して聞かせたお話だったわけですし、子供に聞かせるお話の中の魔法としては、何でもできる方が良いんです。でも実際の物語を作る中では、具体的な縛りがあった方がいい。それで、構成を進める中、(クライマックスで)ココネが言う魔法の呪文を何にしようということになった時、そのまま「送信」で良いんじゃないかなって(笑)。きっと、モモタローがお話を聞かせていた時、メールをシュッと送信して、「ほら、願い事の魔法が飛んでいったよ。これで願いがかなうんだよ」とか、やって見せたんじゃないかなって。それが、そのまま設定になった感じです。
──ココネが大事にしている犬のぬいぐるみのジョイも可愛いですよね。夢の世界では命を持っていて、釘宮ボイスで元気に動きますし。
神山 ジョイは、ペットキャラもいた方が良いよねというところで生まれたキャラクターではあるのですが、登場する必然性が無いキャラクターは出したくないとも思っていたので、すべてを見てきた重要なキャラクターにしました。あと、ぬいぐるみとして出てくることは決まっていたけど、最初は「熊がいいかな?」とかいろいろ案があったんです。でも、これは桃太郎の話で、お供の猿とキジはいるのに犬がいないから、犬になりました(笑)。


脚本は10か月くらいかけて書いた


──ストーリーの根幹は、早い段階で固まったのですか?
神山 今回は脚本も10か月くらいかけて書きましたし、苦戦したところもありますね。ひとつは、夢と現実が交錯していきながら、(事件を)解決していくところ。ココネの見る夢は、昔、お父さんがココネに話していた物語で、その物語も実際にあったお母さんの話が元になっていた。一番面白いと思ったそのアイデアが、なかなか上手く本編の展開の中にはまらなくて。最初は、わりと早い段階でココネがその事に気づいて、それから旅に出るという構成だったんです。でも、それだと物語のプロットポイント(ターニングポイント)以降で失速しちゃうんですよ。その秘密に気付くところをプロットポイントまでずらしたことで、だいぶスッキリした構成になりました。あとは、お父さんとお母さんの立場というか、力関係も最初は少し違っていて。お父さんの方が自動車の自動運転技術の開発を頑張っていて、お母さんはそれを支える側だったんです。
──完成した作品では、亡くなった母親が世界で初めての自動運転技術を開発し、エンジニアだった父親はそのプログラムのオリジナルコードが入ったタブレットを引き継いだという設定ですね。
神山 いろいろな事を調べたりしている時、もし娘を残して自分が死ぬと分かったら、男親は夢みたいなことを伝えようとするだろうけど、女親はたぶんもっと現実的なことを伝えたいだろうなって思ったんです。そうすると、元々、お父さんの方が出番も多いので、比重として、お母さんの思いみたいなものも大きく書くようにしないと、上手くいかないなと。今の形になるまで、そういうところのバランスは何回も試しました。


新鮮な気持ちで観てもらえるのがオリジナル映画の魅力


──の作品は、ベースとなるテレビシリーズや原作も無いという意味で、神山監督にとっても、初めての完全オリジナルのアニメーション映画です(神山監督が自ら執筆した小説版は発売中)。ご自身としては、どのような手応えを感じていますか?
神山 オリジナル映画の最大の魅力って、どういうストーリーなのか、事前の宣伝以上のことは知らないという、すごく新鮮な気持ちでお客さんに観てもらえるところだと思うんです。ずっと、そういう映画を自分でも作りたいなと思って今までいろいろやってきたのですが、なかなか条件が整わなくて……。でも今回、ようやく、それを作ることができました。やっぱりオリジナルって、作っていてもワクワクするんですよね。誰も観たことないものを自分たちが作っていて。それを初めて見る人が、どういう受け止め方をするんだろうとか想像する。テレビシリーズでもオリジナルの作品(「東のエデン」)をやったので、その時も同じような感覚はありましたが、その時はお客さんのリアクションも返ってきたりする中で、さらに物語を作っていく部分もありました。今回は、完全に全部作り終えてから、「はい、見せます」という形。それは本当に初めてだし、難しくも楽しい経験でした。
──公式サイトのインタビューの中に、日本テレビの奥田誠治プロデューサーから「自分の娘に見せたい映画を」と言われた事が、この作品の始まりだったと書かれていますが。その言葉は、制作中も常に頭の中にあったのでしょうか?
神山 それをずっと柱にしていたところはあります。でも、実際に自分の娘に見せようということではなくて。映画って、そんなにも個人的な動機で作って良いんだというところがキモだったんですよね。映画を作るときって、もっと、なんというか……パブリックな動機が必要なんじゃないかという意識があったんですけど。気持ちがすごく楽になったし、僕にとっては重要なアドバイスだったと思います。
──では、完成した作品を娘さんに見せる予定は?
神山 照れくさいので、どちらかと言えば見せたくはないですね(笑)。
(丸本大輔)