悪とされる「ギャンブル」と正しい「保険」の紙一重の関係

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by Fernando Carnielli

ギャンブル」と「保険」には、どちらも未来で何が起こるかによって、お金の動きが変わるという共通項があります。法律で規制される国も多い「ギャンブル」と、「年金」として国が導入することもある「保険」が、歴史的にも実質的にもいかに近しいものなのか、BBCがまとめています。

What makes gambling wrong but insurance right? - BBC News

http://www.bbc.com/news/business-38905963

サイコロを使ったギャンブルは、5000年前のエジプトで既に行われていました。そして、約4000年前のハンムラビ法典には「冒険貸借」という保険の一種についての決まりが書かれていました。

冒険貸借は、船主が積み荷や船を担保に資本家からお金を借り入れ、もし航海がうまく行けば利息を付けて資本家に借金を返済し、船が沈んだり荷物が失われることになれば返済を行わなくてもいいというものでした。一方で、中国では船同士が積み荷を交換することでリスクヘッジし、片方の船が沈んでも、もう片方の船の積み荷を陸に届ける、という方法が取られていたとのこと。これらの方法は当時まだ成功する確率が低かった航海のリスクを減らすものでしたが、物理的な「交換」という方法は手間がかかるものでした。それゆえに時間の経過と共に、より構造化され、洗練された金融契約が生まれていきます。

1687年になると、エドワード・ロイドという実業家がロンドン・テムズ川沿岸のドックにコーヒーハウスをオープンさせました。当時のコーヒーハウスは船乗りや商人、船主でにぎわい、パトロンたちもコーヒーや紅茶を楽しみながらゴシップ話に花を咲かせたとのこと。その中で、「どの船が何の荷物を積んでいるのか?」ということが話題となり、船が無事に航海を終えられるかどうかという賭け事が生まれていきました。「ジョン・ビング提督は無能だからフランス船と戦うことになったら撃たれるだろう」ということなども賭けられたそうです。



コーヒーハウスの客たちが賭け事の材料を求めていると気づいたロイド氏は情報提供者によるネットワークを構成し、海外の港や潮の流れ、どの船が行き来しているのかという情報をまとめたニュースレターを発行。「ロイズ日報」と呼ばれる海洋情報のニュースレターは、2013年まで紙の新聞として発行され続け、現在はニュースサイトとして運営されています。そして賭け事が行われる中で、船に保険をかけたいと考える人が現れ、次第にギャンブルが「保険」へと形を変えていきます。

ロイド氏がコーヒーハウスをオープンしてから約80年後、これら保険業者らのグループが共同体を設立します。これがロンドンを拠点とする世界的な保険市場ロイズの始まりでした。

一方で、「海」ではなく「山」から生まれた保険も存在します。16世紀、アルプスの農家たちは自分の家畜や子どもが病気になったら、互いの世話をするという合意を結びました。コーヒーハウスの保険業者たちにとってリスクは「トレード」するものでしたが、アルプスの農家たちにとってリスクは「シェア」するものだったのです。



by fengyan du

このような、「リスクをシェアし互いに助け合う社会」という形を取っている最も大きな組織は「政府」です。1600年から1700年にかけてのヨーロッパでは、戦争で戦うためのお金を集める方法として、政府は保険ビジネスを導入しました。政府は公債の代わりに、「お金が無い状態で長生きしすぎた時のリスクから守ってくれる」という保険の一種である年金を売り出します。そして導入された当時はお金を集める名目だった年金は、現在、国人の直面する病気や失業といったリスクを減らすものとして機能しています。

ただし、政府主導の保険は、比較的裕福な国では期待できるものの、貧しい国では期待できません。また、保険は心の平和を作り出すだけではなく、健全な経済の重要な要素であるにも関わらず、そのような場所に対しては民間の保険会社も興味を示しません。

例えば、近年の研究で、南アフリカ共和国に囲まれた内陸国であるレソトでは、干ばつのリスクがあることを理由に、農家が専業になったり農地を拡大することができないことが分かりました。そこで研究者らが保険会社を作り作物保険を売り出したところ、農家らは保険を買い、ビジネスを拡大し始めたとのこと。このように、保険が市場に介入することで、経済が正常に動き出したという例も存在します。

一方で、ギャンブルと保険との境目がもっとも曖昧なのが、金融派生商品のマーケットです。金融派生商品に関する契約では、人々が為替相場などに対して賭けを行います。これらは保険の形を取りつつも、ギャンブルの要素が非常に強いもので、小麦作物の会社が為替レートの上昇をヘッジするために上昇小麦の価格が下がる方に賭けるという、一見すると矛盾することも生じます。そして一般的な保険とは異なり、金融派生商品の市場の保険業者は「自分の身を守ろうとする誰か」を探す必要がなく、「ギャンブルをしたい人」を探すことになります。

2007年に世界金融危機が生じた時、未払いの金融派生商品の額面は実際の経済の何倍も巨大に膨れあがっていました。現実金融派生商品は「派生」という言葉がついていながらメインイベントとなり、世界の経済が付け足しのような状態になっていたのです。そして、この「保険」という顔をしたギャンブルは、現在も引き続き行われることとなっています。