日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

写真拡大

長いこと新規事業のコンサルティングをしていると「元」新規事業の立て直しを頼まれることが時折ある。「新規事業として少し前(1年以内〜3年程度)から始めたがうまくいかない。もし本当に見込みがないなら止める覚悟もあるが、できれば立て直したい」といった話であることが多い。

なぜかそのうちの過半数が、客観的には不思議だが、新規事業として最もよくないと言われる“me, too(ならばウチもやりたい)”参入だ。つまり成長市場と見て喜び勇んで参入したが、既に先行企業をはじめとする競合が幾つもおり、しかも特段の差別化もビジネスモデルの工夫もできていないままなのだ。

結局先行企業には追い付かず、後発群の中で赤字を重ねて苦しんでいるという構図だ。まるで好き好んで「レッドオーシャン」市場に飛び込んで怪我をするような真似をしているのだ。

もちろん当事者(時には参入当時の担当責任者がいないこともあるが)には当事者の言い分もある。しかし大半は「残念な」事情でしかない。

経営者の話では「ほぼ横一線の参入だった」ということのはずだったのに、担当者によくよく聞いてみると「企画した時には横一線だったはずが準備に手間取り、参入時には後発組としてダンゴ状態だった」となる。

経営者としては「わが社独自の技術により差別化できると考えた」のだが、それは「ユーザーからはちょっとした違いとしてしか受け取られなかった」(ある担当者の弁)と後になって反省している。もっとシビアに見ると、自社の技術やブランドを過大評価して「わが社が本気になれば何とかなる」と高を括っていたとも言える。

ひどいケースでは、先代経営者の鶴の一声で新規事業として立ち上げた上に、かなりの先行投資をしたので後戻りできず、後発で決定的な差別化ができていないことも分かっていながら半分は玉砕覚悟で参入した、と告白されたこともある。

もちろん、先行企業がいたら新規参入すべきでない、などというつもりはない(そんなことを条件にしたら世の中の新規事業の3/4程度は失格となってしまうだろう)。しかし自社にとって新規事業でも、その市場にはしっかりと先行企業がいる場合、十分練られた戦略が不可欠だ。これは既に参入して苦労している「元」新規事業の立て直しにおいても同様だ。

その先行企業の弱みや、競合により「満たされていないニーズ」をしっかりと研究し、必要とされている困り事解決や不安解消などの核心部分において競合より明らかに優れているようにサービスや製品の提供法を練り上げるしかない(弊社ではこれを「選ばれる理由」磨きという)。

できれば競合他社が気づきにくい形で実現しておくと、「いつの間にか独自の地位を築いている」という状況に持っていきやすい。例えばある地区のリフォーム会社は後発だったが、特に目立った宣伝(チラシ広告など)はせずとも、小口の相談を積極的に引き受けることで、信頼を勝ち取った地域住民の口コミにより地域シェアがダントツになっている。

また、思い切ったビジネスモデルで展開することで、先行企業およびその他競合とは違う土俵で戦うやり方もあり得る。それが効果的である場合、業界リーダーの地位に取って代わる成功を収めることさえ夢ではない。

例えば楽天の天下だと考えられていた通販モール事業に、出店料無料という思い切ったやり方で逆転したYahoo!ショッピングの成功例は記憶に新しいだろう。また、駐車場ビジネスによる地主関係性と土地調達力を梃子にしたタイムズカープラス(企業名はパーク24)は、レンタカー事業による新車調達力をベースに先行したオリックス自動車を逆転し、今やカーシェアリング業界ではダントツのトップである。

つまり、新規事業として残念な形で参入してしまっても、立て直しや逆転の道がないわけではない。ただ言わせてもらえば、新規参入する際によく戦略を考えておけば余計な苦労をしなくても済む。有効な差別化戦略のない“me, too”式の新規事業参入は避けるのがやはり賢明だ。