片づけの場は「工事現場」(安東氏)。ゴミ屋敷化は、決して珍しいケースではないという。

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自分では物を片づけられなくなった高齢の親。実家はお屋敷ならぬ「汚屋敷」となり果てている。さて、どうしましょう。

子が親に家の片づけを持ちかけると、必ずといっていいほど反発されます。親ばかりでなく、きょうだいや親戚から「親を死人扱いするのか」と非難されたというケースもよく耳にします。

実家の片づけをテーマにしたハウツー本などには「親の気持ちを尊重して」「ほかの家族にも配慮して」などとよく書かれていますが、それでは物が片づかない場合も多々あります。

実際に私の経験から言えば、実家の片づけに揉め事はつきものです。むしろ、揉めずに済ませることのほうが困難だと思ってください。課題は、反発する親心をどう鎮めるかです。

私がよくアドバイスするのは「片づける」「整理する」という言葉をけっして使わないこと。言葉による説得ではなく、親がこれなら受け入れるだろうという小さな試み、たとえば洗面台のように、毎日使う小さな空間をきれいに、使いやすくするなどして親の反応を見ます。

お年寄りは生活の変化を嫌います。「片づける」「整理する」という言葉には、物を「捨てる」「処分する」というイメージがつきまといます。家が物であふれ、乱雑な状態でも、不自由を感じていなければ「片づけましょう」は、親にとって余計な干渉。好ましくない変化を強いられていると受けとられます。

しかし「きれいにする」「使いやすくする」は、見た目がよくなり、便利になることですから、好ましい変化と受けとられやすいのです。それを試みて「あら、すっきりしたね」とでも言われたらしめたもの。「じゃ、あそこもやってみましょう。手を貸して」と駒を進めます。次の一手では、親と一緒に作業をすることがとても大切です。

■「おじいちゃんが、物を捨て始めた」

片づけの相談を受けた、とあるご夫婦に、頑なに物を捨てたがらない高齢の父親がいました。私は、前述のように一切物を捨てない代わりに、バラバラにため込まれた部屋の中の物を、ただそろえるだけにしましょう、とアドバイスしました。

しばらくして、そのお宅を訪ねると「先生、びっくり」と奥さん。「おじいちゃんが、物を捨て始めた」と言うのです。

片づけようとする子への反発心や、物を捨てられない心の呪縛が解ければ、後は一つ一つを相談しながら、一緒に処分法を考えていけるようになります。

親が日々の暮らしの中で、何に困っているかを聞き、それを改善していくのもよい方法です。そうして話を聞き、親の生活を一緒に改善していく中で、それまで知らなかった親の思い出話や、家族への思いやりに触れる場面がよくあります。親が生きてきた道を理解する意味で、それは貴重な体験にもなります。

きっかけづくりの一つとして、実家に置いたままにしている自分の物を引き取るのもよいと思います。実家を物置代わりにして、私物を預けっぱなしにしてはいませんか? 20〜30代の男性に、そういう方が多いように見受けられます。

実家に放置された子の持ち物は、親には「触れがたい物」「扱い方のわからない物」。それらがなくなるのも、親にとっては好ましい変化であるはずです。空いたスペースの使い道から、片づけの相談に入っていくこともできるかもしれません。

親が好ましいと受け入れてくれる、小さな変化を考える。それは、停滞しがちな高齢者の生活にちょっとした刺激を与えること。新鮮な刺激は、人の活力の源泉でもあります。決して無理強いせず、片づけに入るきっかけづくりをいろいろと工夫してみましょう。

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安東英子
「日本美しい暮らしの空間プロデュース協会」理事長。福岡県の地元TVで13年間リフォーム担当。2014年より東京を拠点に。片づけ・収納アドバイス・リフォーム等々の実績5000軒以上を誇る。

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(日本美しい暮らしの空間プロデュース協会理事長 安東英子 構成=高橋盛男 撮影=的野弘路、石橋素幸 写真提供=木下 修)