マラソンデビューを控える神野は、福岡国際で外国勢と競り合った川内、東京で積極果敢なレースを見せた設楽悠太のような「攻めの姿勢が必要」と語る

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今季も日本マラソン界に“救世主”は現れなかった。今夏に開催される、ロンドン世界選手権の男子マラソン代表選考会となった4レース(福岡国際、別府大分、東京、びわ湖)で、日本人の最高タイムは井上大仁(ひろと、24歳・MHPS)の2時間8分22秒。これは、20年前の水準とほとんど変わらない。

世界では2時間3分台から5分台の好タイムが続出するなか、2020年に東京五輪を迎える日本勢は大きく後れを取っている。しかし、希望を捨てるのはまだ早い。これからマラソンに参戦する“期待のホープ”が残っている。

そのひとりが、箱根駅伝5区の「山の神」から「日本マラソン界の神」を目指す神野(かみの)大地(23歳・コニカミノルタ)だ。すでにロンドン世界選手権のマラソン代表は発表されたが、今回の選考会は神野にどう映ったのだろうか。

「まだマラソンを走っていない自分が言えることではありませんが…。みんな、“安パイ”でいきすぎたかなという印象です。特に、東京は強い外国人選手がいたにもかかわらず、ほとんどの選手がサードペースメーカーの“1km3分ペース”にガッチリついてしまった。そこにどんな意味があるのかなと。

2時間10分前後を目指している選手、東京五輪で勝負する気のない選手はそれでもいいと思うんです。でも、世界と勝負する気持ちがあるならもっと攻めないといけませんよね」

東京五輪でのメダル獲得を本気で狙っている神野は、日本マラソン界の現状にいらだっているように見えた。その厳しい言葉は、自分自身に向けた“覚悟”でもある。

マラソン未経験ながら、神野は社会人1年目のシーズンで大きく成長した。トラック1万mで自己記録を20秒以上も短縮。元日のニューイヤー駅伝で結果を残し、香川丸亀国際ハーフマラソンでは日本長距離界のエース・大迫傑(すぐる、25歳・ナイキ・オレゴン・プロジェクト)に競り勝った。2月には青梅マラソンで30kmレースも経験し、今年12月の福岡国際でマラソンデビューを飾る予定だ。

「自分が福岡国際に出るときには、たとえ先頭が速くても、1km3分のペースメーカーにはつきたくありません。昨年の福岡国際で川内優輝(30歳・埼玉県庁)さんが見せたように、全体のペースが上がらないときは自分から前に出る。強い外国人選手たちと競り合うような攻めの走りをしたいと思っています」

ベテランの意地を見せた川内以上に、神野の心を揺さぶった選手がいる。東京で積極果敢なレースを見せた設楽(したら)悠太(25歳・Honda)だ。

「個人的に、設楽悠太さんの走りはすごいなと思いました。ハーフマラソンを1時間1分台で走れる選手も少ないなか、中間点を1時間1分55秒で通過して、2時間9分27秒でまとめましたからね。結果、日本人3位にはなりましたが、悠太さんのような走りをみんなでやっていくべきだと思います。僕も、世界大会でメダルを期待されるような走りがしたいです」

代表選考会の日本勢の不発は、マラソンデビューに向けて準備を進める神野の闘志に火をつけた。その熱に負けないくらいの、男子マラソン界の今後の奮起に期待したい。

(取材・文/酒井政人 写真/アフロ)