中国人観光客が姿を消したソウルを代表する歓楽街の明洞

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 15日から韓国への中国人ツアーが全面禁止となり早くもソウルの街は抜け殻のようになっているという。今回の中国政府の対応は、韓国へ配備が進む「THAAD」(終末高高度防衛ミサイル)への報復処置で、個人旅行は対象外としているも中国人が訪韓する場合、ビザが必要(済州島を除き)なので、取得申請のために必ず旅行会社を通す制度となっており、実質的に個人旅行へも制限が加えられた状態だ。

 韓国政府関係筋は、「個人のビザ取得は問題なく、ビザ取得に対して中国政府が圧力をかけることはできない」と強気なコメントを口にするも昨年約800万人の訪韓中国人は激減するとみられ、ホテルや免税店など観光産業へのダメージは計り知れない。

 中国政府は韓国だけではなく日本に対してもこうした圧力をかけてきている。最近では3月15日の世界消費者デーにCCTVが報じた「315晩会」という消費者問題追及番組で、無印良品やイオン、カルビーが薄い根拠でやり玉に挙げられたのが日本のメディアでも報じられたが、他国について耳を疑うような情報を中国政府は流すことは少なくない。

◆不可解な「日本行き観光客減少」報道

 2月24日の中国官製メディア『人民日報』日本語版は、在日本中国大使館の発表を引用して、日本は、福島第1原発事故の影響による放射能汚染があり、今年は花見目的で訪日する中国人が50パーセント以上減少すると伝えた。

 在日本中国大使館も、日本は放射能の影響があるので、在日中国人への注意や日本旅行を計画している中国人へ再考するよう促す公式コメントを出していることから見ると、中国政府の意向であることが窺い知れる。

 さらに記事は、中国のオンライン旅行会社の話として、黒竜江省からの予約数は昨年比80パーセント減、上海42パーセント減、北京20パーセント減、広州35パーセント減で、中国全土で50パーセント以上減少する見込みだと結ぶ。

 この記事は本当なのか? 黒竜江省に近い吉林省の複数の旅行会社へ確認すると例年通りの予約でキャンセルは出ていないとのことだった。もちろん、中国全土の旅行会社に確認したわけではないものの、80パーセント減というのは一体何を根拠にした数字なのかと疑問を抱かずにはいられない。

◆中国政府のホンネは?

 中国政府が、韓国や日本に対してこうした強硬策を押し通す理由だが、実は、中国政府は中国人をあまり海外へ行かさせたくないのではないかと香港在住の日本人コンサルタントは指摘する。

「中国は21世紀に入り消費意欲旺盛な中間層が大幅に拡大したためガス抜きも兼ねてこの10年ほど海外旅行への規制を緩和し、『マナーアップ中国』なんて標語を掲げて推奨していました。ですが、政府の予想よりも急速に海外旅行へ行く人が増えてしまったのか、昨年春に爆買防止の新課税など規制強化へ乗り出しています。表向きは、カナダやオーストラリアなどへの中国人移民が増えることで人民元流失を阻止したいのでしょうが、本音は、中国人が海外へ行くとで母国である中国と比較されることを嫌がっているからでしょう」

 つまり、中国政府は、中国より発展している国へ行くことで比較されることを嫌がっているふしがあるというのだ。そのため、できれば、海外旅行を全面禁止くらいにしたいのだろうが、さすがに今の中国でも毛沢東時代のような強権発動はできない。禁止する何かしらの理由が必要なのだ。その理由に、THAADや放射能が利用されているというわけだ。

 昨年、タイへ初めて旅行した武漢の20代女性は、バンコクの発展ぶりに驚いたという。交通インフラやショップもそうだが、何よりもインターネット規制が中国とまるで違うことがショックだったと話す。

 中国政府としては、自国と比較されても問題なさそうなカンボジアやラオス、ミャンマーなどの中国が比較的に優位な開発途上国への旅行推奨へシフトしたいのではないのかもしれない。

<取材・文/我妻伊都 Twitter ID=@ito_wagatsuma>