「淵に立つ」が国内外で絶賛を呼んだ

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 第89回アカデミー賞で作品賞に輝いた「ムーンライト」の試写会が3月23日、東京・渋谷のユーロライブで行われ、メガホンをとったバリー・ジェンキンス監督と同世代で、「淵に立つ」が第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門の審査員賞を受賞した深田晃司監督が登壇した。

 米マイアミの黒人コミュニティで生きるセクシャルマイノリティのシャロンの人生を幼少期、少年期、青年期の3つの時代に分けて描く本作。アカデミー賞授賞式での誤発表という話題が先行しがちだが、深田監督は何よりも「ものすごくシンプルな構成にびっくりした」と語る。「この映画の強さは、物語が黒人たちだけで進んでいくところ。いわゆる“ブラックムービー”にありがちな記号を用意周到に避けている。例えばスパイク・リーの映画とはまったく違うし、LGBTをテーマに描かれた数年前の『チョコレートドーナツ』のように社会との軋轢(あつれき)を描くわけでもない。当たり前のように、黒人コミュニティにおける恋愛の話になっている」と語る。

 シンプルな構成ゆえ「劇的な瞬間の描写がことごとく避けられている」のも大きな特徴であり、深田監督が映画人として共感を覚えた部分。「感情をむき出しにしたり、怒りで社会を撃つのではない。“省略”の効かせ方が面白い! 僕も、劇的なシーンをどう描くのかは、いつも考えさせられる。クライマックスにそういうシーンを持って来れば収まりはいいけど、僕らの人生の99%は何もないことが繰り返されている。それが、恐ろしくシンプルなラストに至る。ラストのダイナーのシーンは、普通の映画だったらクライマックスになりえない。大事なことをあえて描かない!」と“描かない勇気”を称賛。「成長物語ではないところがいい。ただ時間が流れるし、悟ったようなことを言うわけでもない。僕らが生きている“リアル”に近い」と強調した。

 一方で、「ドラッグや貧困といった問題を、当たり前のように主人公たちが生きる背景として描いてる。これは政治アレルギーの強い日本映画にはないもの」とも指摘。さらに「主人公たちの“純愛”が浮くこともない。これは日本の少女漫画映画とは決定的に違うところ」と鋭くハリウッド映画と日本映画との違いを語る。

 ジェンキンス監督と深田監督は、日本で言うところの“同級生”であり、「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督はさらに年下。同世代として彼らの手法に共感を示しつつ「今年のアカデミー賞で、一気に世代交代が進んだというより、完了したと言える」と感慨深げだった。

 「ムーンライト」は3月31日から全国公開。