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子供の頃から成績優秀で、志望校に現役入学。就職活動も引く手あまただった。そんな賢い高学歴者が社会に出た途端、仕事で評価されずにあえいでいる。何が問題なのか。どうすれば解決するのか。世界中で数多くのエリートと仕事をしてきた投資家、ムーギー・キムさんが、ここに処方箋を公開する。

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●ケース2:Fさん26歳
子供の頃から勉強が得意。TOEICでも好成績を収めたが、英語とは関係ない仕事に就いた。しかし営業職が肌に合わず、「ここは自分のいる世界ではない」と感じるようになる。一念発起して会社を辞め、今は公認会計士の資格を取るために勉強中。将来、独立開業を目指す。

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進学校から現役で国立大に受かったFさん(26歳)。子供の頃から、学んだ分だけ結果が出るのが気持ちよく、勉強が好きだった。大学では英語研究会に所属。TOEICにハマり、短期間でほぼ満点を獲得。ただし留学や旅行にはあまり興味がなかった。

就職活動の際、英語力を活かす仕事に就こうかとも考えたが、話す能力は低く、外資系は仕事がつらそうだと判断。結局、「将来、海外事業に携われるかもしれないし、何より一流のブランドだったから」と大手銀行へ入行する。

法人営業を担当し、朝から晩まで融資の勧誘に明け暮れるが、なかなかノルマを達成できない。上司から責められ、同僚からも「おまえは失敗しそうな仕事を避けて、チャレンジしない」と批判された。軽い鬱状態になり酒量も増え、入社から2年で10キロ太った。

やがて「自分は雇われたり指示されるのは不向き。ここは自分のいる世界ではない」と考えるようになり、キャリアリセットを決意。思いきって銀行を退社した。今は貯金を切り崩しながら、公認会計士の専門学校へ通っている。勉強すること、成績が上がっていくことが楽しく、正直、ずっと受験生でいたい気持ちもある。

▼解説

Fさんは、一部の高学歴者に顕著な問題を2つ抱えている。ひとつは、人生設計が不明確であること。偏差値が高いからこの大学、著名だからこの会社……と一流志向だけで人生を選択していった結果、気がつくと将来像を描けていないケースが見受けられる。

もうひとつが、現実逃避としての資格取得だ。仕事がうまくいかないと「自分はこんなものではない」と独立開業できそうな資格取得を目指して、キャリアリセットを目論む。しかし資格が取れても、その後開業して成功するには、ペーパーテストに書かれていない応用問題が山積みだ。結果、大成しなかったという話は少なくない。

「Fさんは自己啓発や勉強に永遠に励むけれど、いつまでも仕事ができるようにならない『啓発ビンボー神』の典型例。現実を直視し、もう少し真剣にキャリアを選ぶべきでしょう」(ムーギー・キムさん)

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▼キムさんのアドバイス

「ずっと受験生でいたい」という言葉に背筋の凍る恐ろしさを感じました。昔から自己肯定感の源泉が「いい得点を取ること」で、今も頑張った分だけ点数で跳ね返ってくることが一種の快感になってしまっている。Fさんにはズバリ、「自己承認欲求を満たす源泉を、いつまでテストのスコアに求めるんですか?」と声をかけたいです。

ちなみに公認会計士は人も増え、残業代もつけられず、パートナーになれる可能性も低くなっています。しかし相変わらず激務で、転職希望者は多い。独立開業するのも簡単ではありません。

最初の大手銀行入行と同じ失敗を繰り返してはいけません。ご自身が本当にしたいこと、得意なことを真剣に考えてキャリア選択をされることを、遠くからお祈り申しております。

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ムーギー・キム
1977年生まれ。プライベートエクイティファンドで働く傍ら、作家としても活躍。近著『最強の働き方』(東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)がともに大ベストセラーに。

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(鈴木 工=文 PIXTA=写真 アドバイスしてくれる人:投資家 ムーギー・キム)