国会議事堂

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 国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。

 3月16日、政府の「働き方改革」の目玉のひとつである「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が衆議院本会議で可決しました。主な内容は、失業給付の拡充や育児休業にかかわる制度の見直しなどですが、神澤は「ブラック企業根絶対策」にも注目しています。

 これにより、虚偽の内容の求人を行った企業に対する罰則が設けられ、ハローワークを通じた求人ができなくなります。また、採用された方も、あらかじめ示されていた労働条件と異なる場合などはハローワークに通報できる権利が明確にされました。

 ご存じのように、電通の女性社員が過酷な労働環境の下で自殺に追い込まれてしまった事件が、この法案の成立を後押ししました。しかし、違法残業の疑いで摘発、書類送検された事案はほかにも多くあります。今年に入ってからだけでも、パナソニック、三菱電機、エイチ・アイ・エスなどの担当者が書類送検されていますね。

●ブラックすぎる議員事務所、精神を病む秘書も

 ところで、単に残業時間が長いだけでは「ブラック企業」とはいいません。そもそもブラック企業とはなんなのでしょうか。

 弁護士やジャーナリストの方々によって毎年決定されている「ブラック企業大賞」の公式サイトでは、「ブラック企業を見極める指標」として、長時間労働のほか「セクハラ・パワハラ」「いじめ」「過密労働」「低賃金」「コンプライアンス違反」「育休・産休などの制度の不備」「労組への敵対度」「派遣労働者への差別や依存度」「残業代の未払い(求人票の不実記載)」を挙げています。

 これを初めて読んだときは苦笑するしかありませんでした。なぜかといえば、国会議員事務所に当てはまるものばかりだからです。もちろん、すべての議員事務所がブラックというわけではありませんが。

 周囲の秘書仲間たちの情報を総合すると、ブラック度のトップ3は、残念ながら女性議員の事務所が占めています。

 そのうち2つは自民党の参議院議員の事務所で、もう1つは野党の参議院議員の事務所です。解散がない参議院は仕事の見通しも立てやすいので働きやすく、秘書には人気が高いのですが、この3つの事務所は定着率が最悪で、1年中求人をしています。

 神澤の知る限り、採用されても1〜3カ月で辞めてしまう方ばかりです。辞めた後も精神を病んで、しばらく通院や自宅療養をされているという話も広まっています。

 このブラック度トップ3の事務所に共通しているのは、議員が秘書を人間扱いしないことです。政策秘書であっても重要な仕事は任せないのに、自分のミスは秘書のせいにします。秘書としては、自分のミスでもないのに無能呼ばわりされた挙げ句、議員に代わって謝罪させられるのですから、たまったものではありません。

 それに、「昨日決めたことを今日変える」などということも日常茶飯事のようです。要するに、気分屋で自分勝手な議員なのですが、これでは先のことを考えて計画的な事務所運営などできるはずもありません。

 もうひとつ共通しているのは、秘書同士の仲がとても悪いこと。新人の秘書は、必ず古参の秘書からいじめを受けます。一方で、議員はそれぞれ知名度はかなり高いので選挙では当選を続け、議員活動を続けています。

 実は、こういった例はどの事務所にもあるのですが、このトップ3の事務所はダントツにひどいのです。神澤の先輩の女性秘書も、2年の失業期間を経て、このブラック事務所のひとつに就職しましたが、2カ月で辞めてしまいました。後から聞いた話では、辞めてからも3カ月くらいは心が病んでしまい、自宅から出る元気が出なかったそうです。

●失業しても再就職が難しい議員秘書の実態

 秘書という仕事はとにかく不安定で、何かの理由で失職しても、次の事務所はなかなか見つかりません。民間企業への再就職となれば、不況や年齢などの事情もあってなおさら難しいのが実情です。

 それに、「空きがあればどの政党の事務所でもいい」というわけでもないのです。民進党など複数の党が合併している場合もありますが、基本的には最初に採用された政党で秘書を続けます。

 つまり、自民党議員の事務所の秘書が社民党議員の事務所に移ることは、まずありません。ちなみに自民党以上に採用でコネを重視するのは日本共産党なのですが、そのお話はまたの機会にお伝えします。

 安倍晋三首相には、ぜひ足元にいる私たち国会議員秘書の労働条件の見直しも検討してほしいと思います。私たち秘書は、議員のわがままに日夜振り回されているのです。自殺に追い込まれそうな仲間がいても、その仲間を守ることも助けることもできません。

 そのため、国会議員の秘書としては、政府の目指す方向と議員事務所のブラックぶりに矛盾を感じざるを得ません。秘書たちは、「雇用保険法等の一部を改正する法律案」の可決を横目に「永田町のブラックな労働環境も改革してほしいよねぇ」とグチをこぼし合っています。
(文=神澤志万/国会議員秘書)