電車内でデスマッチが繰り広げられるご当地プロレス!

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 プロスポーツにおいて選手と観客は不可侵の関係だ。酔った観客が乱入することがあっても、選手が自ら進んで客席に入ることはない。プロレスを除いては。

 プロレスの大きな特徴が場外戦だ。選手がリングから飛び出し、客席に雪崩れ込んで闘う。時にはイスで殴ったり、客の上着で首を絞めたりする。プロレスで最も盛り上がる場面のひとつだ。

◆リングを使用しないプロレス

 では最も盛り上がるのが場外戦なら、場外戦だけで試合をしてみたらどうだろう? 2008年4月、DDTプロレスリング(以下、DDT)が東京・新宿の伊野尾書店で「本屋プロレス」を開催した。リングは設置せず、店内すべてが戦場となる究極の場外戦だ。

 日常と非日常の融合は大きな反響を呼んだ。DDTは続いて金沢や名古屋でも本屋プロレスを開催。さらにキャンプ場やスポーツジムなどにも進出。「路上プロレス」と呼ばれるスタイルを確立させた。現在はamazonプライムビデオで『ぶらり路上プロレス』なる番組まで制作されているヒットコンテンツだ。

◆バーでの闘いは、リアル『ストリートファイター』

 ヒットが生まれれば、類似製品やサービスが生まれるのはプロレスも同じだ。日本各地でリングを使わないプロレスが相次いで開催されるようになる。単に模倣するだけでなく、オリジナリティを加えたものも多く生まれた。

 名古屋の団体・スポルティーバエンターテイメント(以下、スポルティーバ)のSRS:Survivor of the Ring Sideがその一例だ。スポルティーバは道場兼リング常設会場でもあるスポーツバー「スポルティーバアリーナ」を管理しており、同会場でまれに実施されるハウスルールだ。

 選手はリングに上がらず客席のみで闘う。通常のプロレスルールではリング外に出ると場外カウントがとられ、規定数に達するとリングアウト負けとなる。しかしSRSは逆だ。

 リング“内”に入ると場外カウントがとられ、規定カウント前に出なければ負けだ。本来闘うべき場所に入ってはいけない、逆転の発想だ。

 会場内備品はすべて使用可能となる。机や鍋を使おうが、バーカウンターから飛びかかろうが、天井の梁からブラ下がって攻撃してもいい。アクション映画や格闘ゲームさながらの場面が連続する。

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◆選手を助けることができる、観客参加型プロレス

 単なる場外戦のみに留まらず、既存のプロレスルールも組み込まれているのがSRSの特徴だ。

 プロレスは技をかけていても、競技者どちらかの体がロープに触れる、あるいは一部がロープ外に出れば解除しなくてはならない、ロープブレイク(エスケープ)ルールがある。しかし、SRSはリングを使用しないので当然ロープはない。それでは絞め技や関節技を出せば圧倒的有利になる。

 そこでロープの代わりとなるのは客だ。客の手をつかめばブレイクとなる。新人や人気選手が絞められていれば客が次々と手を伸ばし、悪い・強い選手には引っ込める。まさに観客参加型のプロレスだ。

 このルールが話題を呼び、スポルティーバは名古屋駅そばのビアガーデンと提携。期間限定の催しもの・出張プロレスで人気を博した。

 プロレスラーはどこでだって闘える。その究極形のひとつが、2015年7月に開催された「ローカル線プロレス」だ。

 列車、それも走っている車両内で闘うのだ。山形県の長井市地域おこし協力隊が山形鉄道、東北のローカルプロレス団体・みちのくプロレスとタッグを組み実現させた企画だ。

 観客は山形鉄道・フラワー長井線始発の赤湯駅で、2両編成のうち「リング兼観客席車両」に乗車する。次の南陽市役所駅で選手たちが「控室車両」に乗り込む。

 まず2選手が「リングイン」して試合開始。時間が経過するごとに選手が続々と参戦し、負けた選手は退場する「時間差バトルロイヤル」だ。決して広くはない車両の中で、選手が絞め技で数珠つなぎになったり、通路でランニングキックを放ったりする。

 先日、滋賀県警の男性署員が女性署員にかけてセクハラ行為と言われたロメロスペシャル(吊り天井固め)まで繰り出す選手までいる。

 通常のバトルロイヤルは最後のひとりになるまで試合は続く。しかし、この試合は終着・長井駅に到着すれば終了。残っていた選手がすべて勝利者だ。

 しかし、闘いはまだ終わらない。選手たちは移動し、駅前特設リングで通常ルールの試合もするのだ。車内での闘いは50名ほどの選ばれた観客(いまの時代に往復ハガキで応募)のみが観戦できたが、今度は地元・長井市の人々へプロレスを届ける時間だ。

◆地域の人々にプロレスで元気を届けたい

 ここには”東北の英雄”ザ・グレート・サスケや、山形出身の井上京子、路上プロレスを確立させたDDTの高木三四郎など有名選手らが参戦。一試合闘っている疲れを見せず、熱戦を繰り広げた。

 「ローカル線プロレス」は、ただプロレスを見せるだけのイベントではない。試合前には子どもたちがリングに上がり、長井商工会議所のキャラクター「バーニック・ナガイ」(長井市は馬肉料理の文化をもつ)と一緒に遊んだり、プロレスラーと相撲をとったりする。

 リングそばには屋台が並んでいる。馬肉料理だけでなく、山形牛を使った牛丼や、魚の串焼きなど様々なご当地グルメを楽しむことができる、ちょっとした物産展だ。筆者は牛丼を食べたが、肉の柔らかさと旨味に驚かされた。

 インパクトある企画でプロレスファンや鉄道ファン、多数のマスコミを呼び込み、長井市の名前と名産品を売り込む。さらに地元の人々にはライブのプロレスを楽しんでもらう。関わった人すべてが幸せになる企画だ。

 筆者が帰るため再び長井線に乗ると、長井の人たちが笑顔で手を振り送り出してくれた。第1回記事で、プロレスの魅力は闘いを通して勇気や元気をもらえると述べたが、この時見た試合と長井の人々の笑顔は決して忘れないだろう。

 実行会委員による最後のあいさつでは「長井の私たちは誰かが楽しませてくれるのを待つのではなく、自分たちで楽しくしていくんです」と呼びかけていたが、「ローカル線プロレス」は地域振興イベントの理想形のひとつだ。

 この企画は好評を博し継続され、2016年10月に第2回大会が開催。第3回も計画中とのことだ。

 ヒット企画を単純に模倣するのではなく創意工夫を加え、さらには地域活性化と結びつけてしまう。これがローカルプロレスの柔軟性であり素晴らしさだ。

 町・地域起こしを考えているのなら、近隣のローカルプロレス団体にあたってみてはどうだろうか。プロレスだからこそ実現できる、明るく楽しく、そして熱い企画が生まれるかもしれない。

<文・たこ焼きマシン>

【たこ焼きマシン】
名古屋在住のローカルプロレス探求家。ローカルプロレスファンサイトたこ焼きマシン.com、スーパーたこ焼きマシン.comを運営。北海道から沖縄、台湾まで未知のプロレスを求め観戦に遠征する。ご当地プロレスラーガイドブック『ローカルプロレスラー図鑑』をクラウドファンディングで発行。オンラインストア元・小中学校教員、障害者職業能力開発校講師。夢は世界中すべてのご当地プロレスを観戦しての『ワールドローカルプロレスラー図鑑』制作。