ひどい渋滞を解消する秘策は「クルマの利用を減らす建物」:サンフランシスコ市の取り組み

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サンフランシスコ市でマンションなどを建設するデヴェロッパーには今後、駐車場の数に応じてカーシェアリングなど代替的な移動手段を導入する義務が生じる。ポイント制の導入やデータに基づく新たな施策の数々は、慢性的な渋滞を解決しうるのだろうか。

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サンフランシスコのひどい交通渋滞に打ち勝つことは不可能である。このベイエリアの美しい街に人々が住みたがる限り、マーケット・ストリート周辺にテック企業がオフィスを開き、バーでは果物をベースにした高価なドリンクが提供され、自動車やテック企業専用バス[日本語版記事]で道路は混み合う。

「渋滞に悩まされていない大都市なんて、急速に衰退しつつあるラストベルト地域の都市だけでしょうね」。南カリフォルニア大学(USC)の経済学者で都市計画を研究するマーロン・ボアーネットはそう指摘する。具体的には、デトロイトやバッファロー、ヤングズタウンといった都市のことだ。「米国で最も栄えている都市において、交通渋滞をなくすことは不可能です。なぜならその都市自体が繁栄しているのですから」

だがサンフランシスコ市は、クルマなしでも移動しやすい街にすることで、都市生活を改善できると考えている。市の監理委員会が2月上旬に承認した新たな条例は、新しい建設プロジェクトにおいて無料駐車場の台数が多いほど、クルマ以外の移動手段をさらに多く導入するようデヴェロッパーに義務づけた。つまり、無料駐車場の設置を抑える施策と、代替交通手段の利用促進施策を同時に導入させることで、クルマによる移動を抑制するわけだ。

「ポイント制」導入でクルマの利用を減らす

たとえば、ミッション地区に20カ所の駐車スペースを備えた集合住宅を建設するとしよう。この新しい交通需要マネジメント体制の下では、「13ポイント」が必要になる。このポイントを得るには、カーシェアリングサーヴィスのためのいくつかの専用スペースやメンバーシップを提供する方法がある(+6ポイント)。住人たちが共用できる複数台の自転車を備えてもいい(+1ポイント)。最寄の駅やバス停までのシャトルサーヴィスを用意したり(+14ポイント)、ロビーにリアルタイムの交通スケジュールを表示したスクリーンを設置してもいい(+1ポイント)。施設内に託児所を設ければ、保護者が子どもの送り迎えをする必要が減るので、2ポイントを獲得できる。

市の構想における優先事項は明確である。2040年までに10万世帯と最大60万台のクルマが増えるとみられているサンフランシスコでは、ときには人々がクルマを利用しない選択肢が必要になる。この条例はクルマに対する「全面戦争」ではなく、むしろ人々がクルマを利用する回数と時間を削減する取り組みなのである。

さらにこの街には、もっとしっかりした公共交通システム、クルマと隔てられた長距離の自転車専用道路、ラッシュアワーに1人でクルマを運転している場合の特別料金、そして近所を歩きやすくするための区画規制など、新しい取り組みをサポートするさまざまな要素が必要となる。「今回のプロジェクトは、パズルのように複雑な交通問題において、小さなピースに過ぎません」と、サンフランシスコ市の都市計画担当者ウェイド・ウィートグレフは言う。

データ思考は交通イノヴェイションをもたらすか

「この取り組みをデータに基づいたものにすることが重要です」と、サンフランシスコ市営鉄道のチーフスタッフであるヴィクトリア・ワイズは語る。切り口の異なるさまざまなデータを十分に得ることで、同市は非常に細やかな施策を実行できる。たとえば、共有自転車のステーションが本当に必要とされている場所にデヴェロッパーがそれを設置した場合、追加ポイントを与えるといった仕組みだ。

都市開発のペースを考慮すると、このプログラムが大きな成果を生むまでには10年から20年の月日がかかる。新しい構想の下でつくられた最初のプロジェクトがスタートするのは、18〜24カ月も先の話だ。しかし、サンフランシスコの都市計画担当によると、交通問題への対処法について関心があるほかの都市から、すでにこの条例についての問い合わせがあるという。

もしサンフランシスコの取り組みが成功すれば、このデータに基づいたアプローチが米国のほかの都市の手本になる可能性がある。これらの都市も、交通イノヴェイションに関する大言壮語を具体的な行動に移し、そして大きな成果を出したいと考えているからだ。

とはいえ、マンションにカーシェアリング用のチャイルドシート置き場(+2ポイント)を得る家族にとって、ライフスタイルの変化はもっと早く訪れるだろう。渋滞に巻き込まれたとき、子どもを楽しませる手段を見つける必要があるのは変わらないかもしれないが。

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