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マーケティングテクノロジーに限らず、2015年頃から急速に注目され始めたAI(Artificial Intelligence)。AIと一口に言っても実は数十年の歴史があり、その中に分類されるテクノロジーは、音声認識、画像認識、自然言語処理のほか、予測分析、機械学習、深層学習まで多岐にわたる。また、それぞれの領域も少しずつ重なる。

そこで本稿では、AIに分類されるテクノロジーをそれぞれ細かく見るのではなく、関連するあらゆるテクノロジーを包含する総称としてAIを扱い、マーケターが業務にどのように役立てることができるかを考えてみたい。

○AIの分類方法

AIの分類方法には数種類ある。AIが議論の俎上に上がる時、最もよく使われるのが「強いAI(Strong AI)」「弱いAI(Weak AI)」という分類である。

元々は1980年に哲学者でカリフォルニア大学バークレー校のJohn Searle教授が提唱したものであり、論文「 Minds, Brains and Science」では、「弱いAIにおけるコンピューターの最大の価値は人間に非常に強力なツールを提供することである。一方、強いAIにおけるコンピューターは単なるツールではなく、適切にプログラミングされた精神であり、思考、感情、記憶を持つ。だから両者を区別するべきだ」としている。

さらに別の分類方法を紹介すると、「広いAI(General AI、汎用的人工知能としても知られる)」「狭いAI(Narrow AI)」がある。

汎用的な推論が可能な広いAIに対して、狭いAIは特定のタスクの遂行のために設計されたシステムを指す。広いAIは人間と同様にある分野で学習したことを他の分野でも応用できるが、狭いAIは特定の分野におけるインプットの内容を解析し、学習し、進化することができる。したがって、過去の行動に基づいて、将来取るべき行動を推奨することができるようなシステムは、他分野への応用ができないという意味で狭いAIに該当することになる。

○ソフトウェアベンダーが目指しているAI適用の方向性

現在、ビジネスへの活用という観点から注目されているのは「狭いAI」であり、ツールとして人間を支援することから「弱いAI」としても理解されている。どちらかというと、国内では「強い」「弱い」で2つを区別することが多いようだ。

マーケターにとって見逃せないのは、大手のアプリケーションベンダーがAIを重視する動きを見せていることだ。2016年9月19日、Oracleが年次カンファレンスのOracle OpenWorld 2016の期間中に発表した「Oracle Adaptive Intelligence Applications」、全く同日の発表となった「Salesforce Einstein」、同年11月にAdobe Systemsのクリエイター向け年次カンファレンス「Adobe MAX 2016」で発表されたAdobe Senseiの3つは、いずれもマーケターにとって重要なものだ。

これらの発表は、AIが企業のビジネス活動に大きな影響を及ぼすことを踏まえてのものである。各社が目指しているのは、いわゆる「弱いAI」「狭いAI」である。いずれも人間のマーケターの仕事に取って代わる汎用的なものではなく、むしろマーケターを支援するものとして開発が進んでいることを理解しておきたい。

○AIがマーケティングテクノロジーに活用されている場面

ビジネス雑誌『Inc.』のオンライン版の記事「10 Examples of AI in Marketing」の著者Adam Fridman氏は、「機械学習の発展によって、AIはSF世界だけのものから現実的なものに変化しており、マーケティングも例外ではない」と指摘している。

Fridman氏はマーケティングへのAI導入事例として、以下のものを挙げている。これらの例を見れば、消費者としての体験からAIが既に私達の生活に浸透していることがお分かりいただけるはずだ。

深層学習
マーケティング業務を支援するAIの根幹を成すテクノロジーであり、文字、音声、画像の認識方法を学習し、回答結果の提供やお薦めの提案のために学習したことを応用するもの。

コンテンツキュレーションとレコメンデーション
読者の好みに合ったコンテンツの提案の裏では、Web上での行動履歴に関する膨大なデータを学習する機械学習や深層学習のようなテクノロジーが活躍している。

SEO対策を施した見出し(クリックベイト)
意図的に扇情的な見出しや刺激的なサムネイル画像を付けて読者のクリックを誘う「クリックベイト」の裏では、深層学習が使われている。

商品・サービスのレコメンデーション
Amazonなどのコマースサイトで一般的なクリックや購入した製品履歴に基づいて他の製品を推奨する仕組みの裏で、AIが活躍している。

音声認識
スマートフォンの音声アシスタントで既になじみのあるテクノロジーであり、音声検索がSEOやコンテンツマーケティングで重要な役割を果たすようになる。

検索
機械学習テクノロジーを活用し、正確なキーワードや表現を入力しなくても、求める結果が返ってくるようになる。

ターゲティング広告
GoogleやFacebookでは、サイト訪問者を追跡するためにターゲット広告用のコードを埋め込んでいるが、AIを活用すれば訪問者を覚えておくことが可能になり、コードは不要になると期待されている。

チャットボット
顧客とのやり取りの中でも単純なものについては、人間が対応するのではなく、もっと低価格かつ効率的な代替手段に任せた方が合理的である。

MA(マーケティングオートメーション)
一人一人の顧客を引き付け、行動を分析し、カスタマイズしたコンテンツを提供するために、AIを活用している。

ダイナミックプライシング
航空券の販売で既に見られるものであり、需要と供給に応じて製品・サービスの価格が決まる。航空会社のWebサイトはコマースサイトでもある。AIの活用で、航空券以外の領域に活用範囲を広がることが期待されている。

(冨永裕子)