【ライターコラムfrom甲府】2017年“左傾化”の甲府 “地味なレフティー”が一つ上のステージへ

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 2017年のヴァンフォーレ甲府は“極右”を脱却し“左傾化”を進めている。ただしこれは政治の話でなく、選手の利き足に関する話だ。

 16年の在籍選手を出場時間の長い順に並べると、1位から21位までの全員が右利き。ダヴィ、ジウトン、盛田剛平と左利きは在籍していたものの、出場時間が限られていた。特に左センターバック、左ウイングバックといった左利きのメリットの大きいポジションが右利きだった。

 そんな反省もあり、今季の補強ポイントはまず「左利きの選手の獲得」(佐久間悟GM)。開幕前にはまず堀米勇輝の復帰が決まり、次いでボランチに兵働昭弘も加入。ブラジルからは左利きのCBエデル・リマが加わった。開幕後も3月12日にジェフユナイテッド千葉で出番を失っていた左WB阿部翔平の期限付き移籍が決定。甲府が1−0で今季初勝利を挙げた18日の大宮アルディージャ戦は、先発に4名のレフティーが名を連ねていた。

 吉田達磨監督は左サイドにおける左利きのメリットを「右から来たボールを左で持って左側に開けばピッチが拡がる。シンプルに左側に入れて、走る選手にボールを流し込めるし、(プレスを受けても)追い込まれない」と説明する。ピッチの幅が68メートルあるといっても、プロにとってプラス2メートル、3メートルの広がりが生まれるメリットは極めて大きい。また選手は利き足で強いキックの”蹴りやすい方向”が変わる。大宮戦でも兵働、阿部が右へのサイドチェンジを盛んに入れていた。左利き4名の起用でパスの矢印に偏りが無くなり、組み立ての単調さは無くなった。

 特に14年、15年と不動のWBだった阿部の復帰は大きい。吉田監督も「ウイルソンも堀米もドゥドゥも(河本)明人も、動き出しにいいものを持っている。阿部はそこにジャストで入れていける。タイミングを逃さないでくれれば(アタッカー陣が)もう一回動くようにもなる」と阿部への期待を口にする。

 大宮戦ではエデル・リマも左CBとして先発した。守備も無難に対応していたが、彼の強みは攻撃。キャプテンの山本英臣は「本気で走れば足は相当速いと思います。相手を一ついなせるのも日本人にない感覚」とその強みを説明する。実際に彼は大宮戦でプレスを個人技で外す、ドリブルで中央のスペースから持ち上がるといったプレーを見せていた。阿部もリマとの攻撃面の連携について「ワンツーとかを出せたら面白い」と口にする。

 甲府のサッカーは長らく守備的で、攻撃もカウンターに偏っていた。ただ阿部は大宮戦を「しっかり食いつかせるようなボール回しができたと思います」と振り返る。リスク回避、速攻を優先するとどうしてもロングボールが増える。結果としてボールを持つ時間が減り、試合展開も慌ただしくなる。ただ阿部とリマがフィットすれば、そういう悪弊も薄れるだろう。相手が前にプレスを掛けてきたときに生じるスペースを、落ち着いて突くボール回しが身に付けば……。甲府は残留争いから一つ上のステージを目指せるはずだ。

 阿部が甲府でプレーしていた15年からは、メンバーの入れ替わりがあった。ただ阿部は「一緒にプレーしたことがあるとか、見たことがある選手ばかり」と適応のしやすさを口にする。アンカーに定着している兵働は、阿部から見て筑波大の1年先輩。「どんなことをするのかは何となく分かっている」と彼が説明するのも当然だ。

 守備面についても甲府の進化を感じている。「前回いたときよりも流動的な感じはしますね。選手全員が動いている。ディフェンスになったときの切り替えで、ボールに向かっていくということがかなり違う」(阿部)

 甲府は恵まれた補強予算を持つクラブでない。堀米、兵働、阿部はいずれも前所属がJ2のクラブで、中村俊輔のジュビロ磐田入りのような華やかさはない。しかし大宮戦では“地味なレフティーたち”が賢くプレーし、勝利に貢献した。「育成」「再生」で埋もれた個を生かす甲府流の見本でもある。

 21日にも新たな左利き選手の甲府入りが正式に決まった。オリヴァー・ボザニッチはオーストラリア代表歴もあるMF。トリプルボランチの一角として、レギュラー争いに加わってくるはずだ。それぞれ単に左利きというだけでなく、ユニークな持ち味を持つ選手たち。いい化学反応を起こせるならば、甲府のサッカーはよりカラフルで楽しいモノになるだろう。

文=大島和人