研究内容を怪しむ人、イヤラしく考える人…(イラスト・サカタルージ)

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女性の乳房をめぐる「都市伝説」の中には、「ええっ、まさか!」と驚くものがいくつかある。「ノーブラの方が乳房は垂れない」もその1つ。

ブラジャーの圧迫から解放され、胸の筋肉が発達するという「科学」の仮面をかぶっているが、「ゆさゆさ揺れてイタイでしょ!」というのが、多くの女性の実感だろう。都市伝説の出所を調べると――。

若い女性が1年間ノーブラで過ごす研究の結果...

J-CASTヘルスケアで、インターネット上で繰り返し登場する「ノーブラの方が胸は垂れない」という情報を追った。すると、2つの「ネタ元」があることがわかった。いずれもフランス人の「研究」である。いかにもフランスらしい。1人は、仏フランシュ=コンテ大学のレティシア・ピエロさん(女性)のもので、さまざまなサイト上では、次のように引用されている。

「18〜25歳のスポーツ好き女性の協力を得て、1日24時間、ノーブラで1年間過ごしてもらった。彼女たちには週に少なくとも4時間、エクササイズ、ランニング、水泳などのスポーツ活動を(もちろんノーブラで)行ってもらった。彼女たちの多くは当初、ブラを着用しないことの不快感を訴えた。しかし、時間とともに不快感は消え、1年後には大部分の女性(88%)が、ノーブラの方がより快適と回答した」
「1年後に彼女たちの生体測定を行なうと、乳房の細胞組織の質が向上し、肩の筋肉や大胸筋が実験前より発達していた。また、実験前に比べ、バストのサイズがわずかだが大きくなり、より引き締まり、より高く隆起していた。そして、肩から乳首までの距離が縮んでいた。つまり、乳房が垂れるどころか、バストアップしていたわけだ」

「レティシア・ピエロ」を検索すると、彼女には「Evolution du sein apr?s l'arr?t du port du soutien gorge, ?tude pr?liminaire longitudinale sur 33 sportives volontaires」(ブラジャーの着用をやめた後の胸の発達:33人のスポーツを対象にした予備的研究)という論文が2003年に出されたことがわかった。

「胸の重さ調べた?」「インプラントは?」と批判続出

この論文を見ると、おおむねサイトで紹介されたとおりの内容だ。さらに彼女はこの予備的な研究の後に、同僚の研究者オリビエ・ルーセルさんと、18〜30歳の女性50人を対象にした3年間にわたる「ノーブラ実験」を行なっていた。そして、「被験者たちは乳房がよりよい美しさを保ち、快適な3年間を送った」「ノーブラでも胸が落下しないことを示された」「ブラジャーは医学的、生理学的、解剖学的にも乳房を重力から守っていない」と結論づけた。

なぜノーブラだと胸が垂れないのかについては、ブラジャーの圧迫から解放されることによって、乳房の硬さを維持する筋肉と乳房を囲む筋肉が発達するからだと説明している。

ただし、この論文には多くのレビュー(他の研究者の意見)が寄せられており、大半が次のような疑問を投げかけていた。

「33人や50人という極めて少人数の実験であり、科学的に立証されたといえない」
「18〜25歳(2回目は18〜30歳)という非常に若い世代に限定している。フランスの全女性を代表した検証とはいえない」
「30歳以上の女性はどうなのか」
「被験者の女性が乳房インプラントをしているかどうか調べていないのは、非科学的だ」
「乳房の重量の違い(A〜Dカップなど)について変化を考察していないのは不十分だ」

などなど。要するに科学的に立証された論文ではないという批判だ。

もう1つ、ネット上でよく引用される「研究」は、レティシア・ピエロさんと同じフランシュ=コンテ大学で運動科学を専門にしている、ジャン・デニス・ルイロン教授のものだ。実は、この教授、先に紹介したレティシア・ピエロさんの2度目の研究論文の共著者でもある。同じ論文をもとにしたはずだが、さまざまなサイトでは微妙に研究内容が違って伝わっている。こうである。

「ルイロン教授は、18歳から35歳までの女性を調査したところ、1年間でバストトップの位置が7ミリもアップしたというのです。逆に言えば、ブラジャーを着けることで、胸が垂れたということを意味しています。その理由は、ブラジャーを着けると、胸を支える組織が発達しなくなるからだとか。運動をしないと筋肉が発達しないとのと同じなんですね」

ついに「エセ科学」追究団体のやり玉に

対象の女性は「18〜30歳」のはずだが、「18〜35歳」になった。「7ミリ」という数字も元の論文から見つけることができなかった。ルイロン教授は、さかんにメディアに登場してはこの話を喋っていたようだ。サイコップ(CSICOP)のサイトの2013年4月14日付記事の「Don't Burn Your Bra for Science Just Yet」(科学のためにあなたのブラをまだ燃やさないで)の中でやり玉にあげられた。サイコップ(CSICOP)は、米国の非営利団体で「超常現象の科学的調査のための委員会」の略称。つまり「エセ科学」を追及する科学者やジャーナリストの団体だ。ついに「エセ科学」の対象にされてしまったようだ。

この記事を読むと、ルイロン教授はそれまでの主張をすっかり翻したように見える。女性記者による記事ではこう書かれている(要約抜粋)。

「ルイロン教授は少数の若い女性たちを研究してきたが、そのサンプル集団は世界の全人口を代表するものではないと強調した。そして、こうも語った。『ただちにブラジャーを投げ捨てるべきではないと訴えたい。たとえば、45歳以上の女性はブラジャーを捨てることによる恩恵はありません』。また、ブラジャーの効用も認めた。『とくに赤道から遠く離れた地域に住む人々は、冬の間快適に感じるでしょう』と......」

というわけで、やはり、「ノーブラだとバストアップする」とは、ゆめゆめ思わない方がいいようだ。