イランの“今”を切り取る (C)2015 Jafar Panahi Productions

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 イラン政府によって2010年から“20年間の映画製作禁止令”を受けたジャファル・パナヒ監督が、タクシー運転手に扮装して製作した映画「人生タクシー」の本編映像が、公開された。

 第65回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した本作では、タクシーでテヘラン市街を回るパナヒ監督が、さまざまな乗客と会話をかわす様子を車載カメラで切り取っており、普段なかなか目にできないイランのリアルな“今”を掘り下げている。死刑制度について議論する路上強盗と教師、交通事故にあった夫婦、金魚鉢を抱えた2人の老婆など、個性豊かな乗客が登場する。

 本編映像では、映画監督志望の男子学生の登場シーンを切り取っている。青年は運転席のパナヒ監督に気づくと顔をほころばせて近づき「家に上がってください」と勧めるが、そこに海賊版DVDでひともうけをたくらむ男性オミドが現れ、青年に売りつけようとする。「商業映画はいらない」とはねつける青年に、「アート系か。キム・ド……なんとか。韓国人だ。貴重な黒澤(明)映画もある。特別に売るよ。最後の1枚だ」と食い下がるオミドの商魂たくましさが笑いを誘う。イランの映画事情が垣間見えるワンシーンだ。

 映像では、「大学の課題で短編を撮るんです。本を読み、映画を見て題材を探していますがこれというのが見つからなくて」という青年に、パナヒ監督が金言を授ける場面も。「いいかい。映画はすでに撮られ、本は書かれている。他を探すんだ。題材はどこかに存在してる。(何から始めたらいいか)それが1番難しい。誰も教えてやれない。自分で見つけるんだ」と穏やかに語りかけ、青年に気づきを与える。反政府活動によってこれまでに2度逮捕され、86日間の拘留も経験しているパナヒ監督は、映画製作・脚本執筆・海外旅行・インタビューを20年間禁じられているが、11年に製作された「これは映画ではない」では状況を逆手にとって軟禁生活を映像に収め、映像が入ったUSBファイルを菓子の箱に隠して知人に託し、第64回カンヌ国際映画祭などで絶賛を集めた。パナヒ監督の言葉からは、逆境に決して屈しない不屈の監督魂がにじみ出ている。

 「人生タクシー」は、4月15日から東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。