導電性インクとLEDを使ったイルミネーション風船「FLOTICON BALLOON


テキサス州オースティンで開催されたテクノロジーと音楽、映画の祭典SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。中でもさまざまなテクノロジーが集まるのがインタラクティブ部門です。昨年は、イヤホンで作ったかつらや、お礼にシャボン玉が飛び出す投げ銭デバイスなど、日本からも一風変わったアイデアたちが参加していました。

比べて今年2017年は、誰でも名前を知っているような日本の有名企業が多数参加。そのせいか実際に一般の来場者が体験できるデモも完成度が高いものが多く、素直に「すごい!」「楽しい!」と思えるものが多くありましたよ。


ワコムの気持ちがバレる電子インク


SXSW日本企業のブースをレポート2


ペンタブレットなどで知られるワコムはこれまで、人間のアナログな筆致をデジタル表現の世界へ取り込んできました。彼らが次に取り込もうとしているのは、人間の「気持ち」です。


SXSW日本企業のブースをレポート3


このテクノロジーは、ペンタブレットで手紙を書いている最中の脳波をヘッドセットで測定し、それぞれの文字に反映するもの。読んだときに、どんな気持ちでそれぞれの文章が書かれたのかがわかるそうです。

「お前を一生許さない」みたいな手紙なら脳波を取らずともわかりそうなものですが、今回デモで書いていただいたのはそこまで感情的になりそうもない、SXSWブースに来場したお客さんに向けたメッセージ。


SXSW日本企業のブースをレポート4


緑(Meditation)はリラックスのレベルを表しているのだそうで、文章中で一番高かったのは「Enjoy」の単語を書こうとしているとき。たしかに手紙全体を見ると、Enjoyは一番ラクな気持ちで書ける単語のひとつかもしれません。


SXSW日本企業のブースをレポート5


ピンク(Yinyang)は気分の陰陽、ポジティブとネガティブです。もっとも気持ちがポジティブになったのは、最後の絵文字を書いたときでした。

このテクノロジーはペンタブレットを使った手書きだからこそ有効なもの。「予測変換などが発達したタイピングでは、ここまで感情をセンシングするのは難しいと思います」と出展者の方は教えてくださいました。「手書きは気持ちが伝わる」って本当だったわけですね。


パナソニックは「家電」を新発明中


SXSW日本企業のブースをレポート6


パナソニックの「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」は、家電領域での新しいアイデアを生み出すプロジェクト。

SXSWでは、「エフェクター」とよばれるトリートメントを使い大切な衣服を一枚ずつ自宅でクリーニングできる洗濯機「MonStyle」や、お酒のラベルを読み取り最適な温度に保つスマートボトルクーラー「Sake Cooler」など、ユニークな家電製品のコンセプトが展示されていました。

中でも目を引いたのはこちらの巨大なフォトフレーム…ではなく、「AMP(Ambient Media Player)」。


SXSW日本企業のブースをレポート7


アーティストが制作した映像コンテンツをテレビやPCの画面で視聴するのではなく、作品として「鑑賞する」ことがコンセプト。家電製品というよりはインテリアの一部のように、リラックスできる音楽とともにゆったりと映像が移り変わっていきます。


SXSW日本企業のブースをレポート8


棚に置いたり、壁掛けできるサイズのAMPもあります。上写真の右手前のダイヤルがコントローラー。流れてくるコンテンツは、サブスクリプションで配信することも考えているそうです。


「8Kの空」を飛べるアトラクション


SXSW日本企業のブースをレポート9


Trade showの会場でも行列が絶えなかったのが、NHKエンタープライズの「8K:VR Ride」。東京の風景を中心とした8K映像を、ドーム型のスクリーンと5.1chサウンド(BGMはサザンオールスターズの『東京VICTORY』)、そして映像に合わせて動くシートに乗って体験できるアトラクションです。


SXSW日本企業のブースをレポート10


使用されたWONDER VISIONの「Sphere 5.2」は幅が5.2m、高さが3.4mの巨大な半球状のスクリーンを持つモーションライドシステム。スクリーン上部についている8Kプロジェクターから球状のミラーへ映像を照射し、スクリーンに投影します。

実際に乗っている人の視点はこんな感じ。



東京の上空を飛び回る部分の映像です。シートが大胆に動くうえ、ドーム型スクリーンに視界をすっぽり覆われているため、VRのように爽快な浮遊感を味わえます。酔ってしまいそうなほどでした。またゴーッと音が入っていますが、これは風の音。臨場感のため、頭上から風が吹いてくるんです。ただ会場の都合もあって周囲が明るく、せっかくの8K映像が白くなってしまったのは残念でした…。


小さい、軽い、きれい、な網膜走査型ディスプレイ


SXSW日本企業のブースをレポート11


2016年のCEATECで経済産業大臣賞を受賞したQDレーザの「RETISSA」は、網膜走査型のヘッドマウントディスプレイ。小型のレーザープロジェクターから目の網膜に直接映像を投影するため、視力に問題を抱えた人でも問題なく鮮明な画を見ることができます。

ヘッドマウントディスプレイといっても、右のレンズ側に光学系機器がついていることを除けば、そのデザインや大きさは普通の眼鏡とほとんど同じ。網膜に直接送られた映像ってどんなふうに見えるんでしょうか? iPhoneのカメラで覗き込んでみました。



おお、想像していた以上に明るく、鮮やか! 医療目的で開発されてきた網膜走査型ディスプレイは他にもありますが、ここまで美しいイメージを見せられるのはQDレーザがもともと半導体レーザーを専門とする企業だからだと言います。このタイプのデバイスの大きな悩みは、レーザー部にかかるコストやスケール。それをレーザー企業の技術でうまく解決したんだそうです。

フレーム前面には小さなカメラがついているので、目の前のリアルタイム映像を視覚障害を持つ人の網膜に届けることができます。また、今回のデモのような映像をHDMIから入力したり、将来的にはVR/ARグラス的にエンターテインメントへ応用することも可能。まずは数年以内に医療用デバイスとしての実用化を行なうそうです。


VRが引き出すファッションのストーリー


SXSW日本企業のブースをレポート12


ファッションビルのパルコは、Psychic VR Lab開発のVRファッションスペースを作るプラットフォーム「STYLY」を使った「デザイナーズモール・オブ・トーキョー in the FUTURE」を展示。ファッションブランドANREALAGE制作のコンセプトアイテムをVRスペースで披露しました。


SXSW日本企業のブースをレポート13


いまそこに展示されているトレンチコートが過去、現在、未来とどのように変化してきた/いくのか、東京の街の変化とともにその背後にあるストーリーをヘッドマウントディスプレイを通して見ることができます。

なお、Psychic VR Labは現在HoloLensを使った「MRファッション」のコンセプトも制作中の様子。以下はPsychic VR Labのメディアアーティスト、ゴッドスコーピオンさんのデモ動画です。




テクノロジーをファッションの中に溶け込ませていくトレンドは、Levi'sとGoogleがコラボしたタッチセンサー付のスマート・デニムジャケットが同じくSXSWで大きな話題となりましたが、こちらはファッションがもともと持っている魅力をさらに引き出すテクノロジーの使い方ですね。未来のデパートではこんな風にお買い物ができるようになるんでしょうか?


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感情、インテリア、ファッションなどソフトなテーマから、8K+VRや医療用デバイスなどハードなものまで、さまざまな展示がありましたが、「SXSWといえばスタートアップ!」というイメージからすると、今年は全体として洗練された印象でした。というのも、スタートアップショーケースあるあるの「コンセプトはできているんですけど…」「今日はうまく動かなくて…」といった状況にはほとんど出会わなかったんです。




HoloLensを使ったHACKistの「INVISIBLE FORCE」でMR(複合現実)内にある物を壊していくデモ。グラフィック側しか動かないんじゃ…と思いきや、最後に現実の物が壊れて吹っ飛ぶというサプライズに周囲からも大笑い


また昨年同様、日本企業の集まっているエリアは会場の中でも来場者がとくに多く、賑わっていました。他国のエリアに比べて、音の出る実演があったり、飾り付けが凝っていたり、スタッフが和服を着ていたり…という展示の見た目の派手さもひとつでしょうが、一番の理由はその場で驚いたり楽しんだりできることのように思いました。というのも、いくつかのブースで体験の順番を待っていたのですが、ぜんぜん回ってこない!(笑)。特にビジネスパートナーになろうと考えている人でなくても、おもしろいね! これはどうなっているの? 他にどんなことができるの? どうやって作ったの?などなど、出展者への質問攻めが終わらないのです。

使用イメージの写真や、デザインのプロトタイプ、プロモーション動画が流されているだけのブース(会場にはそういった展示の仕方をしている企業も多くありました)では、こんな風に一般の来場者から熱心に興味を持ってもらえることはないでしょう。たくさんのプロジェクトやスタートアップ、アイデアがあふれ、それがすぐに共有され広まっていく時代だからこそ、実際に触って(あるいはVRで)確かめられる/楽しめるという、人間の感覚に訴えるローカルな体験までいかにこぎ着けられるかが重要になってきているのかもしれません。


#SXSW レポート:
・WOW!が飛び出すソニー遊びの工場「The WOW Factory」潜入レポート
・ソニーが考える「イノベーション」とは? 体験の時代だからこそ、ものづくりを何より大切にしたい
・資生堂「テレビューティー」でバーチャルメイク。想像以上にバッチリお化粧できた
・東京大学チームBionicMのロボット義足「Suknee」は自分で歩く
・Levi'sとGoogleコラボがクール過ぎる。タッチセンサー付のデニム・ジャケットでスマートに風を切れ
・SXSWに4年連続出展の「HACKist」が提唱した「味噌汁とプロトタイピング」にアメリカが熱くなった(味噌汁だけに)#sponsored


image: ギズモード・ジャパン
source: SXSW, ワコム, Game Changer Catapult, 8K:VR Ride, WONDER VISION, QDレーザ, CEATEC, パルコ, Psychic VR Lab, ANREALAGE, Twitter

(斎藤真琴)