今日紹介する本は、『1割の「できる人」が大切にしている仕事の「基本」』(中尾ゆうすけ著、ぱる出版)。タイトルに「基本」とあるので、あたかも新人向けの基本的な内容のようにも思えます。しかし、一部上場企業の人事部において、人材開発、人材採用などを幅広く手がけてきたという著者によれば、決してそうではないのだそうです。

本書は、仕事の「本質」についてわかりやすく解説をしたものです。
実は、1割の「できる人」は、「本質的」なことを自身の「基本」としているのです。
残りの9割は、表面的な「基本」で満足してしまっているのです。(「はじめに」より))

どのような仕事でも、一筋縄にいかないことや、不条理な現実はあります。(中略)そのときに乗り越えることができる人は、仕事の本質が「基本」として身についている人です。これが身についていない人は、乗り越えることができず、「仕事の楽しさ」を知らないまま転職を考えたり、転職先でも同じことを繰り返したりしてしまいます。(「はじめに」より))

そこで、小手先のテクニック論とは違う角度から、読者の価値観や考え方に直接働きかけられるように書かれたのが本書だということ。仕事ができるようになれば、つらい思いも減っていくもの。仕事ができないのに、仕事を楽しむのは困難。だから、まずは10%の「できる人」を目指そう。根底にあるのは、そんな考え方です。

きょうは第5章「『できる人』への最短経路」から、いくつかを抜き出してみることにしましょう。

「やりたい仕事がない」と「仕事をやりたくない」は違う


著者は学生の採用面接を担当していたころ、志望動機をたずねる際、「どのような仕事をしたいか」「どのような企業で働きたいか」というような、職業選択の基本を必ず聞いていたのだそうです。その結果、多くの学生が「自分のやりたい仕事」「自分に合った仕事」という視点で答えたといいます。

自分が人生の大半を過ごすことになる選択なのですから、当然のことだといえるでしょう。ただし、それだけを自分の仕事の価値観としていたら、おそらく転職を繰り返すような社会人になってしまうだろうと著者は指摘してもいます。

会社のなかにはいろいろな仕事があり、採用後のミスマッチを防ぐため、職種別の採用をする企業も少なくありません。しかし現実は、希望の会社に入社しても、どの部門に配属されるかを選択できないことがほとんど。

会社は必要な部門に人数の人材配置をすることによって事業を行なっているため、新入社員の希望だけで決まることはないわけです。では、自分の希望の配属先ではない職場に配属されたり、希望とは違う仕事を与えられたりしたら、どうすればいいのでしょうか?

1. 会社を辞めて自分に合った仕事を探す
2. 上司に人事異動の直談判をする
3. あきらめてそこでがんばる
(174ページより)

この3つのうち、1.を選んだ人は、潔く覚悟も勇気もあるタイプ。しかしそれを認めたうえで、著者はこの判断はギャンブルだと考えているのだそうです。なぜなら、他の会社に再就職しても、同じようなことが起こる可能性が高いから。

2.を選んだ人は、行動力も勇気もある人。ただし、その判断は自分の首を絞めることにもなるのだとか。与えられたその仕事を「いやだ」と否定することは、その仕事を一生懸命にやっている上司のことをも間接的に否定することになるから。いわれた上司は決していい思いをしないため、入社早々に嫌われてしまうかもしれないということです。

著者は、もし新入社員から相談を受けたら3.を勧めるそうです。理由は、自分に合っているか、合っていないかは、やってみなければわからないから。事実、最初は「いやだ」と感じたものの、続けた結果、天職にすることができた人もたくさん見てきたといいます。そればかりか、結果的に自分に合った仕事を探すより、いまの仕事を自分が好きになるほうが、はるかに早く結果を出すことができるのだとも。

やりたい仕事でないのなら、やりたい仕事にしてしまえばいいという考え方。もちろん相応の努力は必要だけれども、その努力は働くうえで不可欠な努力。そこで「やりたい仕事がない」と嘆く前に、「自分は、好きになるために努力を行ってきたのか」と自問するようにすることが大切だということ。(172ページより)


「なんのために働くのか」は上司にこそ知ってもらう


お金であったり地位であったり、名誉であったり賞賛であったり、働く動機は人それぞれ。そして、たったひとつの正解がないから、部下のモチベーション管理に苦労しているのが管理職なのだといいます。

つまり上司は部下に対し、「どうすれば高いモチベーションで働いてもらえるのだろう」と悩んでいるということ。だから、もし高いモチベーションで働きたいのであれば、まずは「自分自身のモチベーションの源泉はなにか」を知り、それを上司に知ってもらうことが必要。

たとえば、部下であるこちらが「認められる」ことを最大のやりがいだと感じているのに、上司が「ボーナスさえ高ければそれでいいだろう」と考えているとしたら、上司のマネジメントは空回りするばかり。部下であるこちらも、「そうじゃない!」「上司はなにもわかってない」とストレスを抱えることになるわけです。

ところで著者はここで、有名な「マズローの5段階欲求」を引き合いに出しています。人間の欲求はピラミッドのような5段階で構成されており、低次の欲求が満たされると、さらに高い階層の欲求を満たしたくなるというもの。この考え方を仕事に置き換えてみると、次のようになるというのです。

1. 「生理的欲求」 =生きていくための欲求
(189ページより)

これを満たすためには、最低限のお金が必要。これが満たされていない人の働く目的は、必然的にお金になるということ。「報酬」によってやりがいを感じるわけです。そしてこれが満たされると、次は安全欲求を求めるようになるのだとか。

2. 「安全欲求」= 安全・安心を求める欲求
(190ページより)

この段階になると、「会社のため」「お客様のため」「売り上げや利益のため」というやりがいを持つようになるもの。また、契約社員や期間雇用社員だとしたら、「正社員」になることが大きなモチベーションになるわけです。そしてこれが満たされると、次に求めるようになるのは社会的欲求。

3. 「社会的欲求」 =所属したい欲求
(190ページより)

これを満たすためには、職場の良好な人間関係や、仕事におけるチームワークが必要。それが「上司のため」「仲間のため」にがんばろう、というモチベーションになるということ。これが満たされると、次は尊厳欲求を求めるようになるのだといいます。

4.  「尊厳欲求」 =認められたい欲求
(190ページより)

これを満たすために必要なのは、認められること。つまり「昇進・昇格」や、日常の仕事のなかで上司やお客様からの「感謝」をやりがいと感じるということです。そしてこれが満たされると、最後に求めるようになるのは自己実現欲求。

5. 「自己実現欲求」 =やりたいことを実現する欲求
(191ページより)

これを満たすには、会社のなかで認められ、「やりたいこと」を自分の裁量でできるようになることが不可欠。そのためには、実力がそれなりのレベルに到達していることが必要になってくるわけです。

この5段階は、新入社員からベテラン社員になるまでの階段のようなものだと著者はいいます。自分自身の実力を上げていくことで、ステップアップするということ。そして場合によっては、自分を改めて見つめなおす必要も出てくるそうです。たとえば、新入社員なのに「やりたい仕事がしたい!」と5.の「自己実現」を求めても、それは無理な話だということ。

でも、自分自身の仕事における実力の認識と上司の認識が合ったなら、上司はやりがいに合わせたマネジメントをしてくれるはず。そうなると、がぜん仕事が楽しくなってくるわけです。(188ページより)



人事部での実体験に根ざしたものだからこそ、著者の考え方には机上の空論とは違う説得力があります。しかも押しつけがましさはないので、自然に受け止めることができるはず。「基本」を知ってそこから先を目指すために、ぜひとも読んでおきたい1冊です。


(印南敦史)