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●顔認証で決済するサービスとは?
2016年末〜2017年始の期間で三井住友銀行とNECと共同で顔認証技術を活用した決済サービスの実証実験を行った三井住友カード。昨今、認知が広まりつつあるFinTechで同社が目指す顔認証による決済サービスについて、実証実験の結果を踏まえた今後の見通しを聞いた。

○端末を必要としない決済サービス

今回の実証実験は三井住友カード東京本社の社員食堂において実施した。スキームは、まず参加者の氏名、生体情報(数値化された顔情報)などをシステムに登録した上で、食堂に設置したカメラで顔認証を行う。その後、利用情報を給与システムと連携し、給与天引きで精算するという流れだ。

「われわれはカード会社として、カードの使用店舗数を増加させていきたいと考えていますが、店舗がカードを取り扱うためには、専用の決済端末を導入する必要がありました。そこで、決済端末を使用せずにカード決済を実現させる手段として生体認証に注目し、生体認証の技術に強みを持つNECさんと共同で新しい決済サービスの検討を開始しました」。そう語るのは三井住友カード 商品企画開発部(東京) 兼 アクワイアリング企画部(東京) 部長代理の松尾和明氏だ。

現在のビジネスを考えれば、スマートフォンなどを使用したサービスが現実的だが、競合他社を含めデバイスを中心とした決済サービスは普及しているため、一歩先を考えてトライしたという。

指紋や手のひら、虹彩など数ある生体認証のうち、顔認証技術を採用した理由として「専用装置の必要がなくカメラのみで認証が可能なので、導入側の負担が少ないというメリットがあります。また、そのほかの認証は『かざす』などの動作が必要となりますが、顔認証の場合は人が意識せずに認証できることに利点があります」と説明した。

○顔認証でカギとなる「NeoFace」

ここで、顔認証の決済サービスで肝となるのがNECの顔認証技術「NeoFace」だ。同技術は「顔検出技術」「特徴点検出技術」「顔照合検出」の3つの基本技術を活用している。

顔検出技術は画像の端から順に矩形領域を探索し、顔と合致する領域を抽出する一般化学習ベクトル量子化手法、特徴点検出技術では顔矩形領域から瞳中心、鼻翼、口端などの特徴点の位置を探索する多点特徴点検出法、顔照合技術は顔の中から目鼻の凹凸や傾きなどの特徴を抽出した後、特徴の中から、個人を識別するために最適な特徴を選択する多元特徴識別法をそれぞれ採用している。

アメリカ国立標準技術所(NIST)が実施した、1対n認証(膨大な顔画像データから任意の顔画像を検索)では約97%の精度を誇るという。

NEC 第一金融ソリューション事業部 ソリューション部 主任の名田幸生氏は「NEC独自で行った実証実験では、ほぼ100%で誤認証、誤決済はありませんでした。認証は何千カ所にも上る顔の特徴点を読み取り、それらを数値化し、登録している画像と結合させ、一定の閾(しきい)値以上になれば本人であると認証します」と説く。

●実証実験で得た結果、そして将来的な展望
○結果で得たものから実用化に向けて

同社が実証実験で得た結果、実用化に向けて想定していることは何か。松尾氏は「まずは、顔認証のみで決済するという構想自体が実現できるものなのかを確認しました。結果として大きな問題はなかったため実現は可能だと考えています」と手応えを感じている。

一例として、店舗などでレジ待ちをしている間に顔認証し、カードの提示や現金を出すことなく決済が可能だという。現状では構想段階だが、顧客自身がスマートフォンで顔を撮影・登録し、サーバに保管した上で、来店時に店頭のタブレットなどで認証することを想定している。

また、利用者の意見やアンケートから得たものとしては、生体認証への期待と認証の速さに対するポジティブな意見があったという。一方、タブレットの画面に顔画像を表示するなど、生体情報をそのまま使うことへの抵抗感の声も聞かれたとしている。

サービスの用途としては、顧客に特別感を提供するサービスと、顧客の決済を効率化するサービスの2つを検討している。現在は、実証実験で得た結果をベースに会員・加盟店のニーズを吸い上げており、まずは小規模ながらも実現を目指す考えだ。特別なサービスの例としては、ユニバーサルスタジオジャパンがNeoFaceを利用して年間パスの顧客を認証している。

しかし、課題もある。顔認証も含めた生体認証は100%の認証ではないため、いかに100%の認証を担保するかということだ。金融業界は100%の認証が求められると松尾氏は指摘している。この点について、同氏は「氏名確認や生年月日、電話番号の下4桁などを採用した2要素認証とすることも考えられます。100%の認証が保証できれば、利便性は間違いなく高いと思います」と述べた。

一方、NECではこれまで政府や企業などがセキュリティインフラとして顔認証技術を活用していたが、一般には浸透していなかったため普及を図ることが課題だったという。名田氏は「今回、三井住友カードや三井住友銀行との実証実験を通して『とうとうこのレベルまで来たか』ということで、引き合いがあります。継続している課題は、精度に関するものになります」と話す。

○顔認証技術による決済サービスが社会にもたらすもの

今後の展望について松尾氏は「2017年度中に実際の店舗において本番を見据えた実証的な利用ができないかと考えていますが、どのような業態の店舗に効果的なのか検討が必要です。スポーツジムや温泉施設、プールなど、手ぶらで決済のニーズが高い業態や、タブレットを活用して接客している店舗には、この顔認証技術を用いた決済がマッチするのではないでしょうか」と、サービスの実現に向けて検討を進めていると明かした。

とはいえ、顔認証による決済サービスが社会に普及していくかは気になる部分ではある。この点に関して同氏は「日本は現金決済の比率が高いこともあり、顔認証の決済が消費の半分以上を占めることはないと思います。さらに、スマートフォンなどが普及する状況下において、顔認証で決済を行う理由がなければ広がらないと思います」と、現状を読み解いている。

しかし「現金やスマートフォンが持てない、持ちたくないシーンや、レジ待ちの時間短縮を図る用途などで裾野が広がるのはないかと考えています。それに加えて、IoTの普及に伴い、クレジットカードやスマートフォンで決済ができない分野で、生体認証が活躍する余地は十分にあります」と松尾氏は期待を口にしている。

サービスの実現に向けてクリアしなければならない課題はあるものの、三井住友カードはNECの顔認証技術に信頼を置いている。NECはカード業界でもトップレベルの企業と協業するメリットがあり、両社の今後の動向が注目される。将来的に、顔認証による決済サービスが社会に浸透した姿として現れてくる日を期待したい。

(岩井 健太)